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阿部智里「八咫烏シリーズ」感想・おすすめ和風ファンタジー!

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もうすぐ12月。今年読んだ本のまとめ記事を書きたくなる季節です。

そんな訳で、今日は今年第一部が完結した和風ファンタジー小説の感想を。
阿部智里さんの「八咫烏シリーズ」は、当ブログでも何度か紹介したお気に入りのファンタジー。

ただちょっと、全巻がお気に入りとは言えないかも知れません…。
今回は少し含みのある言い方になってしまうかも。

しかし第二部に期待を込めつつ、書いてまいりたいと思います!

 

「八咫烏シリーズ」あらすじ

 

烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

 

まずは未読の方のために簡単なあらすじから。

「八咫烏シリーズ」とは、2012年、20歳で松本清張賞を受賞した阿部智里さんが描く和風ファンタジー。

デビュー作『烏に単は似合わない』から始まり、毎年一冊刊行され、今年『弥栄の烏』(第六巻)で第一部が完結しました。

物語の舞台は、人の姿に転身する能力を持つ八咫烏(ヤタガラス)が暮らす異世界・山内(やまうち)。
一族を統べる金烏(きんう)と呼ばれる長と、東西南北の名を持つ四つの宮家が権力争いを繰り広げています。

 

平安時代を思わせる雅な宮中で、若宮の正妃の座を巡り4つの宮家の娘たちが後宮で競い合う物語が第一巻『烏に単は似合わない』。
春夏秋冬、四季を司る名を持つ美しい姫君。それぞれの思惑を胸に后の座を競い合うが、肝心の若宮は一向に姿を見せない。
主のいない後宮では次々と事件が。
失踪する侍女、謎の手紙、後宮への侵入者……。

美しく華やかな宮廷生活の裏側を描くファンタジー。
ミステリー要素も強く、煌びやかな宮廷生活にうっとりしていたら痛い目をみる、どんでん返し要素も面白い。

  

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華やかな宮中から一転、男性視点で描かれるのが第二巻『烏は主を選ばない』。

后候補の姫を擁する東西南北四家。
その一つ、北家と縁ある少年・雪哉はひょんなことから、うつけと評判の若宮に仕えることになる。
兄を追い落として世継ぎとなった若宮には敵が多く、権力争いが横行する朝廷内で、雪哉は次々と襲い来る危機に対処する羽目になるのだが…。

こちらは宮中に姿を見せない若宮は何をしていたのか?という一巻と同時進行の物語。 若宮の話が本編になるので、未読の方はこちらから読み始めても大丈夫。

 

 

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第三巻『黄金(きん)の烏』では物語は宮中を飛び出し、大きく動き出す。

若宮と雪哉、二人が旅先で出会ったものは人を喰らう大猿だった。
猿に襲われ壊滅した村の中にたったひとり残されていたのは、謎の少女・小梅。
八咫烏(ヤタガラス)だけが住むはずの世界で、いったい何が起きているのか?
山内の危機に雪哉は奔走することになるのだが…。

 

yutoma233.hatenablog.com

 

 

第四巻、『空棺の烏』は学園編。

前作で突如出現した人を喰う大猿へ立ち向かうため、若宮へ忠誠を誓った雪哉は近衛集団を養成するための訓練学校「勁草院」に入学することになる。
15歳から17歳の少年たちが集められ、全寮制で上級武官になることを目指した、厳しい学院生活の裏で繰り広げられるのは激しい権力争い。

表向きは実力主義を謳う学内で、貴族階級と庶民階級の身分格差が歴然となるにつけ、庶民出身の仲間たちもこの争いに絡んでくる。
果たして誰より小柄な雪哉は、頸草院での争いを勝ち抜くことができるのか?
少年たちの成長物語として楽しんで読める一冊。

 

 

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第五巻『玉依姫』では舞台は一転、現代へ。

女子高生・志帆が、故郷の山奥で遭遇したものとは。
そしてついに明らかになる異世界「山内」の秘密とは?
異世界の始まりの物語。

 

