おのにち

おのにちはいつかみたにっち

取り次ぐ先のない電話

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時折、どこに宛てたものなのかわからない電話を受け取ることがある。

職場の窓口に電話をくれたおばあちゃんは、今日届いた郵便の内容で困っているようだった。しかし封筒の色や形を言われても、それだけではどんな内容なのか、どこから送られてきたのかも、電話の向こうにいる私には分からない。

送付先や件名を知りたいのだが、何と書いてありますか?と聞いても返事は帰ってこない。今度は利用していないのに年金から引かれている、介護保険の愚痴になっている。

それは市の介護保険係ですね、お電話番号分かりますか?と検索しようとすると、掛け直すのは面倒だからいい、それよりも貯金がどんどん減っていくのが心配だ、息子も嫁が厳しいからとおこづかいをせびってくるのだ...と話はどんどん二転三転してくる。

暇な時間帯なら付き合ってもいいのだが、あいにく今は窓口が混みあっている。
申し訳ないのですがうちは公共機関ではないので、お客様のご相談内容には回答できかねます、相談内容にあった場所に電話をかけ直してくださいますか...と言おうとして口ごもった。

天引きされていく年金が不安、目減りしていく貯金が不安。たまに来ては小遣いをせびっていくだけの息子が不安...

どの質問も曖昧でファジィだ。きっちりとした回答が求められているものではない。
そんな曖昧な不安の問い合わせ先は、年金事務所だろうか市役所だろうか警察だろうか?心の電話が必要なほど差し迫っているようにも見えない。

多分おばあちゃんは本気で明確な数字や対策を求めている訳ではない。
自分の抱えている曖昧な不安を吐き出して、心を軽くしたいだけなのだと思う。
そしてそんな風に『ちょっと誰かに打ち明けたい』だけの人のための、問い合わせ先は何処にあるの?

 

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昔なら親族や夫や友人や、自分の周りの人間に軽く愚痴ってそれで済む話だったのだろう。でも長く生きる内に相談相手はみんな亡くなってしまって(夫も姉もミーちゃんも死んで話す相手が誰もいない、とおばあちゃんは言っていた。ミーちゃんって誰?)愚痴をこぼす場所も無くなってしまった。

介護施設に入居したり、デイケアセンターを利用すれば少しは寂しさを埋められるのかも知れないが、丈夫で介護保険を利用したことがないのがプライドのような口ぶりだったので、なかなか難しいのかも知れない。

窓口にいても、この人は少しでも長く話を引き伸ばしたいのだろうな、雑談に飢えているのだろうな、なんて感じることは多い。その逆で一分一秒でも早く用事を済ませたい人も多く存在しているので、なかなかバランスを取るのが難しいのだけれど。

命の電話ほど重いものではなく、ただなんとなく不安を感じた時、誰かとしゃべりたくて仕方がない時に電話できる場所があったらいいのに、なんて思う。

 

昔ダイヤルQ2なんてサービスがあった。
出会い系みたいな使い方が大ヒットし、高額請求が社会問題にもなった。
あの頃電話をかけた人たちは、みんな本気で会ってヤルことだけが目的だったのだろうか?

ただ人と話したい、なんとなく寂しさを埋めたい。
きっとそんな人もいたのだろう。今でもSkypeや出会い系サイトの向こうで、ただ愚痴を聞いてくれる相手を求めている人もいるのかも知れない。

 

寂しいおばあちゃんの姿は、いつか来る私の未来なのだろう。
夫婦でいても基本女の方が長命だろうし、子どもたちには巣立っていってもらわなくては困る。老人ホームで賑やかに暮らしたいけど、私の時代には基本自立が大前提だ。
ホームもデイケアも、次第に贅沢品になっていく。

そうして退屈と孤独を持て余した時に、近所の会社に電話して迷惑を掛ける訳にもいかないから『ちょっと誰かに打ち明けたい』ダイアル、みたいなのがあったら助かる。

でも、ワガママを言わせて貰うなら中の人は人間じゃない方がいい。
出来ればメンタルを病まないタフなAIが、人口音声で答えてくれると有難い。

 

...だって他人の愚痴を聞かされて気が付いたんだけど。
人の愚痴って結構重いのよ。
未来の自分を重ねちゃって、メンタルガリガリ削られるのよ。
そんな重たいものを見ず知らずの方にポイって預ける訳にも行かないじゃないっすか。

それに空気が重たくなるとつい、盛り上げなくては!と張り切ってしまう系の私。
どんなに暗い話をしても過剰に引きずられないで、そうなんですかー、と軽く流してもらった方が有難い。

そういう対応はAIの方が向いてるんじゃないか、と思ったりして。
いつも安定したメンタルの話し相手。
人間はどうしてもその場の空気に合わせてしまいがちですから。

 

しかし、AIの学習先は是非プロのカウンセラーさんにして欲しいっす。
日常の話し相手、つまり相談してくる孤独な人たちを学習先に設定してしまったら、この世で一番不幸なAIが誕生してしまいそうで。

嫁の愚痴を聞いて貰おうとしたら『あらー!そんなの良い方よ、ウチなんてね…』と一段上の話を返されたりしてw
でもそれも、ごく当たり前のコミュニケーションの形なんですけどね。

 

結局、無料で一方的な愚痴を大変ねぇ、なんて心優しく聞いてくれる人は電話の先にもネットの向こうにもそうそう見つからない。
自分のご機嫌くらい自分でとれや、って話なのかも知れません。

分かってますか、ネットの向こうのオマエラ。
不幸自慢は独り言にしてね!@つけて送らないで!
送ってもいいけどたまには私の愚痴も聞いて!

...そんな訳で今日はグチグチ愚痴愚痴、グチの話でした(笑)
とっとと気持ち切り替えて、明日も頑張ろう!