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雨雪と賢者~第9回短編小説の集い

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 こんにちはみどりの小野です。

 第9回短編小説の集いに参加してみました。今回のテーマは「雨」。

なぜか天気と変態紳士のおバカSF的な物が出来上がりました。拙いですがお時間があれば読んでみて下さい。微乳もあるよ!

【第9回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

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雨雪と賢者

 

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 世界が変わったのは1975年。カリフォルニア州の広大なライ麦畑の中だった。

 当時気象センターに勤務していたロバート・バーンズは、近くを通りがかった台風の中心気圧を測るため畑の中で待ち構えていた。

 1967年に飛行機による命がけの観測が終了されて以来台風の中心気圧はドボラック法、と呼ばれる推定法で観測されていた。気圧を実際に測定できるのは台風がたまたま接近した時だけだ。貴重なチャンスに彼は車の中で身震いしていた。振動式気圧計は車の中に備え付けられている。この車で台風の目の中に飛び込めば正確な中心気圧が測定できる。

 無線からはセンターで観測した台風の進路、速度が聞こえてくる。だんだんと風が強まってきたようだ。

「準備はいいか、ロバート。ニナまで西に1kmだ。彼女の熱い抱擁が待ってるぜ!」

 無線の向うで同僚が叫んだ。

「OK、今会いに行くよ」

短く返事を返し車を走らせる。台風197503号、彼女の名前はニナ。初めて出会う彼女のもたらす風雨に、ロバートの胸は躍っていた。

 

 どうやら無事に目の中に飛び込めたようだった。さっきまでの前も見えないような風や雨が嘘のように止み、しかし少し先を見回せば雨や雷、激しい風に振り回されるライ麦の穂が見える。

 機械が正常に作動しているのを確認し、車を降りる。目には見えない壁に取り囲まれていることを感じる。ぐるり、と周囲を見回しながら自分が彼女の中にいることを確かめた。197503号、ニナの勢力は強大だ。その時ロバートは自分の目が見えないはずの上昇気流をとらえていることに気が付いた。気象衛星から送られてくるデータのように彼女の姿が見える。赤や紫、危険を示す色合いを纏ってみえるのは変換式カラー強調画像のイメージだろうか。瞬きをするたびに彼女の姿が変わる。

 彼女の美しい等圧線に耐え切れず手を伸ばした時、ロバートは自分と彼女の手が結ばれるのを確かに感じた。

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 ライ麦畑の奇跡から40年。

 ケンジは今日もバスルームの中で目を覚ます。ユニットバスの洗い場には小さなテントが張られ、その中の寝袋で彼は寝ている。テントの外は冷たい氷雨だ。バスタブの中の彼女はどうやらまだ眠っているらしい。

「おはよう雨雪」

軽くつつくと小さな低気圧は身じろぎして目を覚ました。

「おはようケンジャ。今日の天気はどうかな?」

窓を開けると初夏の爽やかな風が吹き込んできた。

「今日は晴れて気温の上がる1日となるでしょう」

ケンジが言うと雨雪はぷう、と膨れて見せた。

「暑いと溶けちゃうんですけど~!」

 氷雨、気象学的にいうと5mm未満のみぞれ、である彼女は暑さに弱い。真夏には彼女の力も弱まってみぞれが冷たいだけの雨になったりする。真冬の絶好調時にはみぞれがあられになり寝ているとテントが破れて痛い思いをすることもあるのでケンジはどちらかと言えば夏場の勢力の弱まった彼女が好きだ。

「まあとにかく仕事に行こう。もう8時になるよ」

 

 気象台へ向かうポプラ並木を二人で歩く。歩く、と言っても天気である雨雪の足はいつもふわふわと浮いている。従って傍から見ると二人は30代の少しオタク風な男性と青い髪の毛をツインテールにした空飛ぶ美少女、になるのだが周りはもう見慣れているのか特に振り返りもしない。

