歯の被せものが取れたので、5年ぶりに歯医者に通っている。
昔通っていた歯科は遠いので、通勤途中にある評判の良い歯科医院にした。
なんつーか、非常に近代的でインスタントな医院である。
予約時間に行けば待ち時間はほぼ0。サクッと座ってテキパキ治療。
料金も良心的、安い早いここは牛丼屋か。
しかし怖い。
建物はキレイで助手も先生も優しくて早くて。
なのに怖い、以前通っていた昭和感満載の歯医者の10倍怖いのはどうしたわけなのだ…!
昔通っていたのは当時住んでいた家から近い、という理由だけで選んだぼろっちい歯科医院だった。
予約しても普通に待たされ、待たせたくせに呼ばれた私がトイレに行っていて少し手間取ると年季の入った助手に『先生をお待たせするなどと…!』と前時代的な口調で罵られる。
治療も遅い。
口を開けて、少し削る。
口を閉じて、先生がのんびり器具を変え、また削る。
下手をすると治療の合間に別の患者さんの元へ呼ばれてしまい、椅子の上でぼんやり虚無と向き合う羽目になる。
でも歯科者が苦手な私にはこのくらいのペースがちょうど良かったのかも知れない。
これだけ待たされると怖がりな私でも『何でもいいから削ってくれよ!』と捨て鉢な気分になる。
あとちょこちょこ口を閉じられるのが良い。
口を大きく開けるのが苦手な私(あんまり大きく口を開けると音がする。顎関節症になりやすいタイプ)、開け続けていると顎が痛んできてしまう。
終わったらトイレでゆっくりと口の周りが汚れていないか確認し、喪失した意識を待合室に置かれた週刊女性で取り戻す。
そうして金を支払い、帰宅の途につく…というのがボロ歯科医院のメソッドだった。
対して、最近通っている歯科医院はどうか。
扉を開ければすぐ診察台に座らされ、早速治療。
先生は物凄いペースで道具を替え、ハイ次!ハイ次!と口を閉じる暇も与えてくれない。そういえば痛いときは手を上げて、的なことも言われない。
もうちょっとだからね―我慢してねーとなだめすかされながら口を開け続け、よだれを吸われまくられる。
治療が長く続くと、音と痛みで感覚が麻痺してきて、自分の口が開いているのか閉じているのか、舌の位置はどこなのかも分からなくなる。
この身体感覚を失う感じが一番怖い。
私の口は本当に開いているのか?無意識に口や舌を動かしてしまって穴が空いたらどうしよう…
そうやって呆然と診察台から降りるとすでに会計の準備が済んでいる。
トイレでメイク直しをする暇も無く金を払い、次の予約を入れ涙目のまま外に出る。
レ、レイ〇目――!
そんな訳で新しい歯医者怖いよ違うとこにしたいよーと愚痴っていたら家人に驚かれた。 何処だって痛いのは同じだし、待たされない方が良いだろうと。
それはそうなんだけど…でもやっぱり納得いかねぇ…ゆっくり話し合う暇も無く、勝手に治療方針決めちゃうし。
新しい歯医者に感じる理不尽さを、発言小町風にしてみた。
最近彼の家に行くと即ベッドなんです。
いきなり口に突っ込まれ、『我慢して、もうちょっと』ばっかり。
こっちの意思はお構いなし。終わったら財布からお金を抜かれ、メイクを直す暇も無く追い出されます。将来設計も一方的で…別れた方がいいんでしょうか?
別れて―!逃げてー!そもそも付き合ってるのこの二人…とまで言いかけて我に帰った。
私は歯医者と付き合ってない。
自ら進んで医院に行ったのにこの被害者意識は何事だっ…!
どうやら歯医者に行くと赤ちゃん還りしてしまうようだ。
前掛けをされて、口を開けて、よだれまで吸われて。
バブみ度アップです、バブー。
とにかくこの放心赤ちゃん状態のままインスタントな医院に通っていたら要らない治療まで受けてしまいそうだ。
取れた被せものの直しも、歯のクリーニングも終わったので、今後やる予定だった他の被せものを新しいものに変える施術はやらないことにした。
多分もうすぐこれも取れるし、その前にやっちゃいましょう!と言われて頷いてしまったが外すのも結構痛い。
予約はキャンセル、いつか外れてから直すことにした。
つかもう絶対ハイチュウとか食べない!
100円ショップの糸ようじもやめて、ちゃんとワックス付のフロスにする!
歯もしっかり磨く―!
そんな訳で今日は歯医者が怖い、というシンプルなお話でした。
え?怖いと言われる歯科医師の気持ちも考えろですって?
バ、バブミィーー…!