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「関根くんの恋」感想―毛糸と恋を編むような。

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「関根くんの恋」というマンガを読んだ。
著者は河内遥さん、太田出版、「マンガ・エロティクス・エフ」掲載作品。

実はよく知らない作家さんで、たまたまブックオフで全5巻セットで1000円、という破格値に惹かれて購入したのだけれど面白かった。

 

こんな風に思いがけない出会いもあるから古本も侮れない。
好きな作家さんは新刊で買うけれど、100円ワゴンも知らない作家さんの導入部としてはいいんじゃないの、と思っている。

ただ、それが当たり前になると出版業界の衰退に繋がっちゃうんだけど。
それとも現代の本の敵はスマホだろうか?

 

 

関根くんの恋(1)

 

 世にも稀なる残念な男関根圭一郎、三十路。仕事が出来て男にも女にもモテるイケメンエリートだが、「鈍感・受け身・器用貧乏」の三重苦がたたって、どこかピントのずれた人生を送ってきた。一念発起した関根君が向かったのは、小さな手芸用品店編み目を数えるうちに思い出すのは、過去の忌まわしい記憶と、数音先輩の細い細い身体の感触……!?そして出会った手芸屋の孫娘・サラ。ついに関根くんの恋が始まる……かも。

 

「関根くんの恋」はタイトル通り関根という30歳男性会社員が自分の趣味を探すところから始まる物語である。

 

この関根という男、実に漫画的な生物で、モデルのようなスタイルの超絶イケメン。モテすぎる、隙あらば女に押し倒されるという設定。

しかし傍からみたらかっこいいはずの関根くんは、物語の中では面倒くさくて辛気臭くて女々しい男だ。

趣味もなく、なにかに夢中になった思い出もない。
30になって、自分の人生は流されてきただけではないのか?とようやく己の空白に気がつくような男。

そしてよく泣く。
趣味探しの一環として編み物を習うことになる手芸店の娘、如月サラの前で無防備に泣いてしまう。

サラ曰く、若年寄の情緒不安定。

何を考えているのか、見当もつかない関根に庇護欲をそそられてしまったサラは、関根が認識していなかった「長年の片思い」を見抜き、指摘するのだが…。

 

関根くんの片思い

 

何事にも無関心な男、関根。
そんな彼の唯一の親友が、同級生の紺野。
のんびりおっとり、ノリのいい彼の合コンを見張り、無事妻の元へ送り届けるのが関根の役目。

そして紺野の妻、数音。彼女は関根と紺野の高校の先輩。
家庭の事情を抱え、拒食症を患っていた過去を持つ。

 

関根は彼女の細すぎる腕が苦手で、なのに目が逸らせない。
サラに指摘されて初めて、数音に抱く苦手意識が恋の裏返しだと気がつく。

さて、ここら辺が物語の導入部。

30歳になっても自分の初恋すら自覚できないほど奥手な男、関根。
その癖彼女や行きずりの相手は数え切れぬほど。

断ることすら面倒で、相手が飽きるまで待てばいい、そんな消極的な姿勢で女性と付き合ってきた。

 そんな彼が面倒見のいい年下の女子、如月サラにズバッと指摘されたことで自分の想いを自覚し、編み物を通して自分の気持ちを解きほぐしていく、そんなお話。

 

このサラちゃん(漢字で書くと皿。なんだその名前…)がすごくかわいい。
そばかすで、表情豊か。手芸やさんらしい凝った編み込みヘアにオーバーオール。
誰とでもすぐに仲良くなれる人気者で、趣味は応援。
ちょっとおかん気質で、しっかり者の女の子。

 

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そんな風に生活力のあるサラちゃんから見た関根は、すごく不遇で生きていて何が楽しいのかも分からない、謎の男。

関根の世話を焼くうちに少しづつ彼にときめいたりするのだが、とにかくモテる男だというのを知っているので深入りしないように、と自省している。現実的なキャラである。

 

一方の関根は、付き合った経験は無数にあるのだが自分から口説いたことは一度もない、という恵まれた男。

なので好きな相手が出来てもどう対処していいのか分からない。
結果、相手へのプレゼントを部屋一杯にため込んだり、自然に話しかけられないのが口惜しくて先に帰ったりしてしまう。

いつも無表情だし、考えていることが分かりずらい、伝わりにくい。

そんな関根を見ているうちに、モテ設定を別にしたらこれは現代の恋そのものなんじゃないの?と思えてきた。

 

恋に自信がない人たち

 

