売野機子さんが描く非恋愛世界の恋愛マンガ『ルポルタージュ』3巻を読みました。
相変わらず今の私たちが抱える悩みや感覚を鋭敏に描いていて素晴らしい!
物語の舞台は、恋愛する人間がもはやマイノリティ扱いされている2033年の日本。
ネット上で手軽に男女がマッチングできるシステムが構築され、恋愛を飛ばしてわずらわしいこと抜きに最適なパートナーと結婚することが当たり前の時代となっている。
そんな時代を象徴するような場所が、『共同経営者』としての結婚相手を見つけるための「非・恋愛コミューン」。ところがその「非・恋愛コミューン」がテロの標的となり、多数の犠牲者が出てしまう。
新聞記者の青枝聖とその後輩、絵野沢理茗はタッグを組み、テロの犠牲者全員のポートレイト=ルポルタージュを制作することになるのだが…という物語。
犠牲者それぞれが抱えていた、恋愛への複雑な想い。
そして聖は、取材中に出会ったNPO法人代表、國村葉と恋に落ちてしまう。
様々な事件に携わる中で感情を表に出すことが不得手になってしまったヒロイン聖、そんな彼女に真っすぐな恋をしてしまう葉、聖に先輩以上の感情を抱いているものの、未だ恋愛と言うものが本質的には理解できていない理茗、三者の感情は複雑に事件と絡み合って行く…
のですが三巻発売が2017年。そこから新刊が出ていない…!
と思ったらモーニングで移籍リメイクされてましたー。
旧作とは少し設定変わってますね。第一話が無料で読めますので、未読の方はぜひ。
個人的には旧バージョンの冒頭の方が好きだけど、恋愛への忌避感が抱かれている時代、という設定はより分かりやすく伝わってくる感じがします。
とにかく今度はラストまで辿り着いてくれるといいな、と期待しております…!
寡黙で印象的なヒロイン、聖がとにかく魅力的。物語がどこに落ち着くのかも、気になるーー!
目的は結婚か、恋愛か
さて、ここからは個人的な話になります。
この漫画を読んで頭に浮かんできたのが、結婚相談所や街コンに行った男性から聞かされた愚痴でした。
会えば必ず年収や仕事の話を聞かれて、人間性が無視されているようで萎える…という話。結構よく聞きますよね?
同じく婚活中の女子は、だって結婚って生活を共にするって事なんだから、お互いの経済力をオープンにするのは当たり前でしょう、と割り切っていました。
婚活中の若い男女の話を聞いていて、二人の考え方の相違に気が付きました。
結婚したい女子、A子さん(30代前半)は学生時代に何度か恋愛を経験していて、今後は自分のライフプランに会った男性と出会いたい、落ち着いた結婚をしたいと願っている。「共同経営者」としての結婚相手を探したいと言う、『ルポルタージュ』の世界に近い考え方です。
対して男性のB夫くん(20代後半)は学生時代に出会いが無く、縁のないまま就職、職場でも出会いがないためとにかく機会を増やしたい、と結婚相談所に登録したり街コンに参加していました。
いわばA子さんは婚活ガチ勢、B夫くんはまったり恋愛からお願いします勢。
まだ年若く、考え方もまったり系のB夫くんからすれば、ガツガツ経済という現実から攻めてくるガチ勢の勢いが『怖い』んでしょうね。
一方恋愛を卒業して共同生活のパートナーを見つけたいA子さんから見ればB夫くんの考え方は緩すぎる、のんびり恋愛したいなら他所でやって、とバッサリ。
でも『他所ってどこですかー、日常生活で言い寄ると即セクハラ扱いされる世の中ですよ…』というB夫くんの愚痴を聞いて、はっと気づかされました。
そうなんだよね、職場に恋愛を持ち込むのも、歩いてる時にナンパするのも、そこでやるなよ、迷惑だ!って感じてしまうけれど、だったら堂々と言い寄れる『そこ』は何処にあるんだよ、という話ですよね。
様々な出会い系サイトもあるけれど、あれは恋愛ではなくS〇Xが目的だし、真面目に付き合いたいと結婚相談所に登録すれば付き合うことが目標ではない、と焦る女性からはねつけられてしまう。
普通に恋愛して、長く付き合って、お互いを良く知ってから結婚したい…がB夫くんの目標なんですが、A子さんからはそういう人達はだいだい学生時代から付き合ってるから!とバッサリ刈り取られてましたつらたん。
趣味のサークルとか、同じ価値観を持つ人を探すと良いんじゃない?なんてありがちなアドバイスをしてみましたが私も既に市場から遠ざかっているので空気感が分からないんですよね…
A子さんに言わせるとサークルなどの場であからさまにガツガツしている奴は引かれる、とのこと。さりげなくスムーズに意中の女の子だけに気があると匂わせるのがコツ、なんて言われてましたが「それが出来たら既にモテてますわ!」とB夫くんがブチ切れてました。だよな。
恋愛しぐさは難しすぎる。そしてそれが出来て当たり前、みたいな空気も余計ハードルを上げている。こういう世の中だから「恋愛工学」なんてマニュアルに縋る人が出てくるのでしょう。学生時代から恋愛慣れしてないと市場にも入れない、なんてハードルが高すぎるもんな。
それからB夫くんは自分より年下の相手希望なのですが、その理由にも納得。同い年、年上からは「こんなことも知らないの?」と笑われそうで怖いんだってさ。
とにかく若い女性が人気の婚活市場ですが、よく聞かれる理由『卵子は若い方が良い』は実は建前に過ぎなくて、本当はB夫くんと同じように知らない事を笑われるのが怖いだけなのかもなぁ、なんて思ってしまいました。
傍から見ているとA子さんは現実的過ぎ、B夫くんは夢見過ぎ。
足して割ったらちょうど良いのに…なんて思ってしまうけれど、そんな風に簡単に妥協できるなら誰も苦労しませんよね。
やっぱり恋愛って、面倒くさいものなのかなぁ。
それを帳消しにするくらいの良いこともあるはずだ、と信じたいんですけどね。
『ルポルタージュ』の世界のように、恋愛は忌避される時代はすぐそこなのかも知れません…。