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【SMAPと、とあるファンの物語-あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど】感想

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『SMAPと、とあるファンの物語—あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど』という長いタイトルの本を読みました。著者は乗田綾子さん。

SMAPファンが書いた、SMAPと『私』の物語。
そう聞いて、どんな内容を想像するでしょう?

熱烈なファンが苦労してチケットを手に入れて、全国を旅する話?
様々なグッズを手に入れたり、ファンクラブの中でのあれやこれやをつづる話?

 

私はこの本のことを、誰よりもSMAPが好きな女の子の特別な物語だ、と思い込んでいました。

でも実際に本を開いてみたら違った。 
これは普通にSMAPが好きな女の子が、自分の半生と共にSMAPの歴史を振り返る、私の隣の物語だったのです。

 

転校を繰り返し、不登校にもなってしまった。思い焦がれた上京は、失敗した。願ったとおりの現実を生きるのは、難しい。だけど――。小学校低学年から30歳に至るまで、とある女性の人生にずっと寄り添っていたのは、親でも彼氏でもなくアイドルだった。ライブやラジオ等でのSMAPの発言や行動を振り返りその歴史を語りつつ、ファンの目線から“アイドル"の意味と意義を読み解く。

 

SMAPと、とあるファンの物語 -あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど-

 

 

本を開くとまず目につくのは膨大な脚注。

様々な資料から拾い上げられたSMAP自身の言葉、その歩みから描き出されるSMAPの姿はどこまでも『普通の少年』に思える。
そんな彼らが迷いながら大人になる姿が、合間に挟み込まれる著者の成長物語と重なっていきます。

この本を読むまで、私はそれほどSMAPには詳しくない、と思っていました。 だからこんな私が本を読んで楽しめるだろうか…という不安が。

でも実際読んでみて驚きました。
私は自分で思うよりも彼らのことをよく知っていた。
曲のタイトルだけで流れてくる音楽、ヒットドラマの数々。

昔、友達の家によく泊まりに行きました。
そんな時、少し夜更かしして観る番組はいつも『SMAP×SMAP』。

なかでもビストロスマップのコーナーが大好きで、どっちの料理が食べたいとか、夜中なのにお腹が空いてこっそりピザをチンして食べたり。
あの頃の柔らかな夜の匂いを思い出します。

『ロングバケーション』も『僕の生きる道』も好きだった。
慎吾ママの歌だって歌える。

SMAPは、私にとっても一つの時代だったのでしょう。

 

だからSMAPと共に歩む著者の姿が、とても身近に感じられます。
この本の著者、乗田綾子さんは国鉄マンの父を持ち、幼い頃から引越しばかりの生活を送っていたそうです。そんな彼女が感じていた、居場所がないという寂しさ、喪失感が物語の根底にはいつも流れています。

私も転校生でしたが、転校が続くと、自分が根っこのない透明人間になったような気持ちになるときがあります。

昔話や古いアルバムを見せてもらう時の、切なさ。
仲良くアルバムを開いて、私以外のみんなが写るその写真の物語を聞きながら、私はどこまでも自分が希薄になるような気がしていました。

転校が多い著者にとってSMAPは『どこに行っても変わらないもの』だったんじゃないか。あの頃、本という『変わらないもの』にすがっていた私は、なんとなくそう思うのです。

 

あの頃の未来に、僕らは立っているのかなあ。
この本を読み終わった時、頭に流れた音楽は『夜空ノムコウ』でした。

この本のサブタイトル、『あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど』も夜空ノムコウをモチーフにしています。

 これはとても柔らかで、センチメンタルな本。

ページをめくるたびに、音楽やドラマの1シーンと共に、私のあの頃が微かに思い出されてきます。

あの頃のぼくたち、私たち。
すべては柔らかく折り重なって、懐かしい物語になっていく。

私達は、あの頃夢見た未来には立てなかったのかも知れない。
全てが思う程、上手くはいかないみたいで。

でもそれでも。

また桜は咲くし、新しい明日が来る。
いつかまた、あなたに会える日がくるかも知れない。

そうやって私達は日々をアップデートして、生きていくのだろうなぁ、と思ったのです。

この本の著者、綾子さん/小娘さんがまたSMAPに会いたいと願うように、私もまたあなたの本が読みたいと思いました。そんな風に思わせてくれる一冊でした。

 

 

SMAPと、とあるファンの物語 -あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど-

SMAPと、とあるファンの物語 -あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど-