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人と機械の境界はどこ?-海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる』感想

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今年は小説以外の本も読まなくちゃ…と思っておりますおのにちです。

そういう訳で、SF作家海猫沢めろんさんが最新科学の世界で人と機械の違いと何か?を探っていく科学ルポ「明日、機械がヒトになる」を読みました。

海猫沢さんは子どもの頃自分のことを精巧に出来たロボットなんじゃないか、と思っていたそうです。なんて不思議な発想。

でも誰しも、マンガやアニメの世界に出てくるロボットやアンドロイドに、人格を見てしまう時がありますよね?

アトムや攻殻機動隊のタチコマくん、最近だと宇宙兄弟に出てくるロボットブギー。
もしもブギーが側にいて、壊れてしまったら?

私はやっぱり、泣いてしまうと思うんです。
でも、ブギーと洗濯機の違いは何なの?
そして私とブギーに違いはあるの?

今日はそんな風に色々考えたくなる一冊「明日、機械がヒトになる」の感想です。

 

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)

 

機械って何?人って何?


さて、このルポは作家の海猫沢めろんさんが、日本屈指の科学者たちに話を聞いて、最新の科学技術を実際に目で見る、体験してみる…という構成で出来ています。

語り手である海猫沢さん自身の経験値も半端ではなく、アイソレーションタンク(海外ドラマ、フリンジに出てくるアレ)のあるお店に行ったことがあり、SRの感覚がタンクで得られる変性意識状態と似ている、とか言い出すんですよ。なにその感覚!味わいたいよ!?

本に登場する科学者は7名。

SRー藤井直敬さん、3Dプリンタ―田中浩也さん、ロボット―石黒浩さん、AI(人工知能)―松尾豊さん、ヒューマンビッグデータ―矢野和男さん、BMI―西村幸男さん、幸福学―前野隆司さん。

具体的な研究内容は、ヘッドマウントディスプレイを通して現実と虚構の境目が分からなくなるSRシステム、アウラ(「いま」「ここ」にのみ存在することを根拠とする権威のこと)を揺るがす3Dプリンタ、本物の人間と見間違うようなアンドロイド、一流棋士に勝利するAI、などなどなど。最新科学が盛りだくさんです。

 

特色としては水先案内人が作家さんなので、話が素人にも分かりやすい。
小説やマンガに使えそうなアイデアに溢れてる。

私のように新しい知識が欲しい!何かを学んでみたい!って人のとっかかりには最高の一冊でした。参考文献も沢山紹介されてるので、この分野をもう少し詳しく知りたい!と思ったら更に深く学んでいけそう。

なにより最新科学が宗教や哲学の話、文学の領域にまで繋がっていく過程が面白いったら!この本は人と機械の境目とは何か?がテーマなので、機械と人を隔てるものを探っていく内に宗教とか哲学とか、心の領域の話になっていくんですね。

 特に人間の幸福さえ加速度センサで測れてしまう、という日立製作所の「ヒューマンビックデータ」の話が面白かった。

この話は「データの見えざる手」という本に詳しく書かれているらしいので、そちらも読んで見たいです。 

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

 

 

人間がもし機械のように、法則に基づいて動いているだけだとしたら?
私たちの「自由意思」は本当に存在するのか。

工学博士、矢野和男さんが実験しているという、その日の自分に最適なアドバイスをくれるシステム「ライフシグナルズ」の話も面白かった。

自分の過去の行動データから、その日にふさわしいアドバイスをくれるという「ライフシグナルズ」。

本が出た時点では試作段階だったようですが、2016年商品化された模様…。

www.hitachi.co.jp

人工知能で働く人の幸福感向上アドバイスだと!?
行動を全部監視され、職場でのコミュニケーションや時間の使い方までアドバイスされちゃうだと!?それなんてディストピア…?

うーむ、実際に使ってみないと分からないんですが、幸福が計れる、という考え方は面白いです。

 

最後に出てくる、慶応義塾大学の前野隆司教授の「幸福学」の話も面白かった!

ロボットの研究から、幸福を研究する学問に至った前野教授。
「ロボットは人を幸せにするための研究である。しかし、そもそも人を幸せにしてしまえばロボットはいらないのではないか?」
何その飛躍!?

