小さな頃大好きで、特別だったお菓子がブルボンの「ルマンド」である。
一袋全部食べきれるくらいの好物だった…のはもちろんなのだが、更に特別だったのが食べる場所。
母からパリパリサクサクのルマンドは絶対食べこぼすからお家で食べるの禁止!と言われ、休日公園の芝生の上でしか食べさせて貰えなかったと言ういわくつきのお菓子なのだ。
おかげで未だに、大きな滑り台をみるとルマンドを思い出す。
大人になった今はわざわざ公園に行かなくとも、ルマンドが好きなだけ食べられる。
勿論今でも好きな味だ。
でも、なにかが違う。
あの頃のような特別感は失われてしまった。
小さな頃、ルマンドは紫色っぽく見えるからブラックでもホワイトでもない、特別製のチョコレートが塗られているのだと信じていた。
ルマンドのためだけのチョコレート。
だからルマンドはこの世に一つの味なのだと、そう信じて大事に大事に(食べこぼしながら)食べていた。
それからピンクレディーがCMをしていた宝石箱というアイスクリームも大好きだった。バニラアイスの中に赤や緑の、小さな氷が散りばめられている。
小さな頃は色の違う氷は味も違うと信じて、ひとさじひとさじ大事に口の中で溶かしながら食べていた。
大人になった私は気がついてしまったのだと思う。
ルマンドは公式いわくココアクリーム味だって(ココアの味…する?)。宝石箱の氷はみんな砂糖水の味だって。
たまに、年を取ることがさみしく思える時もある。
お菓子を食べて幻のチョコレート味を感じとることも、小さな氷をひとさじひとさじ楽しんで食べることもない。
幼い頃、祭りの尺玉花火が怖くて泣いた。
夜空を覆い隠すような火花と、地を震わせる大きな音。
あの時の私は絶対的な存在感を持つ花火に、自分の全てが乗っ取られるような気がして大きな声を上げて抵抗したのだった。
今の私は大きくなって、知らないものも少なくなった。
怖いものが減ったぶん感動も減った気がして、だから今は少しだけさみしい。
もちろん、大人になってもやっぱりお菓子は楽しくて。
今の私はカヌレがめっちゃ好きである。
なんなんですか、あのカリッとしてもちっとしてプリンみたいな匂いのする美味しすぎる食べ物…!
未だに子どもに隠れて、一人でちまちまコソコソ食べたりする。
そんな時の私はもしかしたら幻の味を食べているのかも知れない。
お気に入りのお菓子、それはきっと特別な記憶を呼び覚ましてくれるものなのです…