 雨雪とケンジは秋田県気象台10人目の気象と気象捕獲士だ。コードネームは雨雪と賢者。正しくはみぞれである彼女を雨雪、と名付けたのは彼女を捕えたケンジだ。彼の名前をケンジャ、としか発音できなかった彼女にちなんでその名を付けた。

 二人は県職員として、県の農産物や市民のために働いている。ロバート・バーンズライ麦畑で台風「ニナ」を捕まえてからもう40年。

 色々あったが、擬人化された「気象」と気象を捕獲する「気象捕獲士」は国家や地方自治体で引っ張りだこの存在となっている。

「今日の仕事は何かな~?また子供たちやお年寄りの熱中症予防のために施設の屋根にあられを降らす、とか地味な仕事だったら嫌だよ」

水色のネクタイを風になびかせ、雨雪がそうぼやく。

「お前なあ…地味とか言わない、公務員の仕事は8割方そういうもんなんだよ」

ケンジがなだめる。不穏なことも多かった前時代。今こうして雨雪と人に役立つだけの仕事をしていられるのは幸せなことだ。

その時雨雪が空を見た。

「なんだか、すごく冷たいものがこっちに来るよ」

空は相変わらず晴れ渡っていたけれど、不吉な空気を孕んでいるように見えた。

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 職場へ二人が着くころには予感が現実になっていた。

「北海道から宣戦布告が来ています。狙いは南魚沼郡田圃地帯。田圃はようやく稲が育ち始めたばかり、今寒冷気象に襲われたら一たまりもありません」

オペレーターのマヤがショートヘアを揺らし、怯えた様子で話す。

「北海道は『ゆめぴりか』を全国展開しようと意気込んでいる。それには『あきたこまち』が邪魔だ…と言うわけだ」

司令は眼鏡を光らせ、組んだ両手に顎を乗せ考え込んでいる。ケンジは疑問を口にした。

「北海道から秋田まで直線で500km以上。しかも今日の気温は25度。北海道最大の脅威だった猛吹雪「月の輪」は昨年捕獲士の「熊」の死去とともに消失したはずです。海を越えて威力を殺さずに上陸できる規模の気象を北海道で捕獲したとの話は聞いていませんが…」

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 移動による威力の喪失と、捕獲士の死去による存在自体の喪失。

 戦争にさえ利用できそうな『天候』という大きな武器が国や自治体規模での管理に留まっているのはそうした弱点が彼ら気象にあるからだった。

 猛烈な勢いを誇る大型台風が沖縄から北海道まで辿り着けないように、彼らの威力は生まれた場所から遠ざかるほどに弱まる。また現実の季節には逆らえない。雪は真夏には冷たい雨程度になってしまうし、逆に真夏の高気圧は吹雪の冬には歩道の雪を少しだけ溶かすロードヒーティング程度の効果しかない。

 百年に一度、と呼ばれる規模の悪天候を手に入れてしまった捕獲士もいた。彼らの力を使えば海を渡っても台風や猛吹雪を狙う他国にもたらす事が出来たのだろう。過去形なのはそうした特殊な気象を手に入れた捕獲士は皆命を落としたからだ。

捕獲士が死ねば気象は実体を保てなくなり消失する。

 こうして気象と気象捕獲士の力は制限され、自治体の農業や気象の安定のためだけに利用される、はずだった。

 天秤が傾いたのは5年前。キャベツ日本一を狙う愛知県が群馬県に大型台風『台ふりゃー』を差し向けたのだ。『台ふりゃー』の規模は移動によって縮小されたが出荷間際の雨によって群馬県は甚大な被害を受けた。

 気象と気象捕獲士に関する法令はいまだに穴が多く、群馬は泣き寝入りを余儀なくされた。地方自治体の細かな小競り合いが始まったのはこの『キャベツ事件』以降だとされている。

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 こうしてケンジの住む秋田県は今、北海道からの侵攻を受けようとしている。

ケンジの疑問に、司令はこう答えた。

「確かに北海道には『月の輪』と『熊』亡き後大型低気圧は存在しなかった。しかしどうやら吹雪級だった『零下』が変体を遂げ猛吹雪に進化したらしい。零下は今捕獲士と共に秋田を目指している、このままではあきたこまち全滅の恐れがある」

