おのにち

おのにちはいつかみたにっち

変わる高齢者と若年層の医療貧困問題

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高齢者の定義が65歳以上から75歳以上に変わるらしい。

今すぐに何が変わる、ということでは無いのだが、今後前期高齢という区分が見直されたり、定年や年金という考え方が変わってくるのだろうと思う。

現在の若者が高齢者を支えるという賦課方式は少子高齢化の中で破綻を迎えつつある。
これからは年齢関係なく、元気な者、働ける者が社会を支えていく、というシステムに変わって行くのだと思う。

 

年齢に縛られる医療制度

 

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そもそも、今までの医療制度は年齢に縛られ過ぎていたように思う。

たとえば高額療養費という医療費の自己負担限度額を定める制度では、同じ所得でも70歳以上なら月44,400円(外来・入院の世帯限度額。個人の外来なら更に安く12,000円以上で戻ってくる)、70歳未満は80,100円と倍近くの格差がある。

所得が同じなら生活の厳しさは同じだと思うのだが、この格差はなんなのだろう。

70歳以上になるとこの制度を利用する人が増えるが故の優遇措置なのかも知れないが、少数派の70歳未満の病気持ちは切り捨てなのか、と疑問に思う。

 

働き盛りが病に掛かった時

 

昨年、私の知人男性が50代でガンを発症した。
妻も同世代、高校生の子どもが一人。

体力を必要とする仕事をしていたため、退職を余儀なくされた。
現在も治療が続き病状が安定しないため、自宅で療養生活を送っている。
パートだった妻がフルタイム勤務に変え、生計を支えているがそれでも収入は毎月15万程度。それで家族3人が暮らしている。

日々切り詰めて暮らしても、医療費は毎月飛んでいく。
現在彼は妻の扶養として社会保険に加入している。
限度額適用認定証を利用しても、毎月の支払いは最低(多数該当制度を適用した場合)24600円。

収入のない彼には、痛い負担となる。
民間の医療保険があるではないか、と思う人もいるかも知れない。
勿論彼も、毎月相当の額を支払い医療保険に加入していた。
しかし若い頃に加入した医療保険であったため、入院や手術、死亡の際の補償額は大きいものの通院プランやガン特約が付いていなかった。

現行の医療は長期入院を避け、在院日数を短縮する、という方針に変わりつつあるので(彼も入院は最低限で、外来診療メインで治療を受けている)旧来の医療保険一本ではカバーできなかったのである。

他の支援はないのか?
私も色々調べてみた。

 

医療費負担が月一万円で済む特定疾病療養受療証というものがあるが、これは対象が血友病、慢性腎不全、HIVなど一部の病に限られている。

長期にわたって高額な医療費が必要となる疾病が対象の支援だが、肝心の病が限定されているところが厳しい。

多数該当制度のように、一年以上高額な医療費が掛かっている人などカバーできる範囲をもう少し増やしてくれたらいいのに、と思う。

 

ひとり親家庭医療費助成事業などというものもあり、これは世帯所得が一定額以下であれば世帯の医療費が1000円で済む、という素晴らしい制度である。

しかし問題は18歳未満の子を持つ配偶者のない父親か母親、名前の通りひとり親世帯のみの支援となっているところ。

同じ所得なら、両親が揃っていても生活が厳しい事には変わりないと思うのだが。
家事労働が出来る人間が一人いる、ということを資産として計算しているのだろうか?しかし人が一人多いという事はそれだけ食費や生活費も嵩むはず。その部分の算出はどうなっているのだろうか、と疑問に感じる。

 

他にも自立支援医療という制度もあるが、これは対象が精神疾患に限られている。

 

色々調べてみて、現行の医療支援制度の多くが年齢、一人親、特定の疾患など様々な縛りを設けていることに愕然とした。

 日本にはアメリカのようなラショニング政策は取り入れられていないと思ったが、(給付制限、もしくは選別給付の意。医療技術や医薬品について、患者に優先順位をつけたり効果が期待できない患者は給付対象から外す制度。アメリカオレゴン州の優先順位リストが有名)特定の疾患、特定の患者のみ医療費の補助が受けられる、という今の制度は選別や制限ではないのか。

トリアージやラショニングといった限界時の『医療選別』政策は、国民皆保険制度の日本では無縁の話だと思っていたが、格差も差別も存在しているのだ、と思い知らされた。

 

healthpolicyhealthecon.com

 

ガンでも障害年金?

 

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結局医療扶助には頼れないことが分かり、最終手段として生活保護も上がったが、妻が働いているため受給は難しいという。

もし離縁して、一人暮らしするならば彼は生活保護対象者となり、医療費も全額無償となる。妻子もひとり親世帯の支援が受けられ、所得が増えることになる。

しかし離婚した方が、もしくは働かない方が生活が楽になる、というのは懸命に支え合っている彼らにとって残酷な話である。

 

その後病院や役所、ソーシャルワーカーにも相談し、障害年金を申請してみるしかないのではないか、という答えが出た。

障害年金と言うと知的障害や身体障害を持つ方向けと言ったイメージが強いが、実際にはケガや病気で日常生活や仕事に支障をきたすようになった人全てをカバーするために作られた制度なので、体調が悪ければガンでも認定されるケースが多いらしい。

しかしガンのような内部疾患での障害年金受給は自分一人で申請するのは難しい、とソーシャルワーカーは言っていた。

障害年金には非常に細かな基準がある。
まず、初診日から1年6か月待たなくてはいけない(人工肛門や寝起きが不可能になるなどと言った特殊な事案は除く)。
それから初診日にどの年金に加入していたかが重要になってくる。
知人の場合は厚生年金だったため、障害3級でも受給資格がある。
国民年金だと、1級2級しか受給資格がないので、より厳しい道になってくる。

