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文章の持つ力–どんどん進化する辻村深月がすごい!

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  文章や映像って、人の心を揺り動かす『チカラ』があるよなあ、といつも思っていた。

まるでやる気が無かったのに前向きな小説やエッセイに力づけられて自分も!と奮闘したり。
元気で何の問題も無かったのに重く救いのない社会の話を読むと自分の生きる意味なんて、と悲観的になったり。
本や映画に、どうしてこんなに感情が動かされるんだろうと感じていた。
 
フィクションに共感する、流されるってなんだか面白い。こうした現象に名前はあるんだろうか、心理学的にはと、色々調べていたら知恵袋で素敵な質問と回答を見つけました。
 

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 
なぜ人は本を読んで泣くことができるのでしょうか。

本はいわばただの字の羅列です。しかも、自分とは関係の無い架空の人物の物語です。
文字を追っているだけなのに。それなのになぜ泣くことができるのでしょうか。

 
この質問への回答がこちら。(省略してあります)
 
本で泣ける人ってのは、長い人生の中で――問題に突き当たったり、何度も挫折したり、そこから立ち直ったり。でも、今もその問題で苦しんでいる人がどこかにいる。過去に自分がぶつかった問題だから、その人の苦しみが自分のことのようにわかる。たとえそれが自分とは無関係の他人でも、架空の人物だとしても、ですね。

小説の人物を自分のことのように、置き換えられるようになる。
苦しんでいるのがわかるから、自分も苦しくなる。そして、小説などで主人公が問題を乗り越えると、同じように喜びをえるんです。
それでカタルシスをえたり(心の中に溜まっていた澱のような感情が解放され、気持ちが浄化されること)
そして、実際に経験していない問題でも、物語の人物と同調できるようにもなりますしね。どうしてか? と聞かれたら、これから先、自分が同じような問題に直面するかもしれない。自分だったらどうするか? この物語の中の人はどうしてこうしたのか……そういうふうに自分と重ねられるようになるってことですね。それが、実際にはありえない出来事でも、そのとき、自分ならどうするのか――とかも考えるようになりますし。
そうなったら、自分とは関係ないはずの架空の人物の物語でも――自分と重ねられるようになり、物語の人物と一緒に、苦しんだり喜んだり泣いてしまうんですよね。
 
共感。同調。重ね合わせる。
 
 
そんな事を考えていたら一人の大好きな作家さんの名前が浮かんできました。
辻村深月さん。彼女の本は透明で、切なかったり励まされたり時には重い錨のようにずしんと沈まされたり。私の心にいつも波を立てていきます。
 
今日はそんな辻村深月さんの3冊―元気、切ない、沈む作品を紹介します。
 

元気をもらう1冊ー「島はぼくらと」

 
前向きな気持ちとか勇気とか、仕事がんばろう!っていうエネルギーが欲しい時に効く作品が「島はぼくらと」。
 

島はぼくらと

 
2014年の本屋大賞3位なんですよ!私の中では1位なのに(泣)
すごく面白いハケンアニメ!(胸キュン本!有川浩さんが好きな方は是非!)も同じく3位なんですよね…。次こそは!
 
母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷を巣立つ前に知った大切なこと―すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。
 
小さな島で暮らす幼馴染4人の物語。
最初は、素直な島育ちの少女朱里から見た周りの美しい景色、友人たちが描かれ、視点が変わるたびに色んな事が見えてくる。
小さな島には複雑な現実や問題があって、(高校が無い、医療機関の不足、人口の減少)4人の立ち位置も様々。
彼らがどんな風に友情や恋と向き合い、進路を決めて大人になっていくのか。
 
4人が小学生の時に書いた島の標語「島はぼくらと」が、彼らと故郷の距離を表しているのでしょう。
 
4人の将来の姿は少し理想的すぎるかも。でもきっと、このくらいの夢や希望がこの島には必要なんだ。4人全員を応援したくなって、切ない初恋に胸キュンして、最後に自分が今出来ることを探したくなる。
潮風を感じながらまっすぐ背筋を伸ばす。そんな一冊。
 
 

切なく、けれど希望が残るー「冷たい校舎の時は止まる」

 切ない一冊は迷いましたがデビュー作、「冷たい校舎の時は止まる」を。

切なさと最後底に残るような希望、救いのあるラストは初期の辻村深月作品の特徴ですね。

 

ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の謎を追ううちに彼らは2ヵ月前に起きた学園祭での自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友(クラスメート)の名前が思い出せない。死んだのは誰!? 誰もが過ぎる青春という一時代をリアルに切なく描いた長編傑作。

 

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

 

学校に閉じ込められてしまった8人の高校生たちが自分の記憶を思い返していく。

密室のなか、次々消えていくクラスメイト達…というミステリー。

少し冗長すぎるきらいはありますが、初読の時「氷菓」を思い起こさせる青春ミステリがこう幕を閉じたか、と驚いた覚えが。

その後「ぼくのメジャースプーン」や「凍りのくじら」を読みどっぷり辻村深月に嵌ってしまいました。

 

目を逸らしたくなる、でも忘れられない沈む物語ー「水底フェスタ」

 
「島はぼくらと」が僻地の希望だとすると「水底フェスタ」は僻地の嫌なところ、怖いところをドロドロに煮詰めたような本。
私にとっては鬱本です。でも忘れられない、そして作者にとっても転換点のような1冊だったと思う。
 

水底フェスタ (文春文庫)

 
 

村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった―。辻村深月が描く一生に一度の恋。

 

今回この本のコピーを改めて読んで少し驚きました。一生に一度の恋!?

そんなシーンあったっけ?(主人公が年上のヒロインに抱く想いだろうか、それとも?)そう言いたくなるくらい、暗い怖い、ホラーのような一冊なんですが。

とは言え物語の最初は爽やか。フジロックがモデルになっているような“ムツシロック”が毎年開催されている小さな村。主人公とその父はその村でたっぷり音楽を楽しんで育つ。
最初はロックフェスを舞台にした青春小説といった雰囲気。

そこにヒロインが現れて、物語は暗い方暗い方へと転がっていく。

これが辻村深月!と読んだ時驚きました。こんな村ないよね、と思いつつでも…と思わせる所が地方を描くのが上手い筆者ならでは。

この作品のあと「鍵のない夢を見る」で直木賞、それから「ハケンアニメ!」と躍進を続ける辻村深月さん。

「ハケンアニメ」は是非アニメ化してほしい一作、続編も期待しています!

以上、辻村深月さんの色鮮やかな作品群の話でした〜。