おのにち

おのにちはいつかみたにっち

車椅子とイライザ

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 こんにちは、みどりの小野です。

 今日は少し涼しい日でした。

 晩御飯のあと、おばさんから送られてきたクッキーをみんなで食べました。
いろんな種類のクッキーを焼いて、宝石箱みたいにきれいに詰めて贈ってくれるおばさん。
一度に食べてしまうのが惜しいので、少しだけ食べて残りは明日ね、と冷蔵庫の上に載せました。
 お風呂の準備をしていると、台所の方でなにやら物音が。
のぞいてみると下の息子が大きな椅子を引きずって冷蔵庫の上の箱を取ろうと画策している最中でした。
 こら、と怒りながらも「がまくんとかえるくん」という大好きな絵本にもこんなお話があったなと思って笑ってしまいました。
 
 そうやっておばさんのクッキーを食べていたら、10歳の夏休みの出来事と、それから二学期だけ一緒だった車いすのクラスメイトの事を思い出しました。 
 

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 小4の二学期、始業式の後先生に職員室に呼び出されました。
真面目だけがとりえだった私、初めての呼び出しにすごくドキドキしていたのを覚えています。
担任の先生は50代の女性の方で、どっしりした体格と低い落ち着いた声が印象的な優しい先生でした。
本が好きで、運動神経が鈍く本ばかり読んでいる私の事を同じ本の虫、と呼んでよく声を掛けてくれました。
 目立たない、地味な子どもだった私。
そんな風に話しかけてくれる先生は初めてで、本当に大好きな人でした。
 その日先生は私にお願いしたいことがある、と言いました。
転校生のお友達になってあげてほしい、と。
 
 私たちのクラスには新しい生徒が来ることになっていました。その話はホームルームの時に聞きました。
筋肉の力がだんだん無くなっていく病気で、ずっと病院にいて学校に通ったことがなかった女の子。
車いすに乗れるうちに、どうしても学校へ行きたいので、特別にお母さんといっしょに通うことになりました。
もし困っていることがあったら、みんなで助けてあげましょう、と。
 
 新しいお友達とは勿論仲良くしたかったし、手伝えることがあったら手を貸したいと思っていました。
でも大好きな先生のお願いに素直にはい、と頷けなかったのは。
夏休みにほんのちょっと、友達にまつわる苦い思いをしたばかりだったから。
 
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 その年の夏休み、私は初めて一人で東京の親戚の家へ行き、そこで過ごしました。
その頃母は私の年の離れた弟を妊娠していたのですが、安静を必要とされ出産予定日の1ヶ月前から入院する事になっていました。それがちょうど夏休みの期間で。
 私たちは父方の祖父祖母と両親、私と4つ下の弟の2世帯6人家族でした。
下の弟は祖母が面倒を見ることになり、私だけ東京へ行くことになったのは、母と姑の折り合いの問題だったのでしょうか。
とにかく私は子どものいない東京の伯父夫婦の所へ預けられることになり初めて一人で飛行機に乗ったのです。
 
 新婚で、まだ子供のいない伯父さんはちょっと変わった人でした。
とにかく勢いは良くて、家へ来い、子育ての勉強になるからちょうどいいと私を預かったものの仕事が忙しくて平日は殆ど家にいませんでした。
 新婚の叔母さんは専業主婦で家には居たものの私とは結婚式に一度会ったきり。いきなり10歳の女の子を預けられて、かなり困ったのだろうと思います。
 
 ついてすぐに、おばさんに勧められて家の向かいの公園に遊びに行きました。
すぐそこなのに、わざわざついてきてくれるおばさん。2,3人で遊んでいた私と同い年くらいの女の子達に手を振って呼び寄せます。
「こんにちは、この子が前話したおばさんの姪っ子なの。どうぞよろしくね」
はーい、とその場は行儀のいい声をあげる女の子達。
なんでこんなお節介を、と驚く私。
もう10歳、大人が色々口出しすると、舐められるのは私です。前もって声を掛けておくなんて、赤ちゃん扱いにも程があります。
案の定、おばさんが帰った後にチクチク嫌味がはじまりました。
頼まれたから、遊んであげるけど。混ぜてあげてもいいけど。 
挙句の果てには文句まで。あんたのおばさんに手作りクッキーもらったけど、いまどき手作りって古いよね。買ったのくれればいいのに。
もうカチーン! ときました。この子たちとは絶対遊ばない。頼まれたって遊ばない。
結局一人で遊んでいた別の女の子に声を掛けて仲良しになって。そのグループのことは、帰る日まで無視していました。
 
 大人になると叔母さんやあのグループの子たちの気持ちも少し解りました。
 子どもを扱ったことのないおばさんは、一人で大人ばかりの家に来る私の事を来る前から考えていてくれて。
 女の子グループは、大人からお菓子をもらってお願いされて少し調子に乗っちゃって。
 帰るころには女の子グループ達も話しかけたい様なそぶりを見せてたんですけど。無視した私、大人げなかったかな。でもまあ、子どもだったし。
 大人になった今でも、いじわるなイライザはやっぱり嫌いです。
 
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 先生から「お友達になってあげてほしい」と頼まれたとき頭に浮かんだのはそんな夏休みの事でした。
 それで子供なりにいろいろ考えてしまって。
先生の頼みは聞きたいし、転校生とも仲良くしたい。
 でも、友達になるって、私が勝手に決めることじゃなくて、お互いの話なんですよね。会ってみて、もし話の合わない子だったらどうしよう?
先生に頷いてしまったらずっと友達でいなくちゃいけません。
私は我慢すればいいけれど、その子が私とは合わないな、と感じていても付きまとうの?
 そして一番嫌だったのが、私の中から先生に頼まれたからお友達になってあげるのよ、というイライザが、相手にわかるくらい滲み出してしまったらどうしよう、という気持ちでした。
 先生にどうやってこの気持ちを伝えたらいいんだろう。迷いながら答えました。
 
「ごめんなさい、でも友達は言われてなるものじゃないと思います」
 
 ちゃんと伝わったかはわかりません。
先生はそれからも変わらず優しかったです。
 車いすのクラスメイトは人気者でいつもたくさんの女の子に囲まれていたので結局私の出番などありませんでした。
 彼女は雪が降るまで学校に来て、寒い間は休む、という話でしたがそのまま春になっても戻ってくることはありませんでした。
 
 私は先生の頼みを断ったことを引け目のように感じてしまい、彼女には結局一度も話しかけられませんでした。彼女はとても小さな声で話すので傍に行かないと言葉が聞き取れません。
 
 一度だけでも、あの小さな鈴のような声の女の子に話しかけたかったな。
大人になった今は、素直にそう思います。