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エンターテイメントの匙加減「竜と流木」篠田節子

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身内が手術する事になり、仕事を休んで病院へ。
軽い手術とはいえ全身麻酔。年も年なので終わるまで待機です。

待っている間に、篠田節子さんの『竜と流木』を読みました。
表紙を開けると『もう南の島でぼんやりできない!』というキャッチコピー。

 

大人になりきれない青年を主人公に、南の島で謎の生き物と闘う物語。
生態系を守るとはどういうことか、楽園に隠された欺瞞とはなにか。

美しい島をバイオハザードが襲う、スリリングなパニックミステリでした。

 

『竜と流木』あらすじ

 

竜と流木

竜と流木

 

 

主人公ジョージは米軍人の父と日本人の母を持つ独身男性。
今は東京の語学学校で講師をしている。

厳格な父に太平洋上の小さな島でサバイバル生活を叩き込まれながら育った彼は、ミクロ・タタという島に生息する「ウアブ」という不思議な生き物と出会う。

柔らかなピンクの肌を持つ両生類(ウーパールーパーみたいな)ウアブ。
この生き物に魅せられたジョージは年の半分は講師として稼ぎ、半分はウアブ研究に時間を費やしていた。

そんなある日、ミクロ・タタで大規模な開発がありウアブが住む泉が無くなってしまうことになる。

なんとかウアブを助けたいと思ったジョージは、観光ホテルのオーナーの協力を得、ホテルの池でウアブを育てるプロジェクトを開始する。

希少な生き物を守るためのプランだったが、ウアブは次々に死亡。
池の周りには黒いトカゲのような生き物が現れるようになり、噛まれた人が次々命を落とす…、というお話。

軍人の父からサバイバルやマーシャルアーツ、銃の扱い方まで厳しく叩き込まれたジョージ。その反動からか、草食系で人と争うのが苦手な気質です。

そんな彼が自分の始めたウアブ保護活動から思わぬ事件に巻き込まれ、少しずつ強くなっていきます。

 

辛い時こそエンターテインメントを

 


さて、サスペンスな展開に引きずられ、気がついたら手術も無事終了。
落ち着かない気持ちも忘れていました。

物語が持つ力を改めて実感。
慌ただしい時の中で、みんな何かを忘れようと本を読むのかも知れません。

 

篠田さんの本が素晴らしいと思うのは、現代の様々な問題を取り入れたリアルさを持ちながらも重すぎないバランス感。

いい意味で「エンターテインメント」なのです。

40代にもなると、現実社会で重くどうしようもない物事を感じる機会が多くなります。小説の中でまで、リアルに残るような鬱を背負いたくない。

大ベテラン篠田先生はそこらへんの匙加減がとても上手い。

主人公の鬱屈も、父親との距離感も、本当に起こりそうな事件もとてもリアルなのに、過剰に感情移入させず適切な距離で物語として小説を描いている。

主人公の感情にもっと寄り添って、不安や鬱屈を伝染させる書き方も出来ると思う。もっと過剰に恐怖を煽る描き方も。

でもどこかすっと身を引いて、全体を描いてくれるから、ドキドキハラハラのサスペンスとして面白く読めるし、「あー楽しかった」と現実に立ち返れる。

どんな気持ちの時でも安心して読めるクオリティの作家さんです。

重すぎず、軽すぎずの読後感。
それでいて、いつもほんの少しひっかかる「トゲ」を残してくれるから、心地いい余韻が残ります。

今回も楽しく読めたけれど、南の島に行ったらそこが虫も害虫もいない不自然な楽園なのかどうか、つい見てしまうと思います…。

ホントに『もう南の島でぼんやりできない!』一冊でした。