2016年の「このミステリーがすごい!」が発売されて、一番嬉しかったこと。
それは北山猛邦さんの「オルゴーリェンヌ」が10位にランクインしていたこと!
このブログでも過去に紹介している北山猛邦さん。
物理トリックに定評があり、『物理の北山』と称される北山猛邦。
いつも世紀末・終末的イメージのある舞台で物語が綴られます。
どこかSFチック、ファンタジーや童話めいた世界で語られる新本格ミステリ。
2002年にメフィスト賞受賞でデビューした作家さんですが、このミスベスト10入りはこの作品が初!
長かった~。
来年は北山猛邦が来る!
今日はそんな確信を持って、受賞作「オルゴーリェンヌ」の前作「少年検閲官」を紹介致します。
北山猛邦「少年検閲官」はディストピア世界のミステリィ
このミス10位の「オルゴーリェンヌ」は「少年検閲官」から始まる〈少年検閲官シリーズ〉の第二作です。
なので読むならやはり物語の始まり「少年検閲官」から読んで欲しい。
物語の舞台は書物の所持が禁止され、焚書が当たり前になった世界。
環境汚染が進み、水位が上昇し陸地は減少している。人々は規制されたラジオだけを頼りに情報を得る。
本を見たこともない14歳の少年クリスは、しかし潜水艦乗りの父からミステリを聞かされて育つ。
父を亡くし、旅に出た彼は異国の地で探偵と首を切られた死体の話を聞く。
書物が、ミステリが失われた世界でどうやってトリックや謎の意味を理解できるというのか?
本が駆逐され探偵も失われた筈の世界。
犯罪や、殺人という言葉すら知らない閉ざされた町で起きた連続猟奇殺人事件。
旅人クリスと、謎を解くために町を訪れた検閲官エノ。
二人は謎を解くことができるのだろうか…。
あらすじはこんな感じでしょうか。
猟奇殺人事件が起きた町のお話。
まるで映画「ビレッジ」を思わせるような閉鎖的な町で起きる不思議で不気味な事件。
少年が主人公で、表紙のイメージ通りどこか童話チックなストーリー、語り口は物理トリックを期待して手に取る人には違和感があるかも。
私は長野まゆみさんの世界を思い出しました。
でも童話仕立ての世界で語られる不思議な謎解き、ロジック。
結末を知って『あのシーンはこういうことか!』ともう一度読み返したくなる愉悦。
最後の手触りはやっぱりミステリ!
探偵が失われた世界の探偵。
ミステリが禁じられた世界のミステリ、というパラドックスの物語。
童話仕立ての物語の底にざらりと残る真っ黒な舌触り。
表面の白さに騙されてカプチーノかと思ったら、底にどろっと豆の残ったトルコ珈琲だった。
そんな読後感の作品でした。
後日書くけど、次作「オルゴーリェンヌ」がやっぱり面白いのでまずはこれを読むべし!備えるべし!
探偵が失われた世界の探偵、といえばこのシリーズもいいですね。
では今回も急ぎ足ですが、またね!