今日の東京は大雪らしい。
ずいぶん昔の、初恋の話を思い出したので書いてみる。
私は5歳になるまで東京の三鷹市に住んでいた。
同い年の子供が近所にたくさんいて、いつも一緒に遊んでいた。
3歳くらいの頃、初めて東京に雪が降るのを見た。
ワクワクして公園に行くと友達は誰もいない。
がっかりしているとけんちゃんという男の子が声をかけてくれた。
自転車に一緒に乗ろう、と言ってくれた。
私はけんちゃんの補助輪付き自転車の後ろにのって、自転車のタイヤが雪の上に絵を描くのを見ていた。
次の日の朝には消えてしまうようなささやかな雪だったけれど、とてもきれいだと思ったことを覚えている。
けんちゃんはしっかりした男の子で、それからも足が遅かったり何かとどんくさい私とよく遊んでくれた。
私もけんちゃんけんちゃん、と彼の後ろをついて回った。
けんちゃんが意地悪になったのは4歳くらいの頃だっただろうか。
いつも私に意地悪な男の子がけんちゃんに言ったのだ。
女子連れて歩いてる、かっこわるいぞ。
それからけんちゃんは私に冷たくなり、後ろをついてくるなと言った。
その頃になるとだんだん男女の境目が出来て、遊ぶ時は女の子同士で遊ぶようになった。
それでも一人で歩いているケンちゃんを見かけると手を振ったりしたのだけれど、ケンちゃんは無視したまんまだった。
5歳になり、私は北海道に引っ越すことになった。
保育所や近所のお友達がたくさんプレゼントをくれた。
寂しくなるって泣いてくれた。
いつも意地悪な男の子たちもお別れ会の日だけは優しかった。
でもけんちゃんは、そんな様子を横目にみても絶対に私に話しかけなかった。
最後のお別れ会も、けんちゃんだけは欠席だった。
北海道へ旅立つ朝、車に乗った私達にけんちゃんのお母さんが声を掛けた。
「けんがどうしても最後に挨拶したいっていうから、握手してあげて」
見るとそっぽを向いてふくれっ面のけんちゃんがいた。
きっとお母さんが無理やり連れてきたんだ。
私はどうしてけんちゃんにこんなに嫌われてしまったんだろう。
どんくさいからいけないのかな。
悲しくて、泣きそうになりながら握手をした。
けんちゃんはずっとそっぽを向いたままだった。
それから何十年も経ったある日、私は保育園の息子を叱った。
他の保育所に移ってしまう女の子のお友達が帰り際に「バイバイ」と言ったのにそっぽを向いて「バーカ」と言ったのだ。
こら!と息子を叱りお友達や彼女のお母さんに謝った。
息子はその日お風呂の中でポロポロ泣いていた。
なんで○○ちゃん違う保育所に行っちゃうの、いやだー、と泣いていた。
男の子の本心はいまでも分からないままだ。
あの日のけんちゃんの自転車のわだちの跡が、雪の上に見えた気がした。