【はてなブロガーズインタビュー】第4回!
今回は「カプリスのかたちをしたアラベスク」というブログ名から不思議な男、若布酒まちゃひこさんのインタビューです。
下乳(真顔)大好き。ちょっと面倒くさい、でも文章はエッジィで純粋で。
独特な雰囲気を持つブロガーさんだと思います。
今日は若布酒まちゃひこって何で出来てる?というお話。
「カプリスのかたちをしたアラベスク」若布酒まちゃひこインタビュー
ー(インタビュアー)まずは簡単な自己紹介をお願いします。
(若布酒)若布酒まちゃひこです。子どもを育てながらお家で文章を書く仕事をしています。
ーブログ名、若布酒まちゃひこという名前の由来は?
ブログ名:好きなギター曲から(F.クレンジャンス作曲 カプリス様式のアラベスクOp.99)
筆名:「わかめ酒」という言葉を女のひとにためらいなく発声してもらいたかったため。「まちゃひこ」はすごいよマサルさん!より拝借しました。
ーわかめ酒⁉ブログ名がO-tintinな人を思い出しました。同類かっ!
ーはてなブログを始めたきっかけはなんですか?
4年前にアメリカに留学したときに日記をつけるため(そのほとんどは今は削除してます)。
それと小説の文体を作るための練習として始めました。
ー4年前?ブログ開設はいつだったのですか?
2012年の4月です。
当時はアメリカのピッツバーグという街に住んでいて、
ーブログを始めてみて、感じたことは?
長く放置していた期間があって、特にブログを書くことに対しては何も感じませんでした。
再開して、ブログでお金もらえると知って露骨に万人ウケを狙った記事を書きはじめてからは、「なんかやだな」と違和感を感じました。
ーなんかやだな、とは?
そういえば最近バズっていたこの記事は、タイトルの付け方がいつもと少し違っていたような気がしましたが。
やだな、というのはじぶんの思考、思考する方法(文体)の確認のために書いていたのに、他人を想定すると「伝えなきゃいけない」ということに気づいてしまったことです。
ことばについて、伝えるためのツールとして特化させなきゃいけないというのは、もともとぼくがある程度確信していたものと対極にあたるのがふつうにつらいです。そもそも、じぶんであれ他人であれ、「共感・理解する」ってことに執着することで、いろんなものをそぎおとさなきゃならない。理解や共感って、おもいかえしてみると、いいかたは悪いですが「ひとを騙す」ときにしか使ったことがなかったんですよね。
新海誠の件は、純粋にクリックしてもらうことだけを狙ったというだけです。内容じたいはタイトルとそんなに関係なくて、あれを読んで新海誠のみかたをひろげられたら…とはおもったのですが、現実はあまくないことをおもいしらされました。
ー理解や共感って、「ひとを騙す」ときにしか使ったことがなかった⁉
共感・理解する、のためにそぎおとさなきゃならないものがある。
もしかしたらそれが個性なのかも。
「みんなに分かるように書く」を目指しすぎると文章が画一的になってしまう気がします。あえて「伝えようとしなくても」伝わる何かはある。
そこら辺のバランスが難しいです。
タイトルの件は、ホッテントリ入りすると本文は読んでない人が必ずいるような気がするんですけど…。
ーはてなの前にブログサービスなどは利用されてましたか?
なかったはず。
ーはず…?
ー趣味はなんですか?
クラシックギターを弾くことのはずですが、最近はほとんど弾いていません。
ーはず…?
ー今一番ハマっていることは?
強いて言うなら青木淳悟のことを考えることだと思います。
ーこの記事で紹介されていますね。
記事中の、読み解こうとせずに、いかにあさはかに読書するかが実はめちゃくちゃ大事なんじゃないか、という部分が面白かった。
でもあさはか、なんて言いながら読み解かないように読む、って実は難しくないですか?
そもそも「読み解ける」というケースなんて、小説を離れたときにまずありえないとおもえてしまうんですよね。だいたいのことは理由も意思もなく突然起こってしまうので、「読み解けることに期待する」ということをまず捨てたほうがいいんじゃないかって。
でも、ひとの手によってつくられた世界、っていうメタ的な構造が読み手によって無意識的に導入されてしまうと、小説を追い詰めていくような読書しかできなくなってしまう。与えられた文章に解釈なり教訓なりをおぼえるのはもちろん読書に与えられた自由ではあるのですが、それによって失われてしまうものって、ぜったいにあるとおもうんです。それは読者にとってはいいかもしれないけれど、小説にとってはけっこう不憫におもえるんですよね。
だからまず、「文章=伝えるためのツール」というものをどれだけ捨てられるか、というのがだいじになるとおもいます。主題をいかに的確につかむかというのはあまり読書で重要とはおもえなくて、テクスト化された生をどう生きるかというほうが、はるかにおもしろいとおもいます。文学うんぬん以前に、そういう読書をしてるなぁってひとにあこがれをもっています。
ーテクスト化された生をどう生きるかというほうが、はるかにおもしろい。
純粋に物語の世界に没頭していた頃を思い出しました。
ー文学にハマったのはいつ?
