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恩田陸「終りなき夜に生れつく」を読んで「夜の底」に戻る。

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今日はタイトルどおりの内容。

恩田陸さんの短編集「終りなき夜に生れつく」を読んで、とても面白かったのだけれどもう一回上下巻の長編「夜の底は柔らかな幻」を読み返さねば!という気分に。
週末は恩田陸ウィークになりそうですよ…というお話。

 

終りなき夜に生れつく

 

「終りなき夜に~」は「夜の底は柔らかな幻」に登場するキャラクターたちの過去が語られるスピンオフ短編集。

私は帯を読まなかったので、スピンオフだと気がつかず、でも在色者という設定、勇司という名前に思いっきり既視感が。
あれ?この本もう読んだんだっけ?でも発行日2月末だし…と不安に駆られてしまいました。

全4編、第1話「砂の夜」は『夜の底~』に登場した軍勇司と須藤みつきがアフリカ北部の難民キャンプで医療ボランティアをしていた頃の話。

第2話「夜のふたつの貌」は更に時間が遡り、勇司が医学生だった頃の話。
後に入国管理官として登場する葛城晃と、勇司の出会いのエピソードが描かれている。

第3話「夜間飛行」は葛城晃が在学中に途鎖入国管理局からスカウトを受け、適正調査のためのキャンプに参加することになる。

そして最終話「終りなき夜に生れつく」で前作のテロリスト、神山倖秀が登場する。
妻(このセリフのない妻が本編のヒロイン実邦)と二人、静かな生活を送っていたはずの神山が夜の世界を生きていこう、と決心した日の物語。

それから14ヶ月、彼は最初のテロ事件を起こす。
そしてキャラクター達は「夜の底~」で途鎖に集結する…。

 

こういう構成で、物語の特殊な設定についても理解が深まる内容になってますんで、スピンオフと言いながらも「夜の底~」未読の方でも楽しめるかと思います。
私はこの記事を書きながら「夜の底~」を読み直してますが、思い出せなかったチョイ役も、こんな性格だったのか!と新しい発見があって楽しい。

既読でしたが前作は2013年発行ですから…すっかり忘れてるんだよ…。

 

この本を読むと、「在色者」という設定についてよく分かってきます。

イロ、と呼ばれる超能力のようなものをもつ人間のことを在色者、と呼ぶ。
「イロ」は成長の過程で人体に苦痛を与え、力を使うと深刻な反動が起き、精神疾患の要因にもなるため、世界的には「均質化」と呼ばれる外科治療と薬物投与が一般的である。

在色者の存在の多寡は場所によって違う、多い地域と少ない地域がある。
能力も幅広くムラがある。日本の中にありながら鎖国を貫く「途鎖」は世界的に見ても在色者の多い特殊な場所。

途鎖では優秀な入国管理官が国境を見張っているのでよそからの侵害を決して許さない。ここで育った人間が外に出るためにも厳しい審査があり最低2年はかかるということ。

「終りなき夜に生れつく」は『在色者』と呼ばれる不思議な力を持つ人たちの短編集。
しかし単なるサイキックモノでは終わらず、アクションや学園ミステリ要素もありシンプルに楽しめる。

本編「夜の底は柔らかな幻」は、恩田陸さんが『地獄の黙示録』をやりたかった、と語っているとおり、電車内での銃撃戦から始まり、バタバタ人が粛清されていくハードなストーリー。

hon.bunshun.jp

 

上の記事を読んで、地獄の黙示録の原作、コンラッドの「闇の奥」が読みたくなってしまった。調べたらkindle読み放題対象本なのでとりあえずダウンロード。

 これも今週末読めたらいいのだけれど。

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

 

 

恩田陸さんは、「夜の底は柔らかな幻」についてこんな風に語っている。

 

『夜の底は柔らかな幻』の構想は、元々は私の初期の短編「イサオ・オサリヴァンを捜して」まで遡る。これはベトナム戦争をテーマにした短編であったが、そもそもは世界各地のジャングルの奥に異質な生命体が埋もれており、それらが人類に接触して覚醒と進化を促し、文明の基を作らせたり、いわゆる超能力を持った新人類を誕生させたという設定であった。

 

世界各地のジャングルの奥に埋もれた異質生命体!
「終りなき夜に生れつく」でも、在色者の分布は地域によって違う、と書かれていた。また『山』が立ち入り禁止の場所として恐れられているので、日本編としてジャングル=山に変換されたのかも知れない。

「終りなき夜に生れつく」は単独でも充分楽しんで読めるミステリ。
 でも「夜の底~」で補完すればさらに深く、物語世界が楽しめそうです。

恩田陸さんらしく、2作読んでも補完できない空白は残るのですが。
そこは己の脳内補完で埋めあわせるしかないのでしょう…。

 

終りなき夜に生れつく

終りなき夜に生れつく

 

 

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

 

 

夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)