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おのにち

おのにちはいつかみたにっち

ビジョルドが送る傑作ファンタジー「チャリオンの影」

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晴天続きの五月も終わり、だんだん梅雨入りですね。
植物にとっては恵みの雨ですが、食べ物はすぐ腐るし、外で遊べないのでリビングが小学生男子に埋め尽くされています。

雨で少し湿った男子が一杯いると、家の中はなんだかアリの巣みたいな匂いがしますよ、ファンタスティック!(泣)

こんな時はせめて素敵なファンタジーを読んで人間らしさを取り戻そう。

 

という訳で今日は大好きな作家ロイス・マクマスター・ビジョルドの異世界ファンタジー三部作<五神教シリーズ>を紹介します。

人間描写の豊かさにかけては傑作ファンタジー「氷と炎の歌」シリーズにも負けていない、と思う大好きなシリーズです。

全6巻3部作。週末にちょうどいいボリュームです。

ビジョルドと言ったら傑作SF「ヴォルコシガン・サガシリーズ」ですが、1986年から始まったのにいまだ完結していない、というかなり長期戦の物語なのでこちらの紹介はまたいつか。

ちなみにファンは「ヴォルコシガン・サガシリーズ」、マイルズ君にハマることを「終わりなきビジョルド坂」と表現します。

私?登ってますとも、高校生の時から終わりなきビジョルド坂をな…。
だんだん終わりが見えてきてかなり寂しい(そんな悠長なこと言ってたら生きてるうちに最終巻が読めなかったりして…まさかね!)。

 

主人公は35歳の老人?「チャリオンの影」 

  

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

 

 

チャリオンの影 下 (創元推理文庫)

チャリオンの影 下 (創元推理文庫)

 

 

<五神教シリーズ>は異世界ファンタジー、と銘打たれていますが中世スペインがモデルになっています。十世紀頃から十五世紀にかけての、イベリア半島のキリスト教国とイスラム勢力の戦いがモチーフ。

五神教と四神教の戦いを描いたこの物語は、キリスト教とイスラム教の戦いが基になっているのです。

シリーズ第一作、「チャリオンの影」の主人公は三五歳の中年男カザリル。

まだ若い彼ですが、戦に負け一年半以上も奴隷船での労働を余儀なくされ、まるで老人のように疲れ果てています。

 

ストーリーはこんな感じ。

 元は領主で砦の城代を任されていた彼は、戦乱の中身代金が支払われない、という手違いがあり奴隷としてガレー船に売り払われてしまう。

ようやく解放された時には身も心もくたびれ果て、高潔だった精神は折れてしまっている。

何もかも失った彼は子供の頃に小姓として仕えた藩妃を頼り、彼女の孫娘であり国姫イセーレの教育係となる。

 しかし宮廷には黒い影が渦巻き、国王は命を落としイセーレの母イスタも心を病んでいた。
イセーレ、そして彼の弟テイデスと共に宮廷に上がったカザリルは王の一族、国に降りかかる呪詛と戦う羽目になるのだが…。

 

個性豊かなキャラクター達が国を覆う呪いを解き放つために神々の力を借り、時には振り回されながら(この世界では神は象徴ではなく人の世界に力を及ぼします。ただし人の体を借りてしか奇跡を起こせないので、神に関わったものたちはいやおうなしに振り回される羽目になります)奮闘する物語。

最初からボロボロのカザリルは戦いの中でもう一度自身を取り戻し、年若い従者ベトリスとの不器用な恋、それから国を救うために命を賭けて陰謀の渦中に飛び込んでいきます。

スタートは奴隷、その後は国姫の教育係となるものの、国姫を救い自身の復讐を果たすための命がけの死の魔術の失敗で、体内に悪魔を抱え込む羽目になるカザリル。

国を、一族を覆う呪いとは何なのか。
宮廷で何が起きたのか。

体内に呪詛を呟く人面瘡を抱え、激痛だわ下血はするわ、ひどい目にあうカザリル。
満身創痍の彼は国姫イセーレを救い国を立て直すことができるのか?

とにかくハラハラする展開のファンタジー。
なにより主人公のよれよれっぷりが面白い。こんな彼がどうやって国を救えるのか?
そこがこの物語の一番面白い所。

死にかけの主人公の奮戦にワクワクして下さい。

 

孫持ち、アラフォー未亡人の恋と冒険「影の棲む城」

 

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者: ロイス・マクマスター・ビジョルド,Lois McMaster Bujold,鍛治靖子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2008/01
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影の棲む城〈下〉 (創元推理文庫)

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  • 作者: ロイス・マクマスター・ビジョルド,Lois McMaster Bujold,鍛治靖子
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シリーズ第二作「影の棲む城」の主人公は国姫イセーレの母イスタ。
「チャリオンの影」から三年後、イセーレの祖母、自身の母親でもある藩妃を亡くし、弔いのために巡礼の旅に出た未亡人の彼女は国境付近で敵国の兵に襲われる。

 捕えられ、捕虜になったところを助けてくれた男はかつて彼女の夫と恋仲だった男の息子。

黒髪のアリーズと共に、彼の妻の待つ城へ招かれたイスタ。
彼女はそこで、アリーズと彼の異父弟イルヴィンに起きた異変の謎を解く羽目になるのだが…。

 とにかく、物静かで慎ましやかに『見える』寡婦イスタが魅力的。

若い頃は国に降りかかる呪詛との戦いで、心を病んだような状態で過ごしていた彼女。
神に触れられた彼女が見たものはすべて真実だったのだけれど、周囲からは理解されず狂人扱い。

 頼りたかった夫は愛人に夢中だし、大切な子供たちは呪われて、いつ命を落とすかも分からない。そんな日々からようやく解放された彼女は自分の役目は終わった、帰路のない道を行きたい、と願っている。

 

無口で控えめ。国太后らしくない気さくな性格のイスタ。
でもその中には鋼のように強靭で、死さえ恐れない精神が潜んでいる。
彼女の魂は死よりつらい苦悩を乗り越えてきたのだ。

狂人として、幼子のように扱われてきた彼女は、旅の中で自身の勇敢さ、強さを取り戻していく。

彼女にとって神様に見込まれたことはとんでもない厄災。
悪態はつくし、隙あらば逃げ出したい、もう構わないで、なんて思っている。

でも彼女は自分の使命から逃げない。悪態をつきながらも、極めて現実的に目の前の出来事を片付けていく。

そんな彼女が最後に手に入れたものは何だろう?

傷を負わない男と、眠りながら血を流す男、夫を狂信的に愛する若き妻、それから魔術が絡まり合う傑作ファンタジー。

なにより神様だって敵わない鋼の意思のヒロインが最高です。

ラスト、思いがけない恋に出会ってしまった彼女の満喫っぷりにニヤニヤが止まりませんでした…。いいっ!

 

狼男と豹女の物語「影の王国」

 

影の王国 上 (創元推理文庫)

影の王国 上 (創元推理文庫)

 

 

影の王国 下 (創元推理文庫)

影の王国 下 (創元推理文庫)

 

 

同じ<五神教シリーズ>ではあるものの、前作のキャラクターは出てこない独立した物語が「影の王国」。

35、40歳と中年が主役だった渋い物語はぐっと若返って25歳の青年の物語になる。

この作品の主人公、イングレイも一筋縄ではいかない厄災を背負っている。
幼い頃に父親の狂った魔術に巻き込まれ、魂の中に狼が混ざってしまっているのだ。

この世界では魔術を使って死せる生き物の魂を精霊として封じ込めることが出来る。

でもその魔術は禁じられているので、イングレイは幼いころから火責め、水責めの過酷な修行を受ける羽目になる。

いかなるときにも自分を失わない精神力を身につけたが貴族としての地位を失い、今は他人に仕える身。

そんな彼が王子殺しの女を都まで連行する任務を受ける。
彼女の名はイジャダ。

狂った王子の死の魔術に巻き込まれた彼女は、その魂の中に豹の精霊を宿してしまっていて…。

豹の精霊、なんて聞くとグイン・サーガを思い出しますね。
冷静な精神を手に入れたはずのイングレイ。
しかし彼女の美しさに魅せられ、自制がきかない。
彼女を愛しているけれど、自分の中の狼は隙あらば豹を噛み殺そうと狙っている。

最初に書いたように、 前2作は共通のキャラクターが登場しますがこれは五神教という宗教だけを同じくした別の国の独立した物語。
(全2作も繋がってはいますが別々でもストーリーは理解できますし、楽しめます。)

 一番若いキャラクターが登場するこの作品が一番暗く、宗教色が強いです。
もちろん大ベテランビジョルドの手腕でキレイにまとまっていますが前作ほどのカタルシスがなかったかな?

ただこのシリーズ、一応完結、となってますがまだまだ続いていても可笑しくはない。

5人の神様たちの出番はまだまだ残っています。

「影の王国」のほんの少しの物足りなさは続編で埋められるのかも…と楽しみにしております。

 私は「影の棲む城」「チャリオンの影」「影の王国」の順番で好き。
中年主人公が白髪が、腰が…なんてぼやきながら戦うファンタジーってちょっと珍しいんじゃないでしょうか。

ファンタジーの中に溢れるそんなリアルが愛おしい、ちょうど中年の私です。

ファンタジーは若者のため、だけじゃないのです。
ちょっぴりくたびれた大人こそ楽しめるファンタジー。

是非雨の日に、読んでみてくださいね。