さらに「受動意識仮説」の話になると、頭がこんがらかってきます。
前野教授は意識は受動的に出力される結果であり、心は幻想だと思っている、と言います。

1980年代、自由意識研究の先駆者ベンジャミン・リベットの実験によると、被験者に手首を曲げてもらい、それと関連する脳活動を観察した結果、動かそうとする意図よりも脳の活動の方がおおよそ1/3秒早かったのだそう。

これは、実際の決定がまず潜在意識でなされており、それから意識的決定ーつまり私たちの自由意思へとー翻訳されていることを示している…とのこと。

意識が受動的に出力されるとはどういうことなのでしょう?
私達は普段「立ち上がろう」「物を手にとろう」と意識して体を動かしている、と思っている。ところが実際は意識する前に体は動いていて、私たちの意識は後付けなのだ、と言うのです。
ええええ!じゃあ私たちが「心」だと思っていたものは何なの?

機能としての心や意識が希薄な人間は存在する、と海猫沢さんは言います。
全てを他人事のように感じてしまう離人症や、何をしても楽しめなくなる重度のうつ病。それは病だ、と思っていたけれど、生まれつきそういう性質の人間も存在するし、異常ではないのだ、と思うとまた別の世界が見えてきます。

前野教授は人の幸福までたった4つの因子で説明できる、と言います。
受動意識仮説も、幸福学もすぐには受け入れがたい話なんですが、面白い。
これらの本もこれから読んでみたいです。

 

脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説 (ちくま文庫)

脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説 (ちくま文庫)

 

  

幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)

幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)

 

 

機械嫁は電気毛布の夢を見るか?

 

2014年、アラン・チューリング博士が発案した、人間と機械をモニタ越しの対話で当てるゲーム「チューリングテスト」で、ついにAI側が人間を騙すことに成功したそうです。
つまり機械は既に人間と同じくらい自然に、言葉を扱えるようになっている。

過疎化していく地方の人間として、もしも学校にペッパー君がいたら?と考えたことがあります。

子どもがいないのなら、自宅でパソコンを通して授業を受けたっていい。
でもモニター越しの世界からは集団の中での振る舞い方、同世代とのコミュニケーションを学ぶことが出来ない。

たとえばペッパー君がもっとスラスラ、自然に会話できるようになれば、柔軟な子どもたちは彼を「学校の友達」として受け入れるんじゃないだろうか、そしてそれは過疎の町にとって「必要な子ども」になるんじゃないだろうか、そう考えたのです。

そしてもし、そんな風に優秀なペッパー君が、安価になり一般家庭でも買えるようになったら。
ドラえもんやドラミちゃんみたいに、一人っ子の子どもの、いい遊び相手になるかも知れない。

更に進化して、好きな容姿や性格に変えられるようになったら、本当の子どもを育てるよりロボットの方が良い…という時代が来るかも知れない。

性交や、簡単な家事機能もついたら、そもそも結婚するよりロボットと暮らした方が気楽でいいや、となるでしょう。

そうしたら、ロボットの維持管理費を稼ぐために人が働く、機械に人が奉仕する未来が来るのかもしれない。

機械と暮らした人間は、いつか年老いて死ぬでしょう。
そこにはロボットだけが残る。

彼/彼女は機械だけれど、電化製品や家財道具みたいに、廃棄したりリサイクルしてしまっていいものなのか。
クリーニングされて、リサイクル店で安く売られていたとして、私達はその「中古嫁」を愛することが出来るのか。

すごく便利な機械を手に入れる前に。
かわいいペットを飼う時みたいに、最後まで面倒を見られるかどうか?をきちんと考えなくちゃいけないのかも知れないな、なんて私は先の先まで考えすぎてしまいました…。

科学で、人と機械の境界が変わるかもしれない世界。
あなたの「トモダチ」が家電量販店で売られていたら。
あなたは、買ってしまうでしょうか…?

 

なーんて、そんな未来がくるのはまだまだ先?それともそう遠くない話?
とにかくわちゃわちゃ、色々考えたくなる面白い一冊でした。

次は何を読もうかなぁ。新しいことを知るって、ホントに面白いですね!

 

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)