博士課程に進学する直前くらいに、たまたま川上未映子の詩集「先端で、さすわさされるわそらええわ」を読んだのをきっかけにいろいろ読み始めた気がします。
それ以前は、安部公房とか夢野久作とかをぼちぼち読んでいた気がします。ちっちゃい頃は、空想科学読本くらいしか読んでませんでした。
ー書くときに心がけていることはなんですか?
書けるものを書く、につきます。
ーシンプルだけど大切なことですね。
ー小説を書かれているそうですが、作品について、少しだけ紹介してください。
基本的に筋のないものばかり書いているのですが、比較的最近に書いたわかりやすいものでは「存在しえない作家が書いた小説を20世紀文学史の文脈で批評する」というレムの「完全な真空」のパロディ的な話があります。けっこう褒めてもらえたので調子に乗りました。
―気になります!
ブログでも短編がいくつか公開されています。
ー小説、ブログ。書く上で一番違うと感じる所は?
嘘の数ですね。
ーなるほど!
渋谷直角さんやフミコフミオさんといった、真実と虚構の境目が分からないブロガーさんもいますが、実は本当だったりして。
ー好きな作家、作品名を教えてください。
ボラーニョの「2666」が最近読み終えたものの中では素晴らしく良かったです。
あと、個人的に大事な小説は
ガルシア=マルケス「族長の秋」
トマス・ピンチョン「重力の虹」
ケリー・リンク「マジック・フォー・ビギナーズ」
ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」
木下古栗「Tシャツ」
が挙げられます。
あと、特別な思い入れがあるものとして
リチャード・パワーズ「ガラテイア2.2」
ー「ガラテイア2.2」への特別な思い入れが知りたいです!
あれはパワーズの私小説的な色がつよい小説で、メインの話は「AIに文学批評をさせて修士号をとらせる」というものなのです。はっきりいって、パワーズのなかではそこまでおもしろいものじゃないんですけど、物理学者を目指して大学にはいったのに、ひとつの領域にとらわれる息苦しさになやんで文学の大学院にいくパワーズのすがたが描かれているのがなんかいいんですよね。「僕はこの街で最愛の物理学をうらぎり、文学と寝た。」という文章が序盤にあるのですが、似たような経験があるので、あー、ってなります。
ーあー、ってなる本。それは痛いけど忘れられない。
- 作者: リチャードパワーズ,Richard Powers,若島正
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ー今年会社を卒業して、フリーランスになりました、と書かれていました。
踏み出すきっかけはありましたか?
嫁が復職するので、誰かが子どもの面倒を見なければならない状況になったというのが大きいです。前向きな独立というより、むしろ後ろ向きなきっかけでした。広い心の嫁でよかったです。
ーフリーランスになって一番かわったと思う事は?
税金云々と勤務地、お給料が変わったことになるのですが、場所を選ばず働けるというのは一番大きいなぁとおもいます。それ以外は実は会社員と本質的にそんなに変わらないような気がします。
ー一日の過ごし方を簡単に教えてください。
6時半:起床、朝ごはん、身支度、子どもに飯を食わせる
8時:子どもを保育所に送る
8時半〜16時:発注をもらっていれば仕事、それ以外は読書か小説を書くか
16時半:子どもを迎えに行く
17時〜19時:子どもをあやす、寝たら家事、ブログを書く、夕飯の準備
20時:嫁帰宅、飯
〜24時:子どもを風呂に入れる、読書、寝る
ー規則正しい。書く時間が長いですね。
ー(ツイッターについて)いつも考えさせられる、刺激的な発言が多いです。
たとえばこのブロガーの書評ブログに関する話。
ブロガーの書評ブログが好きになれないのは、「何が書かれているか」にとらわれすぎて「どう書かれているか」に無頓着すぎるというか、基本的にあいつら文体というものを読もうとしてないからというのはある。
— 若布酒まちゃひこ(び) (@macha_hiko) 2016年9月8日
目の前の文章は何が書かれているか、というのは大前提として読めなきゃいけないけど、この文章で何が起こっているか、というのをもっとちゃんと書いてほしい
— 若布酒まちゃひこ(び) (@macha_hiko) 2016年9月8日
ー『文章で何が起こっているか、というのをもっとちゃんと書いてほしい』
この部分をもう少し詳しく教えて頂けたら嬉しいです。
なんというか、結局は読み方のことになるのですが、ゼーバルトっていう人の文章とかを読んでもらった方がわかりやすいとおもいます。
ブロガーのひとの書評をたくさん読んでいるわけではないのですが、話の筋や主題にだけフォーカスされていて、それ以外のものたちをきりすててしまっている印象を受けます。
特に最近は「人称の問題」や「ことばが発せられることで顕在化する認知運動」みたいなものを切実な問題とした小説がふえてきているのですが、なかなかこういう小説を好きになってしまったひとたちというのは村八分にあってしまう。そういうひとたちにとって「共感」とか「テーマ」とかを軸に小説の話をされちゃうとなかなか不憫な思いをすることになります。
「文章でなにが起こっているのかちゃんと書く」というのは、あえて乱暴にいってしまえば「語り(文体)が読める」ということになるのですが、意外とそういうひとがすくないのに愕然としました。なんというか、読みやすいもの、わかりやすいものを脊髄反射的に「価値」とみなしているのでは?と思えてしまうたび、くらい気分になります。
ーなるほど、最近は「人称の問題」や「ことばが発せられることで顕在化する認知運動」みたいなものを切実な問題とした小説が増えている、と。
私自身物語の筋や主題に囚われている、と思います。
ーご自身で書評を書くときに一番重視している所は?
