今日は夏が近づくといつも思い出す、本当にあった少し怖い話。
結論も答えも出ないのですが、だからこそ何となく怖い。
水辺に行くといつも思い出してしまうお話です。
この話を聞いたのは十数年前。
友人の消防士の男性からでした。
ある暑い夏、彼は当時付き合っていた彼女とダムに行ったのだそうです。
田子倉ダム、新潟との県境にあり、全国屈指の規模を誇る大型ダム。
ソフトクリームを食べながら堤防の上を歩くと、目を惹く姿がありました。
白髪の夫婦とおぼしき2人連れ。
この暑いのに、喪服姿。
葬儀か法事の帰りか?でもここは市街地から離れているし、着替えずに来たのだろうか?
色々疑問には感じたものの、すぐに忘れて景観を楽しんでいました。
帰り道、堤防の真ん中辺りで仲良く佇む夫婦の後ろを通りました。
夫婦は楽しそうに話しています。
「あの辺か?」「ええ、あの辺」
二人は湖面を指さしながら笑っています。
何かあるのだろうか、と指の先を見ましたがそこにはただ水面があるだけ。
喪服姿と、楽しそうな笑い声、何も無かった指の先が気になって、記憶に残ってしまったのだそうです。
次の年の夏、彼は水難救助の訓練で件のダムでボートに乗っていました。
要救助者役の人形を水底に沈め、潜水士がロープを結びそれをボートから引き上げる救助訓練です。
人形を探しに潜った潜水士が微妙な顔で上がってきました。
「人骨を見つけちゃったんですが…引き上げてもいいですか?」
実はそのダムは入水のメッカ。
亡骸を引き上げるのにもお金がかかるので、警察の許可を取らなければ触れないのだそうです。
結局人形ではなく人骨を救助する羽目になった彼。
ようやく全てを引き上げて、ふと堤防を見たときに気が付きました。
そういえば、あの夫婦が指さしていたのはちょうどこの辺だったよな…と。
「あの辺か?」「ええ、あの辺」
楽しそうにも、嘲笑するようにも聞こえた笑い声。
翌日の新聞には身元不明の白骨について短い記事が載りましたが、報道はそれきり。
あれが誰だったのか、死因はなんだったのか。
すべては謎のままです。
なお、田子倉ダムには大人気のダムカードあり〼。小説の舞台にもなっています。