新聞に男女交際の経験者数が減ってきた、という内容の論説が載っていた。

恋愛経験があるか、結婚に積極的であるかどうか、という数字は年収に比例するらしい。不景気が続き、恋愛にお金を割く余裕が無くなってきた、ということだろう。

フリーターや臨時職に就いている人達は出会いの場が少ない、という話もあった。
恋愛、結婚の経験者数を増やしていかないと出産率も減少するばかりである。

もはや政府が若者の結婚に給付金を出したり、無償の婚活サロンを運営するしかないのでは、と思ったりもする。

 

www.itmedia.co.jp

 

論説者が言うには、収入や出会いの場の減少だけでなく、交際経験が少ないせいで男女ともに消極的で奥手な人間が多いのではないか、互いに誘われるのを待っているのも出会い不足の一因なのではないか、という話だった。

 

確かに私自身、初めての恋を思い返すと不器用で消極的だった。

わざわざバレンタインデーまで待ってチョコを贈ったり、贈るころには少し冷めてたり、そんな微妙な雰囲気。携帯なんてない時代だったので、二人で話すチャンスをつかむことすら一苦労だったのである。

経験数だけは豊かで、さりげなく女性をリードできる関根も、女性を口説いた経験がない(押し倒されてばっかりだったので)。

携帯番号も聞けないし、メールも送れない、消極的なタイプ。

なんとか彼女を誘ってはみるものの、相手にそれが好意からだ、とうまく伝えられない。いつも眉をしかめて、楽しくなさそうな顔をしている。

本当は物凄くワクワクして、着る服が無くて服屋で全部揃えるくらいの気合の入れようなのに、うまく伝わらないのである。

こういう関根くんを見ていると、昔の男友達を思い出したりする。

自分から映画に行こう、と誘ったくせに特に観たいものはない、食事もなんでもいい、と人に丸投げ。

その覇気の無さ、つまらなそうな顔にムカついてそれきり二人では会わなかったが、時が経って本人に聞くと『何を選べば良いのか分からなすぎて、クールな振りでごまかそうと思った』という話だった。

残念、ごまかせてなかった。逆に悪印象だった。

 しかし私がはっきり『つまらないの?』と聞くか、彼がもう少し素直に開示してくれたら、次回のデートも有ったのかも、と思ったりするのである。

 

対して関根くんの親友、紺野は清々しいくらい開示する男である。

ぽっちゃり体型、糸目と見た目には恵まれていない紺野であるが、誠実なアタックで関根の想い人、数音を手に入れる。

紺野は既婚者でありながら合コンに行くし、ハプニングバーの会員になって妻に家から蹴りだされるような男である。

でも彼の愛情は臆面がない。俺数音ちゃん一筋だから、と言い切るし、ハプニングバーも奥さんと行きたかったのである。

高校の時は拒食症の彼女のために弁当を作った。
謎のキャラ弁を、趣向を変えて、食べてもらえなくても毎日欠かさず。
「数音ちゃんが笑ったら俺の勝ち」

そうして紺野は数音と一緒になる。
家庭の問題を抱えていた数音にとって、ストレートな愛情は代えがたいものだったんだろうな、と思う。

毛糸のように絡まった関根くんの恋の道行きはまるで初恋のよう。
電話番号を聞けない、上手く誘えない。
何を話したらいいの、どうしたらいいの、ヤキモキする気持ち。

 

でもそうやって絡まったりもつれたりしながら「どうやったら上手く伝わるか」を模索するのが恋であり、『人に想いを伝えること 』なんだと思う。

紺野みたいに最初から上手く開示できる人は稀。
だからみんな食事に行ったり、映画に行ったり、様子を伺いながら恐る恐る恋をする。

必ず上手く行くとは限らないし、お金がかかる、コスパは悪い。

 

だけどそれでも。

想う人が同じくらい自分を想ってくれる一瞬は、かけがえのないもの。
関根くんの恋が実るシーンは綺麗で、優しい。

時が経てば変わってしまうかも知れないけど、あの時好きだった、相手も同じ気持ちだったって経験は、きっと自分を肯定してくれる、小さな自信に繋がるのかも知れない。

今日はそんなことを「関根くんの恋」を読んで感じました。
なお、18禁ではないですが多少エロいので(セーターをほどきながら脱がせるシーンとか、なかなかの)そういうのが好きな方にもオススメです!

  

関根くんの恋 コミック 全5巻完結セット (Fx COMICS)

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関根くんの恋(1)

関根くんの恋(1)