第六巻、そして第一部完結篇となる『弥栄の烏』は、主人公・雪哉の弟がかつて兄の通った訓練所、剄草院に入学準備する場面から始まる。

大人になった雪哉も今や、全軍の参謀役。日々戦いの準備に余念がない。
そしてついに山内を大地震が襲い、かつてこの地を恐怖に陥れた「人喰い大猿」が現れるー。

全巻のあらすじはこんな感じ。
八咫烏たちが暮らす『山内』、そして現代の女子高生の物語がどう繋がっていくのか?
ワクワクしながら読めるファンタジーです。

 

違った味が楽しめる物語

 

まずは試しに、『烏に単は似合わない』を読んで見て下さい。
文庫化されているし、この世界の導入編としてはぴったりです。
平安時代を舞台にした絢爛豪華なミステリーと言った味わいで、ファンタジーの苦手な人にも楽しめると思います。
それぞれ性格の違う四人の女性達が繰り広げる争いは、艶やかな表紙もあいまって松苗あけみさんの純情クレイジーフルーツみたい。少女マンガ好きにも楽しめる一冊です。

それから、私が大好きなのが第四巻の『空棺の烏』!
突如学園編となるこの物語は、さながら和風ハリーポッター。
少年たちを襲う様々な試練、そして芽生えていく友情。
物語は大きな事件の途中で終わってしまうので、一年後の次巻が相当楽しみでした。

 

ところが五巻では山内を離れ、舞台は一転現代へ。
山内の成り立ちを語る大事な物語なのですが、いままで主人公だった雪哉が置いてけぼりになってしまい、雪哉は?仲間たちは?とかなりモヤモヤしました。

 全巻購入したのですが、一冊づつの細かい感想を書いているのは第四巻まで。
そう、私はこの本の終盤、現代パートがちょっぴり苦手なのです…!

  

 小説の中の情景描写

 

たまに小説の出だしの風景描写や、細やかな情景設定は要らない、なんて話を聞きます。私は情景絶対必要派です!

頭の中で物語を映像化しながら読んでいるので、季節や気温、服装、立っている場所などの説明があった方が想像しやすいのです。

1から10まで、何もかもを書く必要はないのですが、たとえば室内で登場人物たちが歩き回るなら、書く側は自分の頭の中に簡単な設計図をイメージするべきだ、と思います。

ドアは主人公から見て右手にあるのか、左手にあるのか?
設計図がないと出てくるたびに部屋の間取りが違う、なんて奇妙なことにもなりかねません。

一度なろう系小説で6畳ほどの部屋に入った主人公が後から来た敵に出入り口を塞がれ、逃げ場を無くす、という描写がありました。
ところがその後すぐに主人公は後ろにある隠されたドアに気が付き、逃げるのです。
6畳ですよ?しかも入口のドアの向かいにあるのです。
入った瞬間目に入るやんけーー!

せめて魔法で隠されていた、とかついたてが、とか但し書きがあればいいのですが、描写は隠されていたドアで逃げた、とだけ。
アマチュアの方の小説なので仕方ないのですが、かなり萎えました。

 

『烏に単は似合わない』は、とても細やかに書き込んであって、重ねた着物の色、焚き染めたお香の匂いまで伝わってきそうな物語です。 続く『烏は主を選ばない』も閉じられた襖の絵が浮かび、酒や料理の描写に生唾が誘われます。

とても色鮮やかな『山内』という架空の世界。

ところがこの熱意が現代パートからは伝わってこない。
現代パートは主に洞窟の中で展開されるので、そもそも舞台が暗いんですが。
それにしてもそこで暮らしているのだから生活感は必要なはず。

平安時代を思わせる架空世界より現実世界の方がリアルに書けるはずですが、どうも町の姿が浮かんでこない。

終盤は真っ暗な舞台の上で登場人物達がお芝居を繰り広げている絵しか浮かばなくて、せっかくのスケール感が台無しでした。

でもよく考えられた物語の筋書きや設定、魅力的なキャラクターの組み立て方はホントに最強の物語。
これから更に面白くなるはず、とこの先に期待しています!

 

そんな訳で終盤が駆け足、ラストが暗い、と多少の難はありますが、四巻までは本当に面白い小説。物語自体は破綻なく完結していますし、名作ファンタジーと呼ばれるにふさわしい作品だと思います。

年末、ファンタジーが読みたい!というあなた。
文庫版も出てますので、ぜひ軽い気持ちでこの物語に足を踏み入れてみてください!

 

烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

烏に単は似合わない? 八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)

 

 

烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫)

烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫)