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おのにち

おのにちはいつかみたにっち

休止路線の、その先を思う-柴田よしき「夢より短い旅の果て」感想

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あけましておめでとうございます。
新年ですが特に抱負もなく、今年も通常運転で続けられたら何より、くらいのハードルの低さで頑張っていきたいおのにちです。

 三が日はブログも休みと思っていたのに、今年最初の本があまりにも面白かったので勢いで書いています。

 

最初はすごく軽い気持ちで読みだした本でした。
ベテラン作家柴田よしきさんの短編ミステリで、鉄道モノ。
お正月番組の気分転換にピッタリかな、なんてページをめくって。

ところが読んでいるうちに東武日光線、金谷ホテルなんて知っている名前に引き込まれ。

物語の最後の旅がJR常磐線でー最後にこの区間は現在一部不通となっていると書かれているー震災前の駅名にふっと息を飲み。

それから著者がどんな思いをこめてこの本を書いたのか、というあとがきを読んで、揺さぶられて。

この本の続きが読みたい、そして私も電車の旅が書きたい!そんな風に思いました。
新年早々、『書くことのささやかな意味』を改めて実感させてくれた一冊です。

 

物語のあらすじ

 

夢より短い旅の果て

 

主人公は大学生の四十九院(つるしいん)香澄。
夢は西神奈川大学の鉄道旅同好会に入部すること。
そのため東大京大も射程圏内と言われながら、わざわざ鉄道旅同好会と交流を結ぶワンランク下の女子大に入り、正式会員の座を狙ってきた(西神奈川大は偏差値が低いため)。

西神奈川大の鉄道旅同好会は部員が書く旅レポが人気で、何度か書籍化されている人気同好会。

しかし香澄の目的は、実は鉄道とは別の場所にあり…。

横浜高速鉄道、急行能登、北陸鉄道浅野川線、氷見線、JR日光線、飯田線、ゆいレール、JR常磐線という8つの路線を巡る小さな謎の物語です。

香澄が出会う、電車の中の小さな不思議。
鉄道ミステリと言っても殺人事件や時刻表トリックはありませんが、美しい景色やグルメも楽しめる、旅気分満載の一冊です。

 

著者が届けたかったこと

 

ヒロイン香澄は、ある目的のために鉄道同好会に入りました。
そのため最初は鉄道に興味が持てず、レポートを書くことに戸惑いますが、次第に旅を楽しむようになって行きます。

私自身も、もしかしたら香澄と同じなのかも知れません。
車両のことなんて何一つ分からないし、鉄オタではない…と思いたいけれど車窓から見る景色は好きです。

各駅停車の電車の車窓からは、道を歩く人、畑を耕す人の表情まで覗けそうです。
踏切で手を振る子供。私も昔祖母と二人、過ぎ行く電車に手を振りました。

女の人が大きく手を振り返してくれて、もしかしたらあれは未来の私だったのかも知れません。電車に乗っていると、なぜかノスタルジックな、そんな気持ちになるんです。

 

旅を楽しみ、鉄道を愛する香澄や部員たちが身を持って感じるのは「来年もこの電車に乗れるのだろうか?」という廃線への不安。

地方の赤字路線に、自分達は何ができるのか。香澄たちが出来るささやかな抵抗は、電車に乗って旅に出ること、それからその旅の素晴らしさをレビューすること。

なんにも出来ないなら、乗って乗って、ただ乗って、この電車を動かしている人達に、あなたたちの仕事に感謝しています、と態度で示す以外ないんだ

同好会OBの言葉が胸に染みます。

 

著者、柴田よしきさんもあとがきの中で失われていくものへの後悔と、出来ることをしよう、と言う決意を綴られています。

この物語の最後は冒頭に書いた通り、JR常磐線です。
この本の中の話は、全て震災前に書かれたものなのだそうです。

広野、木戸、竜田、夜ノ森、双葉。
何気なく書かれた地名の路線は、東日本大震災によって一時不通になりました。

またこよう、またこの電車に乗ろう。

震災の影響で取材が出来なくなり、先の見通しが立たなくなった中で、柴田さんはそんなふうに無邪気な「またね」が考えられなくなってしまったのだそうです。

 今この時は二度とない時。
だから自分に出来ることをしよう、「そうだ、東北に旅しよう」と思ってくれるように、小説の中で東北の魅力を懸命に描こう、と柴田さんは書いて下さっていて、涙が出そうになりました。

 

本当に、全ては変わっていってしまう。

「長い、長い、長い想い」という飯田線の話の中で、新潟県と福島県只見町を結ぶ只見線はバスが冬季運行できないから赤字だけれど廃線にならずに済んでいる、と書かれていました。
しかしその後新潟・福島豪雨の被害で只見線は甚大な被害を受け、現在も会津川口・只見駅間27・6kmが運休しています。

細々とやっていたローカル路線が、橋梁を流されるという甚大な被害を被り、復旧のめどが立たなくなってしまったのです。

 

でも、未来はきっとくる。

すごく嬉しい事に、常磐線は復旧を続けています。
平成28年には原ノ町駅-小高駅間の運転が再開。平成32年(2020年)の全面開通を目指して、工事が続けられています。

応援団を作り、地道な募金活動を続けてきた只見線も、少しづつですが復興のきざしが見えはじめています。

 

www.pref.fukushima.lg.jp

 

今この一瞬はかけがえのない瞬間だけれど、失われたものを取り戻す未来はきっと来る。

またね、の日はいつかきっと、必ず来るから。
いつかもう一度、常磐線や只見線のごく当たり前の情景を、柴田先生に書いてもらいたいです。

止まったままのまたね、のその先の物語を。

  

私もいつか、身近な鉄道の話を書きたいと思います。

小説の中で、主人公香澄が大学の鉄道旅同好会のために、Webサイトに書いた紀行文のようなものを。

楽しいと思ったことを、美しいと思った景色を、普通に綴る、それだけの話を。
誰か一人でも「久しぶりに電車で出かけてみようか」と思ってくれたなら、それは香澄達が考える「鉄道の利用者を増やす方法」に繋がるんじゃないかな、と。

 この本を読んで、そんな風に考えるようになりました。

また、香澄の旅に出会えますように。
柴田先生がふらっと東北に来てくれますように。

 いつか、きっとね。
未来を信じたくなる、自分に出来る小さな何かを探したくなる、そんな物語でした。

  

鉄道旅ミステリ (1) 夢より短い旅の果て (角川文庫)

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 続編もう出ていた!
ソフトカバー版の1を読み終えたばかりですが、2も急いで読みます。  

鉄道旅ミステリ (2) 愛より優しい旅の空 (角川文庫)

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