面白い本を読みました。
貧乏な大学生が一人、リアカーを引きながら構内の寮に引っ越していく様子から物語は始まります。
訳ありの彼がこれから暮らすのは敷地の最奥にあると言われる、富穰寮。
誰も見たことがない、地図にも載っていない。
都市伝説のような場所で青年が見たものは、オンボロ木造アパートに暮す謎の学生たち+訳ありの母子、鹿にピラルク、ガラパゴスゾウガメが生息し、謎のキノコが生い茂る不可思議な密林だったのでした…。
という訳で今日は似鳥鶏『100億人のヨリコさん』の感想です。
この本、すごく読みやすいのに先の展開がなかなか読めなくて、そういう所が面白かった!
冒頭は朽ちかけた木造アパートを舞台にした、ウンチクだらけ、謎の学生生活で森見登美彦さんの小説を思い出します。
闇鍋、あやしい蛍光キノコ(食用)、銘酒死体洗い(消毒用エタノール)で変人たちが大宴会だワイワイ。
ところがこの寮に出ると言う幽霊、血まみれ白ワンピ、黒髪ロングヘア(月間幽霊によくいる感じの)『依子』さんと遭遇したあたりから、物語はホラー路線へ。
トイレでは血が流れ、天井には謎の女が張り付いている。
もちろん怖い。最初は般若心境を唱える訳です。
ところがここで、主人公は突然学生の本分?に目覚めてしまいます。
怖いものはもちろん怖い。
しかし、起こるはずのないことが目の前で起こっている。
学究の徒たる自分が、こんな奇妙な現象を布団を被って見逃してしまっていいものなのか。
一体どういうことなのか、どういう科学的物理的理屈であんなことが起こっているのか、ちゃんと分析し研究し、場合によっては論文にまとめて世に問うべきではないのか?
主人公小磯くんの研究は、寮生たちを巻き込んだ一代プロジェクトになっていきます。
肉眼では見えるのに、映像には映らないのはなぜか?
ド近眼の学生が、眼鏡をかけていない状況でも依子さんはハッキリクッキリ見える。それはなぜか。
トイレに流れる血の水は、普通の水より滴が大きいように見える。それはなぜか?
様々な仮説から、やがて一つの結論が導き出されます。
しかしここで最悪の事態が。
富穰寮という一つの場にしか現れない、と思われていた依子さんが寮の外にも現れることが発覚。
更に寮生だけではなく、一般人からも被害報告が。
その後も『依子さん』は日本国内のみならず、#血まみれの女、として世界中に拡散、目撃例が相次ぎます。
幽霊を見た恐怖から事故を起こしたり、自殺する人も増え世界中でニュースに。
果たして小磯くんとゆかいな仲間たちは、増殖していく#ヨリコさん から、世界を救うことができるのでしょうか…⁉
物語の内容はこんな感じ。
本のキャッチコピーは『エンタメ史上に残る凶悪ヒロイン、大量出現!?傑作パニックサスペンス』となっております。
凶悪ヒロイン、なんて書かれているとヨリコさんがすごーく悪さをしているように見えますが彼女は血まみれで突然出没するだけ、首を絞めたり斧を振り回したりはしないのでなんとなくキャッチとは違うかな?
ヨリコ☆パニックはやがて狭い寮内を飛び出し、都市機能も麻痺状態。
世界を壊滅させる勢いになりますが、主人公小磯くんをはじめ、周囲の登場人物たちがユーモアに溢れて(そしてズレている)のでそんなに怖くない。むしろ面白い!
ただちょっと気を抜くと上から血まみれのヨリコさんがドサドサ降って来ます。
これ文章だから楽しめるけど、映像で見たら謎のキノコ鍋パーティとか、カマドウマさんだらけのトイレとかバンバン現れるヨリコさんとか、普通にホラーです。
メッチャ怖いです。
だけど怖いってなんだろう?
恐怖で塗りつぶされる感情に、私達はどう抗えばいい?
最後の答えは割とシンプルで、だけど大切なこと。
そこらへんは、あなたの目で確かめてみてください。
ではでは、今日は不思議なホラー小説『100億人のヨリコさん』の紹介でした。