おのにち

おのにちはいつかみたにっち

失踪したい私が読む本〜「雨天炎天」村上春樹

スポンサーリンク

年度末ですね。
皆さんお忙しいかと思われますが私もです。
私は既婚で子持ち、仕事をしています。

全部自分がそうしたくて選び取ってきた道なので、後悔はありませんし程々に幸せだと満足しています。

なのに時々、全部放り出したい、誰も知らないところに行きたい、一人になりたい、と思うことがあります。
 

f:id:yutoma233:20150327201202j:plain


それは大体今みたいにすごく忙しい時期に、すごく他愛無い事から生じる感情で。
 
たとえば、仕事から疲れきって帰って家のドアを開けると室内がものすごく散らかっていて、ゴロゴロしている子供とダンナが「お腹へったー」と無頓着に言う時。
 
残業続きの朝なんとか起きて職場へ行くとなにやら問題が起きて電話が鳴り響き室内が騒然としている時。

普段なら「仕方ない、やるか!」で済むような事柄が、疲れているとものすごく重く感じられて。
思わずドアを閉めて、見なかったことにして逃げ出したくなります。

若い頃理解できなかった、何も問題がなさそうに見える人が突然失踪してしまう時の気持ち。
今ならちょっとだけわかります。
なんか、一杯一杯になるんだよなー。
そうして溢れた水瓶の魚は流れていってしまうのでしょう。

もちろん私は実行に移したりはしません。
握ったものを手放せるほど無欲じゃないし、大切さもよくわかってるから。

そんな時はベッドで旅行記を読みます。
一人旅で、少し寂しさを感じられるような話が理想的。
深夜特急とか、遠い太鼓とか。

中でも、村上春樹さんの『雨天炎天-ギリシャ・トルコ辺境紀行』のギリシャ編が最近のお気に入りです。

  

 

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

 

 

  

このエッセイの一番素敵な所は、絶対に私ではたどり着けない場所が舞台である、ということ。

女人禁制の聖山、アトス。
ギリシャ、アトス半島にあるこの山は、正教会の聖地であり、修道院による自治が認められている国家でもあります。
ギリシャ本土と陸路でつながっているものの、船か徒歩でしか「入国」が許されず、訪問者の数と滞在期間は限定で、入国許可証が必要。ギリシア国籍以外の者は1日8名しか入れない。

少しWiKiで調べてみましたが、男性でもなかなかたどり着けなそうなこの場所。

アトスの旅の道のりはすごく険しくて、埃っぽいし、しかも食事も不味そうで。
ぜんぜん楽しそうではないのだけれど、なぜか清々しく感じられます。

この本を読んで、すごくアトスに行きたいと思っても、そこは私には絶対に立ち入れない場所だから。
 
どこへでも行こうと思えば行けてしまう世の中で、絶対に立ち入れない場所があるという幸せ。
私はそこへ行きたいのだけれど、たどり着けないから諦めて、逃避衝動を本で充足して、日常に立ち返ってゆくのです。
 
 
とりあえずこの花粉さえなんとかなれば年度末なんてぜんぜん平気のへ、なんですが…
せめて花粉から失踪したい、今日この頃。
 
 

 隣の花粉を笑っていたら自分も来た話。

yutoma233.hatenablog.com