今日は衝撃のマンガ、米代恭さんの「あげくの果てのカノン」感想。
一度読んで、底知れず怖いと感じた異色作。
今年は「あげくの果て」旋風がきっとくる。そう思える作品です。
作者さんの対談。この記事を読んでマンガ買っちゃいました。
あらすじ
ずっと雨が降る町で暮らす主人公、高月かのん。
彼女が小学生の頃世界は異変に襲われて、それ以来人類は異星生物「ゼリー」と戦い続けている。
街は廃墟。選ばれた地下住民と、危険な町で暮らす地上民に分かれた世界で、かのんが想うのは初恋の相手、境先輩のことばかり。
先輩は異生物と戦うエリート、おまけに既婚者。
それでも境先輩のそばにいたいかのんは先輩の職場の近くのケーキ店で働いている。
そうして8年ぶりに出会った先輩はやっぱり素敵で、かのんのような地上民にもわけ隔てなく優しかった。
だけど、戦闘の度に「修繕」を繰り返す先輩は昔とはどこか変わっていて…。
かのんの恋の歪さに泣く。靴下が好きだった頃
ヒロインかのんは高校の時から境先輩が大好き。
今は有名人になった先輩の切り抜きを集め、先輩が出入りするのを一度見かけた、という理由だけでケーキ店に勤め8年も待っている。
高校の時から先輩の画像を集め、日々の出来事を記録し続けているかのん。
先輩との接点は無きに等しく、卒業時に告白したら友人たちが驚愕するレベル。
無論その時点では振られる。
かのんの、実際には話す機会もないほど遠い先輩に憧れる気持ちは周りからは怖いだの、ストーカーだの色々言われている。
痛い痛い!と悶えながら、かのんの恋とも言えないストーカーっぷりが、かつてモテない腐女子だった私には物凄く腑に落ちる。
盗撮しまくり、先輩の彼女写真までコレクション。
箸袋まで大事に貰っておく。弟でも引くレベル。
そうなのだ、誰かを一方的に眺めていた頃の恋はこんな風に理不尽で一途で暴力的だったのだ。
高校の時私はダッフルコートの似合う先輩を好きになった。
毎朝誰より早く登校しては、三階の部室の窓から先輩の姿を探すのが好きだった。
やがて春が訪れ、皆がコートを脱いだ暖かい朝私は驚愕する。
いつも遠くからでも分かった先輩の姿は、コートを脱いだら皆に混じって見つからなかった。
私は先輩じゃなくコートが好きだったのかも知れない。
結局アプローチもしないままその恋は終わった。
話しかける勇気のない頃の恋は、こんな風にどこか歪だと思う。
紫の靴下を履いた男の子を好きになった友人は、彼が白靴下を履いているのを見て冷めたと言っていた。
先輩の「素敵なところ」しか知らないかのんは、先輩の人間らしい一面を見ても変わらず好きでいられるのだろうか?
マンガの中の先輩はいつも笑顔で、本心が一つも分からないのだけれど。
世界の終わりに合コンを。
かのん達の世界には終末が訪れている。
街には雨が降り続け、花も咲かず星も見えない。
明日をも知れない町の中で、かのん達の会話は呆れるほど常識的だ。
異星人と戦い、身体を欠損しすげ替えられ、いつ死んでもおかしくない状況にある先輩に恋していても、「結婚しちゃってたらどうしようもない」「不倫したいの?」なんて言われる。
警報が鳴り響き、戦闘の様子がモニターで映し出される避難所でかのんは友達と合コンのようなものを繰り広げ、友人に「この子彼氏いたことないんだよー、だから君たちどお?」なんて軽くおススメされて凹んでいる。
地上ではかのんの大好きな先輩が異生物「ゼリー」と戦っている。
でも戦闘は既に日常になり、先輩たちは体を欠損しても修繕されるから、避難中でも皆勉強したり、合コンしたり当たり前の日々を過ごしている。
その違和感がものすごく怖い。
モニターの向うでは先輩が戦い、重傷を負う人もいるのに「かっこいい…」とうっとり眺めているかのん。
「先輩は私のこと気持ち悪がったりしないもん!」
先輩が戦う中、自分の恋する先輩がどんな人か、強く語るかのん。
かのんにとっての先輩はヒーローで、だれよりもすごい人。
かのんは純粋に先輩に恋している。
その気持ちに嘘はなくて、とてもキレイで。
だけど大事な人が命をかけて戦う姿をどうして心配することなく眺めていられるのか、その感覚が怖い。
そして、『どんな先輩でも好き』なかのんでも許せなくなるほど変わっていく先輩の違和感。
欠損した体をすげ替えられた先輩は、どこまでが先輩なんでしょう?
「その人」を作るのは、いったいどこなんでしょう?
衝撃のラストに二巻が待ち遠しくてつらい
物語の終盤には、衝撃の展開が。
最後は0話、かのんと先輩が再び出会ったときのエピソードに戻り、第一巻は終わり。
「かのん」の名の通り、物語はカノンのような輪唱で終わります。
でもカノンは繰り返しのように見えて実は少しづつ違う旋律が奏でられている。
同じように見える先輩も、もしかしたら…?
まだまだ先輩の真意も正体も、かのんにとってこの恋が本物なのかも分からないまま。
人の真意、その人の根底。
タイトル通り、「あげくの果て」が見たいと思う物語でした。
続きがかなり楽しみな作品。SF×不倫という異色作。
今後の展開次第ですが、今年の星雲賞はこれが来るかも!