アクセスやバズが欲しかった時期は本の魅力を伝えることを考えていましたが、それも結局安易な方向に流されてしまって。肝心の読書の質がものすごく下がったのでやめました。
いまは小説を読みながら考えたことを考えたまま書こうと思ってます。
ー考えたことを考えたまま。結局そういうことなのかも。
ーご自身のブログで思い入れのある記事を教えてください。
・留学時代の写真
いちおう原点的な意味で。
・好きな作家(海外文学編)
海外文学が好き、というわけじゃないですが、結局ほんとうに好きな小説は海外に固まります。
・モンティ・ホール問題
バズ狙いの記事でしたが、そこそこたのしくかけた記憶があります。
プラテーロとわたし
「文章の表面で起こること」について、割と真剣に考えてた時期の記事だと思います。だいぶあさはかですけど。
ーこれからの夢、やりたいことがあったら教えてください。
理論の色が強い科学とか、大衆性の低い文学とか、そういうものが好きになってしまったひとがもっと生きやすい世の中になればなぁっておもいます。具体的にすることもあらかた決めてはいるのですが、現段階でいうことはできません。
いまはボラーニョの2666よりすごい本を読むことが夢です。
ーありがとうございました!
インタビューまとめ:若布酒まちゃひこと2666の夏
若布酒まちゃひこさんにインタビューを申し込んだのは夏の暑い盛りでした。
今は秋風が吹き始める季節。
なぜこんなに時間が掛かったのか、というとすべては ロベルト・ボラーニョの「2666」のせいなのです…。
- 作者: ロベルトボラーニョ,野谷文昭,内田兆史,久野量一
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2012/09/26
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 13回
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若布酒さんはいつも様々な小説について語ってるブロガーさん。
そんな彼にインタビューする前に、彼の好きな本を一冊でも読んでおきたいと思いました。
たまたま目に留まったのがまちゃひこさんが読み終わったばかりの「2666」。
Amazonであらすじを確認し、面白そう!ポチっと…しようとして踏みとどまりました。
7560円!880ページ2段組み!
高いわ!厚いわ!
取りあえず県立図書館にあったので取り寄せしてみることに。
届くまで1週間、本の貸出期間が3週間。
3週間、コツコツ読んでいましたがこの厚さ!終わらねぇ!
筋だけを追って行けば、なんとか読み終わらないこともないのです。
でも文体が美しくて丁寧に読みこみたくなってしまう。
これと言った事件が起こらないパートでも味わって読める作品。
結局、まちゃひこさんからのアドバイスもあり、まちゃひこさんを理解するためにボラーニョを読むのではなく、作品を楽しんで読もう、と読み終えることを目的にしないで丁寧に味わい尽くしました。終わらなかったけど…。
まちゃひこさんは途中中断をはさんで3年かけてこの本を読んだのだそうです。
そんな風に大事に付き合っていける一冊っていいですね。
まちゃひこさんのそんな本への愛情、情熱がこのブログの個性であり屋台骨なのかも知れないと思いました。
とりあえず私は思い切って2666を買おうと思います…!
ではでは、今回は「カプリスのかたちをしたアラベスク」若布酒まちゃひこさんのインタビューでした。
書くこと、読むことについてとても考えさせられ、勉強になりました。
「2666」という傑作にも出会え(というか本読んでる時間の方が長かった)、自分にとって思い出深いインタビューになりました。
改めてまちゃひこさん、付き合って頂いてありがとうございました!
ではでは、はてなブロガーズインタビューも四回目。まだまだ続きますんでこれからもよろしくお願いします~。