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フランクリン隊はなぜ姿を消したのか?北極で命を落とした129人の歩いた道~アグルーカの行方

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 今週のお題「最近おもしろかった本」

こんにちはみどりの小野です。

今日は第35回講談社ノンフィクション賞受賞作、

「アグルーカの行方」角幡唯介

を紹介します。

北西航路を探す英国の探検隊、フランクリン隊が通った北極圏のルートをたどる旅路。

フランクリン隊は、なぜメモも残さず消息を絶ったのか?

彼らの辿った道を、橇を引き歩き続ける著者。3か月を超える壮大な探検記です。

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫)

 129人全員死亡、フランクリン隊はなぜ命を落としたのか

書店でこの本を手に取ったとき、惹きつけられたのは「129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」というサブタイトルでした。

1845年、ヨーロッパからアジアへと続く北西航路(北極海からベーリング海峡を越える航路です)を探し、途中で全員命を落としたイギリスのフランクリン隊。

実際に史上初めて北西航路の通過に成功したのは1903年に出発したノルウェーのアムンセン隊でした。

本の文頭にある地図をみると、2つの隊の辿った道のりはほぼ重なり合っています。

フランクリン隊の悲劇の理由が知りたい。最初はそんな理由で読み始めました。

 

北極の氷の上を歩く。氷点下19度は高温、という世界

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実際に読み始めて惹かれたのは北極を100kmの橇を引いて歩く、著者の語る極地の物語、その生活のディティール。

朝起きるとテントの中が自分の汗や息からできた霜で覆われ、服や寝袋を濡らさないように霜を落としてから起き上がる。

食事はラーメンにペミカンと呼ばれる肉や油を固めた高カロリー食品、さらにサラミやソーセージに乾物。一食1300~1400キロ。昼はカロリーメイトやビスケット、ナッツ、ドライフルーツなどを500g、ジップロックに入れて持ち歩く。

一番気になったのがサラダ油とゴマ、それにきな粉を加えた手作りのチョコレート。最初は歯が立たないほど固くまずいと思っていたそれが旅を続けるうち美味しく感じられてくるほど体は痛めつけられている。

一日分の食事量が重さ1Kg、5000キロカロリー。これだけの食事を摂っても、旅を続けるうちに体から脂が抜け、足りなくなってくるというのだからすごい。

荻田は夕食を食べ終わった瞬間に、あー腹が減ったとつぶやくようになった。その冗談に最初は噴き出したものだが、何日か後にそれが冗談ではなかったことがよくわかった。いつの間にか私も、夕食を食べ終わった瞬間に腹が減ったと感じるようになっていたのである。

食べる寝る排泄する。そして歩き続ける。

 

 角幡と北極冒険家荻田泰永。二人の旅の様子と、フランクリン隊が辿った旅路の跡。二つの物語が語られます。

現代も過去も、極地の過酷な状況は彼らを痛めつけていくのですが、そんな中でも北極でウンコをするとどうなるかとか、北極でオシッコを漏らしたのは過酷な状況のせいなのか、それとも他のやばい理由なのか、とあせりながらパンツが乾くのを待ったり。旅は厳しさだけではなくユーモアにも溢れています。

一番笑ってしまったのはこの部分。

 (口唇ヘルペスの)治療薬がなかったので、私はテレビCMでおなじみの痔の軟膏を唇に塗っていた。そして痔の薬を持って来ていることからもお分かりの通り、私はお尻に軽い痔系の疾患を抱えており、このときは体の入り口と出口にボラギノールを塗るという体たらくだった。

 上からも下からもボラギノール。

 

他の作品も読みたいのです

 書店でこの本を買う時少し迷いました。初めての著者だったのですが、他の既刊もみんな面白そうで、賞もたくさんとっていて(開高健、新田次郎賞など)どれから読もうかと。そしてこの本を読んだ結果。…たぶんこれから私は角幡唯介の作品を追いかけて読んでしまうと思います。

ノンフィクションでありながら、面白い小説、そしてミステリーやファンタジーを読むように私はこの本を楽しみました。

タロやジロ(古い)にロマンを感じた人なら絶対響く所がある、冒険小説の新しい地平を感じる作品。

読め、読んで、読むのだ!

三段活用でオススメしたい一冊です。