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第7回のべらっくす~幻想井の頭線

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こんにちはみどりの小野です。

今日はちょっと趣向を変えて、短編小説を書いてみました。

「バンビのあくび」という素敵なブログを書かれているえこさん(id:bambi_eco1020) が、のべらっくすという集いに参加していて面白そう!と思ったからです。

短編小説の集い、のべらっくす。今回のお題は『未来』です。

novelcluster.hatenablog.jp

初めてで、下手くそな上、直前まで読んでた本の世界観になってしまいました。

出来はともかく、せっかく書いたのでUPしてみます。

 

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 「幻想井の頭線」

  高井戸駅のホームで柳井は帽子のつばをまっすぐに直した。これは彼がイメージを作り上げる時の癖だ。 時刻は8時15分。朝の駅のホームは混雑している。もうすぐ同僚の電車が入ってくる。その2分後、柳井が新たな電車を作り上げ走り出すのだ。ダイヤを意識しながら、ミスの無いように。柳井はゆっくりと自分の電車を作り出してゆく。ステンレスの車体に走るグリーンと黄色のライン。柳井が学生時代に乗っていた205系。座席の色や配置もあの頃のままだ。車両は10両編成。本物との違いがないかゆっくり点検した後で、電車を線路へと出現させる。 ドアが開き、乗客はいつも通り車内へと乗り込んでゆく。柳井は電車そのものとなり、定刻通り発車した。 

 5年程前、初めて電車のイメージ化に成功したのは一人の車掌だった。  

 人間は自分の想像力を用いてそこに無いはずの物に、人に成れるようになった。でもそれらの幻想を上手く飼いならせるのはごく一部の人間だけだ。猫をイメージしようとしても大抵の人間は猫の全てを本当には知らない。耳のなかから爪の先まで、自分の中で完璧な一匹の猫を作り出せなければイメージは実体化できない。不完全な猫は一歩踏み出そうとして想像者が違和感を覚えた瞬間に消失してしまう。  

 伝説の車掌は真夜中の線路に自分がいつも乗車している車両と同じものを出現させた。彼は愛する電車そのものになり、人を乗せていつも通りの速度で走れた。燃費は掛からず清掃やメンテナンスの手間も要らない。幻想電車のテストは何度も繰り返され、やがて幻想線の第一号車両が誕生した。その後駅員や、鉄道マニアの中から自分の電車を作り出せる者が相次ぎ、今や都心の鉄道会社のほとんどが幻想電車を導入している。 

 それからまた時が過ぎ、柳井は新米の幻想電車運転手兼車掌、という立場からすっかり遠のいていた。今はただ駅に立ち、駅員としての仕事をするだけだ。メンテナンス要らずの幻想電車も摩耗していくことがわかったのは導入から10年が過ぎたころだった。実際には劣化するはずもない電車が少しづづ色褪せてゆく。想像者の意識の問題だった。毎日乗客を乗せていくうちにイメージが無意識に草臥れて行く。一度に出現させられる車両の数も減っていった。         

ホームに滑り込んできたのは新人が作り出す3000系。今は幻想電車しか知らない、という世代も多い。幻想電車に乗って育った人間が幻想電車を作り出してゆく。そこにあるのは本物だ、と信じていれば幻想は揺るがない。本物の電車を見て育った柳井は新人の3000系に少しの違和感を覚えたが、仕方が無い。本物の電車は数年前に製造が中止されたのだから。今でも走っているのは想像者の足りない地方ローカル線ばかりだ、と聞く。

 柳井はポケットの中の絵葉書を取り出した。菜の花の咲く田園風景の中を一両の古ぼけた電車が走っている。裏には去年退職した同僚の名前が書かれていた。 

 『元気か、柳井。俺は早期退職した後故郷に戻った。今後は畑でも耕して地道に暮らしてゆくつもりだったが、縁あって廃線になっていた地元の鉄道会社で働かせてもらえることになった。会社とはいっても社員は俺一人、2時間に一度のペースで区間を一両で走るだけだ。線路はガタガタ、もともとディーゼルが走っていた場所だ、架線すらない。だがあくまでも幻想電車。俺が電車だと信じていればどこででも走れるのだ。乗客は少ないが今はただ走れる喜びを噛みしめている。近隣の町村でも幻想電車の想像者を募集していると聞く。もう一度、走ってみないか?』

 桜の下や海沿いの道を走る自分の205系をイメージして、柳井は微笑んだ。

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いかがだったでしょうか?

この小説を書いたとき、三崎亜紀さんの「てのひらの幻獣」を読んでいました。   その中で幻の動物を作り出せる能力者、という設定があり、そこから鉄オタだったら電車作れそうだな~と思いつき書いてみました。

ただ地方在住のためあまり電車に乗ったことがなく、井の頭線もゴロで選んだので苦労しました。電車が好きだったらもっと面白く描写できたのかも。あとは見たままモードで書いていると行間に変なスペースができたりして揃わないのが個人的に気持ち悪くて。今度、HTML編集覚えよう、と新たな課題ができました。

面白かったので、次回はもう少し時間をかけてチャレンジしたいです。