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佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」感想-夜の底でも明るいどこかへ

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佐藤多佳子さんの「明るい夜に出かけて」を読んだ。

主人公は訳あって大学休学中、現在はコンビニのアルバイター。
彼の1年間を描くこの物語には、青春のこそばゆさ、もどかしさがぎゅっと詰まっていて、読みはじめてすぐに引き込まれた。

若者の1人称で誰にでも読み易い、入りやすい物語だと思う。
人と違う自分に生きづらさを感じている人、かつてそんなふうに感じていた大人たちに読んで欲しい一冊。
深夜のコンビニで、行き場のない寂しさを紛らわしたことのあるあなたなら、きっと響く物語です。

 

明るい夜に出かけて


ある事件がきっかけで大学に行けなくなり、実家にも居られなくてコンビニのアルバイトと一人暮らしを始めた主人公富山。

仕事や同僚にも少しずつ慣れてきた頃、深夜のコンビニで変わった客を見つける。
ピンクのジャージ、ぼさぼさの髪。

中学生にしか見えない少女がリュックに付けていたのは富山がいつも聞いている深夜ラジオでネタを採用され、選ばれた者だけがもらえる憧れのカンバーバッヂ(カンバーと書いてあるバッチ)。
富山思わず「カンバーバッヂ!」と声を上げてしまったことで、奇妙な縁が繋がっていく。

 

ラジオ番組「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」の大ファンであり、ネタが何度も採用されている『虹色ギャランドゥ』ことヒロイン佐古田。
自身もアルピー(アルコ&ピース)が大好きで、『トーキングマン』の名前で投稿している主人公富山。
それからコンビニの同僚であり、人気歌い手の鹿沢。
主人公の幼馴染で、アメーバピグの配信をやっている永川。

4人が深夜のコンビニで出会って、繋がりあうような作品を作る1年間の物語。
陳腐な感想だけど、すごくすごくすごく面白かった!

おとなしく地味めだけど、ファッションにはこだわりがあり、行きつけの美容院やスタイリングもばっちりなメガネ男子富山。
ピンクジャージで目がくるくる、不思議なセンスだけれど才能に溢れた女子、佐古田。
ナチュラルな性格で女性にモテるのに、不思議ちゃんが好きでつかみどころのない鹿沢。
ぽっちゃり体型、いつも一言余計だけれど打たれ強くて面倒見のいい永川。

他にも厳しいけれど掃除が好きで仕事一筋な副店長のアニさんや、スナックで働く気さくなミミさんなど、様々なキャラクターがみんな生き生きと描かれている。
どの人も姿が目に浮かぶ。

コンビニという店内が想像しやすい場所が舞台なこともあって、脳内で映像化しやすくドラマや映画を見るように楽しめた。中高生でも読める青春物語だと思う。

歌い手、Twitter、動画配信なんて、すごく旬の話なのだけれど、主人公とヒロインがラジオのハガキ職人と言う昭和の私にもわかる設定なので、引き込まれて読んだ。

 

ブログを始めた頃、暗い夜に羽虫を放つような、心もとない気持ちになった。1日1PV、2PV。本当に他の人のパソコンからも私のブログが読めるのだろうか?と不安に思っていたあの頃。
画面の向こうに本当に人はいますか?と問いかけたくなった夜もあった。

やがてTwitterを始めて、雲の上の人だと思っていた人気ブロガーさんと話せたりして、オフ会なんかも行っちゃったりして。

書くことで繋がるキラキラした楽しさを、小さなバッチがきっかけで始まる物語の中にもう一度見つけたような気がした。
誰かに言及したり、されたり。自分の言葉が繋がって、広がっていく楽しさ。

インタビューを通じて色んな人と知り合ったり、まだ数人だけれど実際にお会いした方もいる。アラフォーだし、普通のおばちゃんだから…と腰が引けていたけれど、よく言われるように『今日より若い明日はない』んである。

会った方は皆ブログ通りの語り口で、初めてなのによく知っている、という不思議な既視感があって面白かった。

 

もちろん世界は楽しい事ばかりじゃない。誰かに嫌われたり、暗い夜もある。

物語はそれでも「明るい夜に出かけて行こう」と優しく歌う。
ラスト歌い手の鹿沢がみんなで作った歌を生配信し、衝動にかられた主人公たちが集まるシーンに泣きそうになった。

私はこの歌が聞きたい。
この本を読んだ人ならきっと、いや絶対にこの歌を聞きたいと思うはず!

この本は絶対売れるし、ドラマ化映画化間違いなしだろ!と言う勢いのある作品。
いや、もう頼むから売れてください、本屋大賞とってください、ドラマ化映画化してください。
そして私にこの歌を聞かせてください…!

 

世界は優しいことばかりじゃない。自信を失い、うずくまりたくなる夜もある。
孤独で死にたくなるような夜は、自転車を走らせたらいいと思う。
コンビニ、ファミレス、夜の底でも明るいどこか。

それでも埋め合わせできない孤独なら、#チーズインハンバーグって呟いてみるのもいいかもしれない。
誰かと交わす些細な会話が、きっと暗闇を照らしてくれるから。

私もいつか、あなたに会いたくなりました。
ほんのちょっぴり、寂しさを感じた夜にオススメの1冊。

それでは今日は「明るい夜に出かけて」の感想でした。

 

明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて