おのにち

おのにちはいつかみたにっち

病院のあさがお

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父が最近まで入院していました。
退院祝いの席で素敵な話を聞いたので今日はその話を。

 

父が入院していた病院には広々とした屋上庭園があった。
そこで自由時間に缶コーヒー(胃の手術で入院したのに!)を飲むのが父の毎日の楽しみ。

夏休みになったばかりの頃、父は屋上で小さな朝顔の鉢に水をやる男の子を見かけた。学研のセットのようなプラ鉢に黄色い支柱。
白い短冊に子供の文字に名前が書いてある。

夏休みの宿題か、うちの孫と一緒だ。

毎日同じ時間に、男の子はやってきて朝顔に水をやる。
その姿を眺めるのが父の小さな楽しみになった。

ある日から太郎くん(仮名)は来なくなる。

外科手術を受ける人が多く入院してる病院なので、手術を受けたんだろう。
そのうち顔が見られるかな、と父は思っていた。

 

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しかし太郎くんの朝顔に異変が生じ、父は疑問を抱くようになる。
太郎君の姿は見えないのに朝顔の鉢はいつも濡れている。
濡れているところが最近苔まで生えてきて、根が腐ってしまいそうだ。

これはどうしたことか、妖怪のせいなのか?


父の疑問は看護師長の説明によって解消される。

太郎くん(仮)は1年生。
夏休み、手術の為に病院に入院することになった。
彼の気がかりは学校から持ち帰った自分の朝顔。
お母さんが代わりに水やりをしてくれる、と言ったのだけれどどうしても自分で育てたい。

朝顔と一緒に入院したい太郎くんのために、病院の屋上が提供されることになった。
毎日せっせと屋上に通う太郎くん。
ところが手術が終わり太郎くんも1週間ほど病室から外出禁止に。
大切な朝顔の世話は看護師さん達に任された。

ならば私が!と張り切った看護師長。

しかし師長が出勤する前に他の患者さんたちが水をやってしまうのだと言う。
父のように太郎くんを見守っていた、心配している患者さんたちが土が乾く間もないほどにかわるがわる水をやる。

そうやって水を貰いすぎ、しおれてしまった朝顔に「元気がない!」とさらに注がれる水。

かくして太郎くんの朝顔は苔が生え、葉っぱは茶色。
枯れる寸前になってしまいました…。

 

この話を聞いて私は泣きそうになりました。

太郎くんの朝顔にとっては有難迷惑なんだけど、色んな人が太郎くんを見守って、心配してくれていたんですよね。

子どもに冷たい社会なんてニュースをよく見ます。
でも現代は通報や不審者情報に覆われた世知辛い世の中。

表だって優しくするのが難しくなっただけで、小さいものを守りたい助けたい、そんな気持ちは変わっていないのではないか、と過剰な愛でしおしおになった朝顔に思ったのです。

 

と、まぁここで話が終わったなら新聞に投稿したくなるようないい話だったのですが。

気になりますよね、重い愛情でしおしおになった太郎くんの朝顔のその後。
太郎くん、がっかりしなかったかなぁ。

父も師長に聞いたのだそうです。
しかし師長は不敵な笑みを。

「大丈夫!こんなこともあろうかと同じ色の朝顔買ってきて職員玄関で育ててますから!」

師長っ⁉

かくして太郎くんは師長がこっそり植え替えた朝顔を胸に抱いて、元気に退院していったのだそうです…。

めでたしめでたし、なのか⁉みんなの愛割と台無しだぞ⁉太郎くんは欺かれているぞ⁉

とりあえず師長は真夏のサンタさんだった、ってことで。
もしくはジェバンニが一晩でやってくれました、ってことで。

奇跡にしといてあげましょうよ...。

だからこの話は福島の太郎くんだけには内緒だよ!しーっ!

夏休みはまだまだこれから。
太郎くんの朝顔が、たくさん花を咲かせてくれるといいですね。