こんにちはみどりの小野です。
のべらっくす第8回、応募させて頂きます。
締切ぎりぎりでごめんなさい。今週はバタバタだったのですが今回はどうしても応募したい!と思って。だってテーマが緑!
どうぞよろしくお願いします。
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「登れ登れ登れ緑」
緑は側溝に落ちていたのを僕が拾った。
6歳の頃だ。小学校の帰りにドブ水の流れる側溝に両足を突っ込んで上を見上げる女の子を見つけた。黒い髪にみどりの瞳。可愛いけれど僕らとはどこか違う。
「何してるの?」
そう聞いた僕に彼女は答えた。
「家を見てた」
僕はそのまま薄汚れた彼女を僕の家に連れ帰った。
僕の家は太陽の家、という名前の児童養護施設だ。生まれてすぐに捨てられていた僕はここで育った。僕の拾ってきた女の子は身元不明、ということで保護され結局そのまま太陽の家で暮らすことになった。
みどりの目の彼女は緑、と名付けられた。緑は何故かいつも僕のあとをついてまわった。
「鳥のひなみたいに、大和が保護者だって刷り込まれちゃったのよ、きっと」
トイレまで覗かれてさすがに辟易した僕が愚痴ると先生が優しく言った。施設のみんなとは仲はいいけれど、家族とまでは思えなかった。ずっと一人だと思って生きていた僕には、保護者という言葉がとても甘く響いた。
それから僕は緑の面倒を見るようになった。いつも一緒。そのうち僕らはセットで扱われるようになった。
緑はいつも僕を探しているくせに、たまにふっといなくなる癖があった。
そういう時は大概藪や林の隅っこで膝をつき地面を眺め何かを探しているのだった。
「何を探しているの?」
一度聞いたことがある。
「種」
緑はそう答えた。
「大和と緑って、なんかすげえよな。お前らは、大人になってもずっと一緒にいる気がする」
2段ベットの上から、同室の友達がそういった時、僕と緑は16歳になっていた。
緑は高校に入っても僕と一緒で、たまに周りから羨ましがられることも増えてきていた。
僕も、ぼんやり未来の事を考える時、傍らには緑がいるような気がしていた。
夏の夜、学校の裏山でぼんやりと二人で月を見た。緑は空を見上げるのが好きだ。
いつものように僕の足を枕にして月を見ている。その黒髪を撫でながら僕は呟いた。
「このまま、ずっと一緒にいられたらいいな、高校を出た後も」
緑は僕を見て、それから空を見て泣きそうな顔をした。
「そうだね、私もずっと大和と一緒がいいよ、ここにいる限りは」
「どうしよう、大和」
緑が泣きじゃくりながら僕に言ったのは激しい雨の日だった。
「種を見つけてしまった、これを植えたら帰らなくちゃいけない、でも捨てられないの」
緑の手のひらには宝石みたいに光る一粒の種があった。
一目見ただけで、ああこれは幼い時から緑が探していたものだと分かった。膝に泥をつけて、地面にかがみこんで。
「どうしよう大和、私これを植えなきゃ、でもできないよ」
混乱した様子で泣きじゃくる緑の手のひらから僕は種をつかみ取り、
雨の降る外へと駆け出した。
僕は両手で土を掻き、種を埋めた。激しい雨を吸収するように種はすごい勢いで芽を出し、茎を伸ばした。
「大和!」
種の成長の速さに驚いて立ちすくんでいた僕の腕を緑が強く引いた。
さっきまで僕が立っていた地面を、異常な大きさの植物の茎が盛り上げてゆく。そして葉を広げ、凶暴なぐらいのいきおいで枝や茎が絡まりあい、上へ上へと延びてゆく。
種は、放っておかれた長い時を取り戻すかのように異常な速度で天を目指す。
雷がなって、空を照らした。種が目指す先、大きな黒い雲の上に、誰かがそこで待っている。見えないはずなのに、確かに僕にはそれがわかった。
「登れ緑」
僕は彼女にそう言った。雷の音は次第に激しく執拗になって、ようやく気が付く。
あれは雷ではないと。緑を呼ぶ、たくさんの人の声が絡まりあって聞こえてくるのだと。
緑は激しく首を振る。
「いやだ…大和と一緒にいるって言った!」
「ばか、行けよ!」
緑を種の方へ、元はひとつぶの種だった化け物じみた植物の方へつきとばす。
「大和は、それでいいの!」
叫ぶ緑の顔を僕は見ることができない。
「待ってろ!」
僕は叫ぶと雨の中を走り出した。
裏庭にある物置の扉を開け、大きな斧を掴み出しまた走る。
緑は斧を振りかざした僕を見て後ずさった。
「何をするつもり?」
「登らないならこの茎は僕が切り落としてやる」
「やめて大和!もう種は見つからない、これがきっと最後なの!」
緑は言いながら茎を掴んだ。緑の葉が、緑を引き上げるように彼女に巻きつき彼女の足が浮いてゆく。
「行け、緑!早く行かないと切り倒す!」
そういうと僕は異様な太さになった茎に斧を振り下ろす。
「大和!さよなら大和!」
緑はふっ、と覚悟を決めた顔になり、茎を登りだした。葉がどんどん彼女に巻きつき、異常な速さで引き上げてゆく。彼女の姿はすぐに見えなくなった。
それでも僕は斧を振るい続けた。
「登れ!」
本当は最初からわかっていた。
緑は帰る場所のあるひとだった。ずっとそこを探していた。緑の足はいつも僕の世界から浮いていた。それを引きとめたのは僕だ。
「登れ!」
僕にすがったのは緑じゃない。僕が手を繋いでほしい、と願っていたから彼女は僕の手が離せなくなったのだ。
「登れ!」
僕は卑怯だった。緑は時間を見つけては一人這いつくばって種を探していた。遠い寂しい目をして空を見上げていた。緑に孤独から解放された僕は、それなのに彼女の望みとは向き合おうとはしなかった。
「登れ!」
登れ登れ、さようなら緑。僕の未練を振り切って、いるべき場所へ還って行け。
やがて雨が止み、大きな茎はみるみる内に萎んで小さくなった。
何に斧をふるっていたのか分からなくなり僕は手を降ろす。手のひらににじんだ血と豆の跡だけが、そこに巨大な茎があった証拠だ。
どうかどうか。僕は空を見上げ名を知らぬ誰かに願った。
たった一つ、僕の宝物だった人の幸せを。
Fin
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いかがだったでしょうか?
今回はみどり、なのでおの、も入れたいなという大喜利精神で書きました。(なんだそれ)
そしたら「ジャックと豆の木」しか思いつかなくて。ちょっとロマンチックにしたつもり…ですが。
読みやすく短くしよう、と思ったら一人称になってしまいました(だいたい2500字)。そこが今回の反省点です。
次回は、三人称で、ちゃんと人の死ぬやつを…(ちゃんとがおかしい)
最近ミステリーから程遠いブログの、みどりの小野でした~。