さて、人里離れた山荘は好きですか?
辺鄙な場所にあるペンションは?断崖絶壁に建つ豪奢な館は?
それから大雨洪水大雪土砂崩れ、というシチュエーションは?
孤立状態、という言葉は?
全部大好き!大好物!という貴方にオススメしたい作品が、今村昌弘『屍人荘の殺人』であります。
とある大学の映研サークルが、OBの持つ山中のペンションを貸し切って夏合宿&撮影会。しかし参加者が減ってしまう『事件』があり、数合わせのためにミステリ愛好会のメンバーと探偵少女が参加することになる。
ところが夏の山荘は完全に閉ざされてしまう羽目に。
台風?土砂崩れ?
いいえ、屍人のタイトルで分かる人は分かりますよね?
…山荘を襲ったのは大量のゾンビの群れ。
つまりこれは、ゾンビに襲われ建物内に立て籠もったことで孤立してしまう、世にも珍しいゾンビ・クローズドサークル・ミステリなのです!
これはもう発想の勝利。シチュエーションだけで面白いですもん。
更に作者が上手いんですよ。
アイデアは珍奇に聞こえるけれど、ちゃんと古典のお約束を踏みつつ、丁寧に物語を描いていくから『あり得ないだろ』感が少ない。
序盤で脱落した先輩がラストに再登場したり、些細な持ち物の話が終盤のトリックに関係してきたり、主人公のトラウマが事件の鍵になっていたり。
テロリストのノート、なんていう本編にはあまり関係のない小道具まできちんとラストに回収されるから、読んでいてかなり心地がいいです。
テロリスト寄りに書けばパンデミックものになる話なのですが、物語としては純粋なクローズド・サークルもの、つまり十角館路線を貫いている。
主人公が明智恭介、美少女探偵の名前が剣崎比留子と、名前も古典的でそういう路線を意識していると思われ。
ちょっと青くさい主人公の描写とか、ラストのヒロインの鮮やかさ(ここは本を読んで欲しいんですけれどーあげない、からの台詞がやたら鮮やかで映像的で良かったです。こういう印象的なシーンっていいよね!)とか、続編を期待したくなる作品でした。
とにかく諸君、クローズド・サークルはいいぞ♡
閉ざされた山荘、という言葉に血沸き肉躍る人なら、読んどいて損はない作品だと思います。ゾンビもそこまで怖くないんで、ホラー嫌いさんも是非!