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きっといつかあなたに会える-辻村深月『かがみの孤城』感想

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辻村深月さんの「かがみの孤城」を読んだ。
ポロポロポロポロ、涙が止まらなくなる。
悲しいだけじゃなく清々しい、暖かで柔らかな涙。

あなたは一人じゃない。

そんなメッセージがずっと伝わってきてたまらなかった。
いじめられた経験がある人、現在進行形でいじめに悩んでいる人。

そういう人にこそ、読んで欲しいと思う一冊です。

 

かがみの孤城

 

『かがみの孤城』あらすじ

主人公は中学一年の少女こころ。
とある事件がきっかけで学校に行けなくなってしまった彼女は、外に出ることも出来ず苦しみの真っ最中だ。

そんなある日、彼女の部屋にある大きな姿見が突然輝きだす。
手を触れた鏡の向うにあったのは、大きな城と狼面をつけた謎の少女、それから同じように連れてこられた見知らぬ少年少女たち。

少女は『オオカミさま』と名乗り、不思議な城の物語を語り始める。

この城の奥には願いの叶う『願いの部屋』がある。
ただし入ることが出来るのは七人の中から選ばれし一人のみ。
五月の今日から翌年の三月三〇日まで、彼らは願いの部屋に入るための鍵探しをしなくてはいけない。けれども城が開くのは九時から一七時の間だけ。一七時までに家に帰らない悪い子は狼に食われてしまう…。

不思議な城に集められたのはこころと同じ中学生の子どもばかり。
そして平日の昼間に城にいる彼らはこころと同じように、学校を休んでいるはず。

そう思うけれど、こころにはその話を自分から語りだす勇気はない。
見えない気遣いから互いのことをあまり語り合わないまま、少しづつ距離を縮め、絆を結んでいく七人。

ある日仲間の一人、アキが学校の制服を着たまま城を訪れたことで物語は動き出す。
私は、私達はこの制服を『知っている』。
それは彼女達が通うはずだった雪科第五中学の制服だった。

現実世界でも会おう、みんなで助け合おう。そう言って、学校で会うことを約束する彼ら。しかし現実の中学校には、こころの知る名前の人間はおらず...

ストーリーはこんな感じ。
彼らは無事現実世界で出会うことが出来るのか?
願いを叶える鍵の場所は?
それぞれの抱える悩み事は解決するのか?

小さなミステリーに溢れた物語です。

人には言えない悩み事

七人の子どもたちは、皆それぞれの悩みを抱えています。

クラスのリーダー格の少女から非の無いことで一方的に嫌われ、外に出ることすら怖くなってしまったこころ。
母親との確執を抱えるリオン。
家にも学校にも、心休まる場所のないアキ。
家族から見放され、未来なんてどうでもいいと思いながら生きるスバル。
小さな嘘をついてしまうせいで、友達から『ホラマサ』と呼ばれているマサムネ。
ぽっちゃりキャラで、みんなからいじられ嘲笑われてしまうウレシノ。
ピアノの天才と呼ばれ、学校にも行かずそのためだけに生きてきたフウカ。

みんな自分は独りぼっちだと思っていて、誰にも頼れなくて。

そんな子どもたちが、同じ境遇の仲間たちを頼りに、支え合い助け合い、少しづつ強くなっていく。その過程がもう号泣でした。

 

私自身、中学校の三年間は転校生としていじめられっぱなしで、市販薬を一瓶飲んだり、髪の毛を抜いてしまったり、色々拗らせていました。

でも家族にも先生にもSOSが出せなくて。

苛められている自分がみっともなくて情けなくて、誰かに話すなんて恥ずかしすぎる。
あの頃はそんな風に思っていました。

大きくなって、当時は思春期でケンカばかりしていた弟たちに話を聞くと、彼らもまた一時期同じような目に会っていたことが分かり、驚きました。

一つ屋根の下でみんな同じような経験をしていたのに、打ち明けられる相手がいるだけでも少しは楽になっていたかも知れないのに。

当時はこんな目に合うのはきっと私だけで、弱い自分がいけないんだ、恥ずかしいんだと隠すことばかりを考えていました。

 

でも、こころやマサムネやウレシノを見ていて思います。
いじめられて当然の子なんてこの世にはいない。
誰かに助けを求めるのは、決して恥ずかしいことじゃなかったんだ、って。


これは希望に満ちたファンタジーだから、私の側には孤城に繋がる鏡なんてない、と今孤独の最中にいるあなたは思うかも知れません。

だけどもしかしたら、あなたがいま覗き込んでいるスマホが、パソコンが、誰かと繋がる鏡になるかも知れない。私はそう思います。

きっとあなたは一人じゃない。
もしも自分がこの世でたった一人だと思えたら、一人の城に閉じこもる日々が続いたら。そっと世界に繋がる窓を開いてみるのもいいかも知れません。

同じ境遇の人と知り合うだけでも、話すだけでも、ほんの少し気持ちが軽くなるかも知れない。

もちろんインターネットの世界には、怖い人も、悪い狼も、山ほどいるのでしょう。

それでもまだ会った事のない人と、たわいない話をしてさよなら、またね、と窓を閉じる時、私はいつも暖かい気持ちになれるのです。


寂しい時には、どうか会いに来てね。
私達は支え合いながら、きっといつか大人になれるよ。
涙のむこうに見たのは、あの頃の自分の背中だったのかも知れません。

 

かがみの孤城

かがみの孤城