濡れ髪美人はここにいるよ、というセクシー雑誌のキャッチコピーをコンビニで見かけた。まだ3月なのにもう濡れているのか、風邪引くなよ、と思った。
濡れている髪や、濡れ透けシャツがセクシーだ、と言う風説がある。
まぁ、基本同意。
でもアレは海辺やプールサイド、突然の雷雨などといった特殊な設定の上でのセクシーなのでは?と思う。風呂上がりとか、通り雨とか、必然性があって濡れていて欲しい。
たとえば革張りのソファーの上で、ビッタンビッタンに濡れたセクシー女性がポーズをとっていても「もしかしてカッパ!?」としか思えない。
クリーニングどうすんの!とか現実的な心配をしてしまうではないか。
常識で考えたら、濡れガールはグラビアなど特殊な設定での話。
日常生活の中では、突然の豪雨にでも襲われない限り濡れた人になど遭遇しない。
普通、そう思いますよね?
しかし私は、ビッタンビッタンに濡れた人と新幹線で遭遇したことがあります。
あれは高二の修学旅行。
生まれて初めて乗った京都行きの新幹線。
始発の東京駅で乗り込んで、一車両ほぼ貸切なのになぜか前の座席は一般のお客様。
きれいなお姉さんが一人で乗っていました。
シートを回して後ろの友達と話せるようにボックスにしようか、どこ押すのー、なんてキャッキャウフフやっていると次の停車駅でまた前の席へお客が。
きれいなお姉さんにお疲れー、なんて乗り込んできたのはスーツ姿の中年男性。
しかし、何かがおかしいのです。
グレーのスーツの肩が明らかに濡れています。髪も黒々艶々しています。
男性が席についてわかりました。
彼の頭が濡れているのです。それもビッタンビッタンに。
風呂から上がったばかりの子供のように、髪から水が滴り背広の肩や首筋を濡らしています。
外は晴れ。
お姉さんもギョッとして、どうしたんですかその頭!?と聞いています。
後ろの田舎の女子高生たちも耳がダンボです。
毎朝マンションのプールで泳いでるんだよね。今日は早く上がろうと思ってたんだけど、気がついたら時間ギリギリでさー、走って来ちゃったよ。間に合ってよかったわ。
男性の言い分はこんな感じでした。
女子高生やれたかも委員会としては、都心のプール付きマンション+100ポイント。ビッタンビッタンに濡れた髪-1000ポイント。
女性は使いますか…?とピンクのハンカチを差し出しましたが、男性は「いや、タオルあるから」と鞄からタオルを取り出しました。
あるのかよ。
とっとと拭けよ、と思ったのですが男性はタオルで額や首を拭くばかり。
髪には手をつけようとしません。
少し長めの髪だったので、セットが崩れるとでも思ったのでしょうか。
後から見ると濡れた髪から頭皮が透けて、かわいそうな犬状態ではありましたが。
その後も田舎の女子高生は東京の恋愛事情が覗けるのでは…とワクワクウォッチングしていましたが、どうやら2人は会議に向かうただの同僚らしく、女性は「資料渡しときまーす」と封筒を渡した後は黙って本を読んでいました。
その後2人はひたすら無言。
終盤、暖まった電車内で男性の頭から湯気が出ていたのがハイライトでした。
よく考えたら、同じ職場で所得が推測できる仲ならプール付きマンションアッピールは無意味。
あの濡れ髪は本当に朝泳いでビッタビタだっただけ、と言うシンプルな理由だったのでしょうか。
海でもプールでもない場所で、あんなに濡れていた人を見たのは人生で初、その後もありません。
あの人はもしかしたら魚人だったのでしょうか?
それとも田舎者の私が知らないだけで、東京の電車には普通に水が滴る人が乗っているものなのでしょうか?
皆様からの魚人発見報告お待ちしております…。