元大学准教授、八雲はかつての教え子に誘われて「雲の倶楽部」という名の不思議なバーを訪れる。
店内に雲が浮かぶそのバーで彼が受け取ったのは太陽の色をしたタンポポのお酒。
金色のその小瓶は、八雲の人生に風を運んでくるのだった…。
川端裕人が描く、空の一族の物語『天空の約束』
今日は空の一族、という不思議な一族を巡る短編集の紹介です。
自分たちの『目』で、気象の変化や災害の予兆を感じられる空の一族。
戦時中から綴られる、彼らの天空に導かれる人生の物語。
恩田陸の『常野物語』や、筒井康隆の『七瀬シリーズ』のように特殊な力を持った人達の物語。
面白いのは彼らの力が天候の変化をいち早く感じられる、災害の前兆が感じられるというセンサーのような力だということ。
九つの短い物語で出来た短編集で、登場するのは全て空の一族の者たち。
時代を超え、彼らの歴史が綴られます。
元准教授、今は住宅デザインの仕事をしている八雲が不思議な小瓶の酒をきっかけに様々な人と出会う物語。
睡眠障害を持ち夢の中で先を見る眠り姫早紀と、彼女に力の使い道を教える黒髪の美少女椿先輩の過去を巡る物語。
一番切ないのは戦時中人質のように隔離された空の一族の子ども達が両親のいる長崎を目指し旅をする『文教区の子ら、空を奏でる』。
八月、長崎、と悲劇の匂いを漂わせた物語の結末は巨大な雲の下に隠れてしまいます。
そして最後の物語『雲の待ち人に、届け物をする』で物語は終結します。
はっきりとは明示されないけれど、底に希望を宿したようなラストが好きです。
暖かい気持ちになりました。
このシリーズは『天空の約束』の他にもう一冊、『雲の王』という長編が出ています。
やはり空の一族の血を引き気象庁に勤めるシングルマザーのヒロイン美晴と息子の楓大が巻き込まれる壮大な気象の物語。
飛行機で台風の中に飛び込む『ハリケーン・ハンター』というかなり危険な観測方法があるのですが、それ以上にワクワクするシーンが満載です。
『天空の約束』は懐かしく泣ける短編集、『雲の王』は臨場感ある描写でグイグイ引き込まれるスリリングなエンタメ。
刊行は『雲の王』が先ですがどちらから読んでも大丈夫。
まだまだ続きがありそうで、この先が楽しみなシリーズです。
気象を巡る科学と異能の力の物語。
空の一族に、あなたも出会ってみませんか?