また、日常生活能力を評価・判定する「一般状態区分表」で等級が決定される。
「一般状態区分表」の内容は次の通り。

 

ア .無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの

イ. 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など

ウ. 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの

エ . 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの

オ . 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

 

障害の程度は、オに該当するものは1級、エ又はウに該当するものは2級、のウ又はイに該当するものは3級におおむね相当する、とされている。
この区分の他にも、様々な診断書と共に書類で資格審査が行われる。

現在の知人の状況だと、3級には該当するのではないか、とのこと。
しかし初診日から1年ほどしか経っていないため、半年は待たねばならないこと、タイミング的には体調が悪くなる重い薬を用いた時に診断書を依頼したほうがいいことなど、様々なアドバイスを受けたそう。

彼の病気は用いている薬によって体調が変わるので仕方がないのだが、一番重い薬を使っているときに診断書を書け、というあけすけなアドバイスにこれが現実か…と少しげんなりした。

障害年金に関する本を見せて貰い、私自身も色々調べたけれど、これを一人で申請するのはかなり難しいだろうな、と感じた。

知人の場合は初診日からずっと同じ病院に通い、ソーシャルワーカーの支援もあるので(勿論有料ではあるが)まだ楽だが、初診日から時間が経ってしまいカルテが廃棄されている場合などは初診日の証明が出来なくなってしまう。

また、彼がアドバイスされたように内臓疾患の場合は診断を下すタイミングによって重症度が変わってくる。もし軽度の時に申請を出し、不支給が決定されると、再申請には時間がかかってしまう。

ネットで調べると様々な事務所が、有料で障害年金の申請代行を行っていることが分かる。

公的な支援のはずなのに、肝心な提出先である日本年金機構のHPには簡単な制度説明と受給資格の記載しかなく、余りの情報量の薄さにも驚いた。

年金機構側は本当にこの制度を使わせる気はあるのか?と色々勘ぐってしまう。
現行のやり方だと、本当に困っている、お金も無く知識もない人たちの所に支援の手が届かない。

紙の書類しかチェックしない、面談すらない審査ってどういうことなのだろう。
相手が重病人の場合もあるが、職員が病院に出向いて面談することだって出来る。

申請者に知識が無い場合、実際より軽い等級になってしまう場合もある。
もちろん逆の事例もあるだろう。
どうして、困っている当人の話を聞かないのだ?

中身の見えない審査で、社労士だのなんだのプロばかりがテクニックを磨いて成立数を謳っている現在の障害年金には不信感を抱きたくなる。

 

国立がん研究センターによると、2016年のガン罹患者数の予測は約101 万人。

ところが傷病別の障害年金を受給者数を調べてみると、ガンで受給している人は国民年金、厚生年金の合計でも5万人にも満たないことが分かる。
ガンと一言で言っても程度は様々だが、このあまりにも乖離した数字はおかしいのではないだろうか?

 

傷病別の障害年金受給者数 | 年金情報部

リンク:障害年金の受給原因傷病

http://home.b05.itscom.net/kisoh/syogainenkin-syobyo.html

 

障害年金はケガや病気で働けない人のためにある大切な制度だ。
きちんと宣伝して、適切に運営してほしい。

必要な人に届けること、金を積まなくても申請書が書ける、もっと分かりやすい制度を目指すこと。今のままでは社労士がボロ儲けである。

 

基本的な障害年金入門のお話。グラフ入りで数字が分かりやすい。

www.yutorism.jp

 

制度改革とこれからの課題

 

健康寿命が延びた今、年齢に縛られず、働けるものが働く社会の訪れは当たり前のことだと思う。

しかし働けなくなった時の保障をしっかりしてくれないと、将来への不安で貯蓄や節約、投資に励むしかない。そうすると労働者数が増えても経済が活性化しなくなる。

金を使わせたいのなら、年金に変わるいざという時の保障をもう少し明確に、分かりやすく提示していくべきだと思う。

現行の制度や優遇措置は年齢や一人親などの立場、病の種類などあまりにも縛りが多すぎる。糖尿病や精神疾患に比べ、ガンといういまや当たり前の病への措置が少ない事にも驚いた。

人口が減っていくのだから、現在のように年齢や立場、病に応じた制度をいくつも立ち上げるより、所得や医療費に応じた大きな優遇措置に一元化していく方が経費削減になるし利用者の負担も減るのではないか、と思う。

『働けるうちは働け』でも構わない。
適切な労働時間で働くことはボケ防止にも、生活習慣病予防にもなる。

だけど若年層を過剰に働かせておいて、ダメになったら切り捨てるのはやめてくれ。
いくつになっても、病になっても、みんな程々に、出来る範囲で働けるくらいがいい。

働くと停止されてしまう生活保護は人間を飼い殺しにしているようで怖い。
年齢に関係なく、その収入に応じた支援や医療費への優遇措置があればいいと思う。

フリーターで国保料が収められず、歯医者にも行けない若い友人もいる。
彼と厚生年金暮らしの後期高齢者の所得は同じなのに、若者の保険料は月2万円、高齢者は月1000円。

正直、お年寄りの方が貯蓄もあり生活は楽な場合もあるのではないだろうか…?と歯に正露丸を詰める友人を見て思った(もちろん一方では国民年金のみで生活する老人の貧困という社会問題もあるのだが)。

 

高齢者の定義が変わるなら、若年層という考え方も辞めて、年齢に関係なく必要な者に保障が届く社会にしてくれ…と思うおのにちです。

 

ガン患者の家族のお話。
お見舞いの話はとても役に立ちました。ありがとうございます。

kutabirehateko.hateblo.jp