文章や映像って、人の心を揺り動かす『チカラ』があるよなあ、といつも思っていた。
なぜ人は本を読んで泣くことができるのでしょうか。本はいわばただの字の羅列です。しかも、自分とは関係の無い架空の人物の物語です。
文字を追っているだけなのに。それなのになぜ泣くことができるのでしょうか。
本で泣ける人ってのは、長い人生の中で――問題に突き当たったり、何度も挫折したり、そこから立ち直ったり。でも、今もその問題で苦しんでいる人がどこかにいる。過去に自分がぶつかった問題だから、その人の苦しみが自分のことのようにわかる。たとえそれが自分とは無関係の他人でも、架空の人物だとしても、ですね。
小説の人物を自分のことのように、置き換えられるようになる。
苦しんでいるのがわかるから、自分も苦しくなる。そして、小説などで主人公が問題を乗り越えると、同じように喜びをえるんです。
それでカタルシスをえたり(心の中に溜まっていた澱のような感情が解放され、気持ちが浄化されること)
そして、実際に経験していない問題でも、物語の人物と同調できるようにもなりますしね。どうしてか? と聞かれたら、これから先、自分が同じような問題に直面するかもしれない。自分だったらどうするか? この物語の中の人はどうしてこうしたのか……そういうふうに自分と重ねられるようになるってことですね。それが、実際にはありえない出来事でも、そのとき、自分ならどうするのか――とかも考えるようになりますし。
そうなったら、自分とは関係ないはずの架空の人物の物語でも――自分と重ねられるようになり、物語の人物と一緒に、苦しんだり喜んだり泣いてしまうんですよね。
元気をもらう1冊ー「島はぼくらと」
母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷を巣立つ前に知った大切なこと―すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。
切なく、けれど希望が残るー「冷たい校舎の時は止まる」
切ない一冊は迷いましたがデビュー作、「冷たい校舎の時は止まる」を。
切なさと最後底に残るような希望、救いのあるラストは初期の辻村深月作品の特徴ですね。
ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の謎を追ううちに彼らは2ヵ月前に起きた学園祭での自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友(クラスメート)の名前が思い出せない。死んだのは誰!? 誰もが過ぎる青春という一時代をリアルに切なく描いた長編傑作。
学校に閉じ込められてしまった8人の高校生たちが自分の記憶を思い返していく。
密室のなか、次々消えていくクラスメイト達…というミステリー。
少し冗長すぎるきらいはありますが、初読の時「氷菓」を思い起こさせる青春ミステリがこう幕を閉じたか、と驚いた覚えが。
その後「ぼくのメジャースプーン」や「凍りのくじら」を読みどっぷり辻村深月に嵌ってしまいました。
目を逸らしたくなる、でも忘れられない沈む物語ー「水底フェスタ」
村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった―。辻村深月が描く一生に一度の恋。
今回この本のコピーを改めて読んで少し驚きました。一生に一度の恋!?
そんなシーンあったっけ?(主人公が年上のヒロインに抱く想いだろうか、それとも?)そう言いたくなるくらい、暗い怖い、ホラーのような一冊なんですが。
とは言え物語の最初は爽やか。フジロックがモデルになっているような“ムツシロック”が毎年開催されている小さな村。主人公とその父はその村でたっぷり音楽を楽しんで育つ。
最初はロックフェスを舞台にした青春小説といった雰囲気。
そこにヒロインが現れて、物語は暗い方暗い方へと転がっていく。
これが辻村深月!と読んだ時驚きました。こんな村ないよね、と思いつつでも…と思わせる所が地方を描くのが上手い筆者ならでは。
この作品のあと「鍵のない夢を見る」で直木賞、それから「ハケンアニメ!」と躍進を続ける辻村深月さん。
「ハケンアニメ」は是非アニメ化してほしい一作、続編も期待しています!
以上、辻村深月さんの色鮮やかな作品群の話でした〜。