「小春と晴天は?」

雨雪が高気圧の仲間の名前を呼ぶ。気温を上げる彼女たちがいれば『零下』の勢いを削ぐことが出来る。

「二人は今新潟県で行われている暑さ我慢大会のお手伝いで出かけているの。何故我慢大会のためだけに高額な謝礼を払い2人も呼び出すのかと思っていたけれど。謀ったわね、新潟…!」

 ぎりっ、とマヤが歯を噛みしめる。新潟も米どころだ。最近ブームの去ったコシヒカリの再興を賭けたのかも知れない。

 「他のメンバーもそれぞれ別の任務に出ている。今『零下』を向かい打てるのは雨雪と賢者、君たちだけだ」

「しかし司令、雨雪は『零下』と同じ低気圧です!これ以上気温を下げてどうしろと!」

言いかけたケンジを軽く上げた手で抑え、司令は口を開く。

「だから、君たちには『零下』と同じように変体を遂げてもらう」

「変体…!?」

ケンジと雨雪は顔を見合わせる。

「そうだ、零下は気温を更に下げることで吹雪から猛吹雪へと変体を遂げた。君たちなら、気持ちを一つに、熱くなることでみぞれを熱帯低気圧に変えられるかもしれない」

「無理です、司令!変体の失敗によって消失した気象の事例もあります、雨雪に耐えられるとは…!」

マヤが雨雪を庇うように前に立つ。

「大丈夫」

雨雪はマヤの肩を優しく押すとケンジの前に立った。

「私はケンジャがいる限りいなくなったりしない。…そして君が望むのなら、どんな姿にだって変わってあげるよ」

「雨雪…。ありがとう」

ケンジは雨雪の肩をぎゅっ、と抱きしめた。雨雪が少し赤くなる。

「ば、馬鹿、人前で…」

「すまない雨雪、これから変体のために心置きなく変態行為をやらせてもらう」

「へ!何それ、待って変体ってどうやって…ふにゃっ!」

いきなりケンジに小さな胸を掴まれ雨雪が叫び声を上げる。逃げ出そうとする小さな体を後ろから司令が掴まえる。

「すまん、雨雪。秋田のためだ」

そういいながらケンジは銀色の衣装に包まれた小さな胸を熱心に触る、揉む、揉みしだく。目を閉じ一心不乱に少女の胸を嬲るケンジにマヤが叫ぶ。

「もうやめて、変態!」

「そうだ、変態行為を行うから変体。しかしこれを行わなくては雨雪は強くはなれんのだ」

司令が重々しく呟く。しかしマヤの耳には少女の体を押さえつける変態どもの言い訳にしか聞こえなかった。

 「ふにっ、ふにゃっ!ううう~」

ケンジと同じように目を閉じ、蹂躙に耐えていた雨雪だったが次第に顔が赤くなり、髪が逆立つ。

「よし、いいぞ、あと少しだ!」

次第に熱くなる雨雪の体を掴みながら司令が声を上げる。ケンジはぺろん、と舌を出し雨雪の胸を舐め上げた。

「ぴーっっつ!」

雨雪は壊れた笛吹ケトルのような大音響を上げ空に飛びあがった。青い髪、銀の服が激しい雷の光で見えなくなる。風がたなびき、空はどんどん暗くなる。雨が突然降り注ぎ始めた。

「司令、雨雪は…」

雨雪の雷にひっくり返った司令とケンジにマヤが声を掛ける。

「成功だ、わかるかこの熱い雨が」

辺りには熱気が立ち込め、シャワーのような熱い雨が降り注いでいる。

やがて雷の中から一人の少女が現れた。黒髪のボブ、尖った瞳に褐色の肌、赤いサーカス風の衣装。姿かたちは変わっていても、ケンジにはすぐに分かった。

「雨雪!」

「行こうケンジャ、零下の所へ」

雨雪が手を伸ばす。二人は手を取り合って、零下が侵攻してくる秋田県沖へと向かった。

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 次第に暗くなる秋田県沖、零下の接近は気温の低下と降雪ですぐに解った。沖合から、青いショートヘア、白いプラグスーツに身を包んだ美少女が白衣の男と共にやってくる。

