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おのにちはいつかみたにっち

泉野明と夜の図書室

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こんにちはみどりの小野です。今日は高校時代の思い出の話。

私はエンタミクス(旧オトナファミ)という雑誌を愛読しているのですが、6月号の特集に「女性が憧れるヒロイン」というのがありまして。読んで憤慨しました。

私のヒロイン、泉野明がいない。最近映画やドラマ化で話題の「パトレイバー」のヒロインです。
中学生の時、自然体で頑張るマンガの彼女に憧れて、警察官を志望しました。(夢は高校生になり実際の警察はこんなんじゃないと気が付いたのと、運動神経の悪さから諦めましたが)
私は野明にはなれませんでしたが、野明みたいだな、といまだに憧れている人がいます。

私の出会った野明の話

 

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田舎在住で、読む本を入手するのに苦労していたあの頃の私。
高校入学時、学校の図書室にものすごく期待していました。
 
高校生になったら、高校生になったら。ハヤカワ百冊読めるかな。
実際はごく当たり前の古典名作全集だらけの(おかげで泉鏡花や「ノラや」に出会えましたが)カビ臭い場所で。
 
がっかりした私に救世主がいました。
それは私の入学と同時に採用された司書の先生。
その頃、学校図書館の司書教諭に関する法律が制定されて。
学校図書館司書教諭については、平成九年の学校図書館法(昭和二八年法律第一八五号)の改正により、平成一五年四月一日以降は、一二学級以上の学校には必ず置かなければならない。
いままで年配の本好きの先生の片手間で管理されていた図書室に、大学を卒業したばかりの若い女の先生が入ったのです。
 
先生は、図書室の古臭さと学生のための本を買う予算が他の教師たちの専門書代に充てられていることに憤慨し、改革を始めてくれました。
 
まず本の購入希望ノートを作り、私たちの欲しい本を買ってくれるようになりました。
 
雑誌なども、大人向けの政治経済や料理生活系の本の購入を辞め、詩や芸術、童話や本に関する雑誌を購入してくれました。
 
名作とよばれる古典SFの数々はみんなあの頃図書室で読みました。
「夏への扉」に「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」「虎よ、虎よ」。
 
それから大好きなファンタジー、「ベルガリアード物語」「マロリオン物語」。高校生の頃の私の心の恋人は鼻の曲がった小男シルクです。
 
好きな本を買ってもらうため3年間図書委員というしもべの道を選んだ私。
放課後遅くまで居残っては、手伝賃として先生にコーヒーとクッキーをご馳走になり、おしゃべりに花を咲かせてました。
 
「遠い太鼓」や筒井康隆の七瀬シリーズを教わって、SFにはまっていた私は梶尾真治や「たったひとつの冴えたやりかた」の話をして。
 
普段は高校生の私の悩み相談や本の話ばかりしていましたが、予算で高い専門誌を買わせようと命令してくる化学教師へのグチや、結婚、彼氏の話ばかり聞いてくる周りへの不満を聞くこともありました。あの頃は子供だったので気の利いた返しもできず、ただ学校の裏事情が面白くて内緒話をニコニコ笑って聞いていました。
 
大人になった今は解ります。
 
大学を出たばかりで、いきなり新しい部署に放り込まれ、たった一人の責任者で、年老いた教師たちは若い女の子扱いしかしなくて。
 
あの頃の先生の憤りとか、さみしさが、あの頃二人で食べたお月様みたいなバターソルトクッキーの味といっしょに蘇ってきます。
 
気が付けば私はあの頃の先生よりも大人になり、メイクだの服装だの、うまく立ち回る方法ばかり学んでしまいました。
 
長い時が過ぎて、「詩とメルヘン」を愛読していた少女は血と策略のミステリを愛する擦り切れた大人になって。
 
でも古本のにおいで夜の図書室を思い出して胸がつんとするとき、あの頃の少女が私の中にいることを思い出します。
 
そして記憶の中、ショートカットにノーメイク、飾らないチノパン姿で、予算をもぎ取ろうといつも懸命に駆け回っていたそばかすの先生の思い出は、野明の笑顔みたいにいつもキラキラと輝いているのです。