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麻耶雄嵩「螢」は新本格の物語

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先日書店に行ったら幻冬舎フェアがやってまして。

私の大好きな作家、麻耶雄嵩の「螢」も新しい帯で並んでました。

家にあるので買わなかったのですが帯が気になりました。

目の前にあったシンプルなトリックに騙された、的な。

 あれ?そうだっけ?

そんな簡単な説明で大丈夫か?

 

「螢」はサクサク読み進めていくと最終章でおやおやおや、そしてエピローグであれっとなりもう一回読み返す羽目になる2段構えのミステリなのです。

 

今日は麻耶雄嵩のミステリ、「螢」の感想です。

 

 

螢 (幻冬舎文庫)

螢 (幻冬舎文庫)

 

 

大学のオカルトスポット探検サークルの6人は、京都府の山間部に佇む黒いレンガ屋敷「ファイアフライ館」へ肝試しに向かっていた。そこは、10年前に凄惨な殺人事件が起こった現場。嵐の山荘で、すぐに第1の殺人が起こり…。

 

京都の山中にある「ファイアフライ館」。

ここは 10年前、持主である作曲家加賀螢司が演奏家6人を殺害した場所。

そんな曰くのある館を買い、ちょうど事件が起きた時期に友人たちを招く大学のオカルトクラブOB佐世保。

そして招かれた被害者と同じ数の6人の大学生。

嵐の夜に事件が起き、電話線は切られ携帯は圏外、道も天災で塞がれてしまう。

 

物語の舞台は綾辻行人さんの館シリーズを彷彿とさせる曰くありげな館です。

かつて起きた事件、その場所で事件のあった日に同じ人数が集められる。

悪趣味ですが彼らはオカルトクラブのメンバー。

廃墟巡りや殺人現場探しが趣味ですから。

 

作曲家加賀螢司の「夜想曲」。

最初にLPでメンバーが聞いたその曲の旋律、それから何度も繰り返される音楽や音にまつわるの話が第一の謎のヒントです。

嵐で閉ざされた屋敷、前年亡くなった仲間、館に隠された謎の数々。

 

あんまり詳しく説明するとネタバレになりますが、いわくありげな数々の事件、屋敷には勿論仕掛けつき、叙述トリックもありーの。

 そして最後に訪れるカタストロフィ。

一冊で完結している所も良いです。麻耶雄嵩を読んだことがない、と言う方の入門編としてもぴったりの作品。

エピローグの新聞記事まで、目を皿にして読んで欲しい。(私は最初騙されました!)

 

麻耶雄嵩作品の特徴

 

 

私が一番最初に読んだ麻耶雄嵩作品は、「夏と冬の奏鳴曲」でした。

 

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

 

 

絶海の孤島、奇妙な館で起こる連続殺人事件。美少女に迫る危機、美術と音楽のペダンドリィな会話。

本格ミステリファンにはたまらないあれやこれらを詰め込みながらそして訪れる驚愕の結末。

・・・え!("゚д゚)ポカーン

本気でこんな顔になりました。

これは読んだ後に親切丁寧なミステリ解説サイト(間違ってもここではない)を読まないと解決しません。

ちょっと難しすぎます…「螢」の新聞記事トリックもおかしい、までは気が付きましたがそこから先はネットのお世話になりました。

 

ミステリファンとしてこういうことを言うのはなんですが、麻耶雄嵩作品の面白さは自分で推理することを放棄した先にあります。

謎解きはあとからネットで補完して、とにかくペダンチックな文章に酔いしれましょう。

そしてこの流麗な文章でよく騙されますが、麻耶雄嵩作品の登場人物はだいたい変態です。
よく「心温まる物語」「人間を見る目が優しい小説」なんて言いますが麻耶雄嵩世界は真逆です。

「人間を見る目が冷たい」「変質者ばかりの世界」

と言ったところでしょうか。

美しい文章、設定に騙されふっ、と振り返ればろくな人間はいないのです。

 

そもそも看板名探偵、メルカトル鮎からして自己顕示欲が強く真実よりも自分の利益を追求する男。
そしてミステリーは作者に背後から膝かっくんされた、くらいの難しさ。

凡人たる私はただただ作品の前にひれ伏すのみです。

 

しかしここには確かに本格ミステリの美しさがあります。

そしてそれらをあえて壊すかのような破天荒なトリック。
頭がおかしすぎて逆に痛快な探偵たち。詰め込みすぎて訳ワカメ!な所もあります。
一見ちゃんとした本格ミステリなので騙された!と本を投げ捨てたくなった日もありました。


けれどもそれらを乗り越えた先、どこにも存在しない麻耶雄嵩山を登ってこそ読書の楽しみがあるのです。

 

唯一無二の作家さんだと思います。

おすすめはしませんが(しないのかよ!)騙されたと思って読んで見るのも一興。

きっと貴方は騙される。色んな意味で、ね。