「止めるんだ、雨雪!」

雨雪が熱い雨を降らせ水温を上昇させ雪を蒸発させる。暑い熱気に零下と男は立ち止まる。そうして4人は向かい合った。

「俺の名は冷蔵庫。そしてカノジョは猛吹雪、零下。まさか東北で熱帯低気圧に出会うとはな…驚いた。どういうカラクリだ?」

白衣の男が話し出す。ケンジは警戒しながらも話に答える。

「俺たちは賢者と雨雪。雨雪は…『変体』を遂げたのだ、零下と同じように」

「変体だと!それは面白い、俺は零下のパンティを奪って頭に被ったのだ、すると気温が下がり零下は猛吹雪に進化を遂げた。お前は?」

零下のさげずむような眼差しに堪える様子も無く冷蔵庫は言った。

 「ち、乳を…」

「あーもう!とにかく私は変体を遂げたばかりで血がたぎっているんだよ!溶かされたくなかったら、早く帰りな!」

雨雪がケンジを押しのけてタンカを切る。

「あらあら。そうね、この海域は暑すぎる。今日の所は新しい台風の誕生を祝して帰りましょうか」

零下が冷たく笑い、冷蔵庫の頬をつまんで引っ張った。

「次に会うときは覚悟しておけよ…もがもが」

こうして零下と冷蔵庫は去り、秋田とあきたこまちの平和はひとまずは守られた。

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 戦いを終え家に帰り着き、雨雪とケンジが二人でテレビを見ていると画面にロバート・バーンズと彼女の台風ニナが出ていた。

 人類初の気象捕獲士ロバートはもう70歳。金髪で青いエプロンドレス姿だったはずのニナは何度かの変体を遂げ今は何故か緑の髪に虎柄のビキニ姿だ。

「今の姿はどう?」

ニナの変化が気になったのか、雨雪がケンジに問いかける。

「今と言われても…」

ケンジは目を閉じ、雨雪の等圧線を確認する。熱帯性の低気圧へと急激な変体を遂げたものの彼女らしい美しい等圧線のラインは失われていない。

「雨雪は雨雪だよ。何も変わらない」

「ばか、いくらケンジャでも人前で等圧線を舐めるなんて。次やったら知らないんだからね」

 

 今夜は暑い雨に打たれながら眠りにつく。今までは冷たい氷雨だったので心地よく眠れたが今度は蒸し暑くてなかなか寝付けない。

 普段は自分たちの気象をコントロールできる彼女たちだったが眠るときだけは無防備になる。そのため気象捕獲士の多くはバスルームでの就寝を余儀なくされていた。

 でもまあ冷蔵庫よりはましか、とケンジは笑う。猛吹雪の捕獲士熊は毎晩南極探検隊のような装備で寝ている、と有名だった。

 とにかく僕らは、と雨の音を聞きながらケンジは思う。

 強くなりたいだとか、誰かに勝ちたいとかじゃなく、ただ純粋に手を伸ばさずにはいられなかったのだ、自然の作り出した気圧配置のあまりの美しさに。

 ロバートがニナの手を掴んだあの日からずっと。

 

            FIN. 

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 いかがでしょうか、長かったですね。5000字ぎりぎりくらい。最後まで読んでくださったらそれだけで嬉しいです。このおはなしのために日曜日が一日潰れました。本当はもう一記事書きたかったんですがギブアップ!

 取りあえずよく最後まで辿り着いたと自分を自分で褒めてあげたい。

 

 言い訳としては、北海道も秋田も新潟も、群馬も愛知も大好きですからね!

あと揉んでいるのは胸じゃないよ、

等圧線だよ!

パンティがどうなっているのかは、

解らないよ!