おのにち

おのにちはいつかみたにっち

世界の終わりと増殖するポトス

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先日SFチックな短編小説を書いた。壁で分断された世界の物語だ。
日本中、もしくは世界中が謎の壁に囲まれて、隔てられている。

要するにドラマ『アンダー・ザ・ドーム』(町がドームに覆われ、外部から遮断される)のような状況が、世界中で起きたらどうなるか?という話だ。
町や区、あるいは県単位。会社の一部、家一軒と言った小さな壁もあるかも知れない。

私は自分が住む田舎町を舞台に、手紙という形式で書いてみた。
とても短い、思いつきの物語である。

 

yutoma233.hatenablog.com

 

でも手紙を公開したら思いがけない返事が返ってきた。
別の壁に隔たれた町からのメールである。

 

死の壁に覆われた町からの短い手紙 - ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

見えない壁に覆われた町からの手紙 - ダメシ添加大戦

柔らかな壁の中からの手紙 - ダメシ添加大戦

 

言及が来て開いた瞬間、うわぁこちらの町はこうなっているのか、と本当に物語の世界に取り込まれたようで、楽しかった。

ブログは基本一人で書くものだけれど、こうやって誰かとナニカを共有できたような気分になるのも悪くない。私は遠い町に住む誰かと、共作したことがあるんだぜ、って誰かに自慢したくなる。

その後も謎のメーラーアプリの都市伝説や、このメーラーを見た人はメールせずにはいられなくなる、というかわいくて怖い強制文が続き、世界が広がっていって面白い。

 

ユーゴーリム(UGORIM) - ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

メーラー - ダメシ添加大戦

 

これはたった三人の小さなブームだったけれど、トイレの花子さんとか口裂け女みたいな都市伝説も、元は小さな噂で、それを聞いた誰かがもっと怖く語ってみたい、と思ううちに枝葉がついて本当に伝説になってしまったのだろうな、と思う。
物語が伝播して、増殖していく感覚。それは少し怖くて面白い。

 

世界の終わりに何が残る?

 

私も終焉の町の続きか、別の町の物語を書きたかったのだが、実は終焉の町はいずれ本当に終わる、と書いた時から考えていた。

あの小説で描かれているのは終焉の町が上向きはじめた時の話だ。
実際ああいう状況下に置かれたら、出生率は一時上昇するだろう。
町は昔のような賑やかさを一時は取り戻す、かも知れない。しかし人口を増やし続けることは出来ない。それは外部から食料を輸入することが出来ないからだ。

やがて水や食料の限界値から、終焉の町が支えていける人間の数が導き出され、新たな子どもを得るために食料を与えて貰えない高齢者も出てくるだろう。

そうやって適切な人口や、コミュニティを維持するためだけに生きているような生活が長く続いたら、人は生きる意味も子を生す意味も失って、緩やかに滅びてしまうのではないか、と先の話を想像しながらあの物語を書いた。

 

壁に閉ざされ、限界のある終焉の町では生産性を持たない人間は排除され、生まれてきた子どもは未来の生産者としてカウントされる。それは年金支給年齢がどんどん遠くなり、未来の納税者として子どもが手厚く扱われる現代と何が違うのか、という話だけれど。

 

私は生き物が必ず死ぬように、お皿が必ず割れるように、人類はいずれ衰退するのだろう、と常識のように思い込んでいる。この思い込みはどこから来たのか?終末SFの読みすぎか?

何百年か、何千年後か。
とにかく世界から人がいなくなる時は、必ず訪れるのだろうと思う。
そしてその時町に何が残るのか?

 

私は植物だと思っている。
廃墟は必ず、緑に飲み込まれる。

世界で一番繁殖に成功したのは植物なんじゃないか、と毎年庭の草を刈る度に思う。
刈っても毟っても、除草剤をまいても、心地いい雨と光が通り過ぎた後は必ず柔らかな芽が姿を見せる。可憐な花で人の心を許し、気がつけば一面に増殖するあのしたたかさ。

チェルノブイリ周辺の町も、今は森に飲み込まれてしまった。
永い冬が訪れても、一粒の種が残っていれば彼らは増殖し続けるのだろう。

 

ポトス、という日本で一番ポピュラーな観葉植物がある。
あれは伸びた枝を節の下で切って、挿してやるだけで簡単に増えるのである。

ただ不思議なことに、元のポトスは白い模様や淡い色合いだったのに、切りとった枝は濃い緑に原種帰りしてしまうことがよくある。
そして濃い緑の葉は淡いものよりも成長が早く、たくましい。

かつて一つだったとは思えないくらい色の違う二つのポトスを見ながら、物語の伝播もそういうことなのかも知れないな、なんて思う。

いつか全てが緑に覆われる前に。
小さな言葉の種を世界にまき散らしていくのも、そう悪くないあがき方かも。
帰ってきた手紙を見ながら、一人悦に入る終末なのでした。