加藤秀行さんの『シェア』を読みました。
コンサル会社勤務、現在はバンコク在住という著者の経歴が上手く生かされていて、とっても「今」な物語でした。
物語のあらすじ
『シェア』は表題作の「シェア」、「サバイブ」という2編の中短編が収録された物語。なお「サバイブ」は文藝界新人賞受賞作だそうです。
「シェア」の主人公はバツイチの中年女性ミワ。
元ダンナはネット系ベンチャー企業の社長。彼女自身も元はその会社のデザイナーだった。結婚するときに会社の株を指輪代わりに貰い、離婚した今は株を買い戻したい、とダンナから定期的に迫られている。
今はコードを書きながら、ベトナム人の若い友人ミーちゃんと、賃貸型マンションのほぼワンフロアを貸し切って、外国人向けの民泊ビジネスを行っているミワ。
ミワと、彼女の目を通した友人ミーの逞しさ、輝かしさ。
それからミワが抱える寂しさの根底がテーマの物語だ。
下のリンクから冒頭部分が読めるので、興味を持たれた方は是非。
出だしだけでも現代感が詰まっているのが感じられると思う。
もう一編、「サバイブ」は男友達の住む3LDKに転がり込み、『主夫』をしているダイスケが主人公。彼は外資系で働く二人の友人の家で家事をしながら、クラフトビールの店でアルバイトをしている。
6歳の時から12年間、柔道だけに打ち込んで生きてきたダイスケ。
高校を出て形にならなかった柔道を諦め、勉学に打ち込む気にも他の道を探す気にもなれなかった彼は、今を「ちょっとした息抜き」と捉えながら生きている。
動かない、けれど揺れている物語
二編とも文章は自然で読みやすい。けれども起承転結のある物語ではない。
ミワは株を手放すことを迷い続けたまま(ミワにとっての株は単なる資産ではなく繋がりや支えなのかもしれない)ミーと一緒にいる。
ダイスケは友人の元から彼女の部屋へと、転がり込む場所を替えるけれどその生き方は変わらない。
ミワとダイスケ。二人とも迷いながら、揺れながら日々を生きている。
大きな起伏のない物語だけれど、二人の瑞々しい感情の動きが面白くて、一気読みしてしまった。
物語の中ではダイスケの友人、亮介の話が一番印象的だった。
外資コンサルで働き、勉強熱心で優秀な亮介。
けれども誰かと結婚して一緒に暮らす未来は想像できない。誰かの人生の責任を取る自信がない。
そんな彼にとってダイスケだけが、優秀な自分になるために置き忘れてしまった何かを思い出させてくれる、必要な存在だった。
ミワにとってのミーもそういう存在なのだと思う。
家族ではない、責任を取る必要はない。それでもその輝かしさに目を細めたり、昔を懐かしむことは出来る。
法で縛られていないからこその、緩くて曖昧な繋がり。
こういう『縁』に、現代人は憧れるのかなぁ…なんて思いました。
以前紹介した宮内悠介さんの『カブールの園』に少し雰囲気が似てるかな?
でもあちらのテーマは人間のアイデンティティ、『シェア』は繋がりだと思います。
どちらの本もグローバルな世界観で描かれているので、今実際に海外で暮らすカンドーさんid:keisolutionsにも是非読んでもらって、彼女の感じる世界の空気感が物語に表れているのかどうか、聞いてみたいですね。
リクエストされている『定番含む、海外に持って行ってほしい小説べスト10』はまた今度書きます…容疑者Xクラスの名作ってハードル高いんじゃボケー!
それではまた。