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森見登美彦「夜行」感想ーネタバレ注意

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今日は森見登美彦さんの「夜行」を紹介します。

デビューから10年目の意欲作、直木賞ノミネート作品ということもあり、出版社も気合入ってます。特設サイトも豪華でスゴイ。

 

www.shogakukan.co.jp

 

CMも素敵だし、『本を読み解くための10の疑問』なんてコーナーもあり、ワクワクさせます、読みたくなります。

 

youtu.be

 

実際読んでみて、確かにすごく面白い本だった。ゾクゾクした。
森見登美彦の新境地だと思います。


ただ、怪談×青春小説×ファンタジーというラノベっぽい売り方、可愛らしい表紙はこの作品の実際の雰囲気とはちょっと違うんじゃないの、と。
売る側としては致し方ない面もあるのでしょうが。
青春小説要素、薄かったのでは…。

 

これは静かな闇の森見ですね。

「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話体系」が陽だとすると、「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」が闇。

今までとは少し違う、大人の世界のもりみー。
時の長さ、人生の選択肢を知る大人にこそ楽しめる物語だと思う。
そういう意味で、まさに10年目の物語でした。

 

物語のあらすじ

  

物語の舞台は京都、鞍馬の火祭り。

同じ英会話スクールに通う男女6人が祭り見物に出かけ、一人の女性が行方不明になる。
それから10年、「長谷川さん」を喪った5人がもう一度集まり、祭りに出かけるのだが…。

10年前の祭りの夜、失踪した長谷川という女性を今も忘れられずにいる主人公大橋。

長谷川さんは、なぜ消えてしまったのか?
大橋の見た「夜行」という銅版画は何なのか?

物語は、彼と一緒に祭りに行った仲間たちの不思議な旅を通して語られて行きます。

第一夜は既婚者の中井が、変わってしまった妻を取り戻しに尾道に行く話。
(こちらは期間限定で試し読みできます!)

  

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第二夜は大橋の後輩武田の話。
職場の先輩増田、彼の恋人美弥、妹の瑠璃の4人で飛騨に旅行に行く。

第三夜は銀座の画廊で働く女性、藤村が語り部。
夫、夫の後輩児島と3人で寝台列車に乗り、津軽に向かう旅に出る。

第四夜は夜行の作者、岸田の友人である田辺が主人公。豊橋に帰る途中の電車の中で、不思議な女子高生と坊主に出会う。

そして第五夜、仲間たちの話が全て終わり、また大橋が語り部に。
皆で祭りに出かけていくのだが、考え事をしている内に一人ではぐれてしまい…。

 

どの話も静かで、ひっそりと怖い。

私は第一夜と第三夜が面白かった。
例え夫婦でも誰かのことを本当に分かるなんて、幻想じゃない?と言われているような気分になりました。

時折、ありませんか?

隣にいる人がまるで知らない人に見えたり、別の人生を想像したり。
長年連れ添った相手でも全てが分かる訳じゃない。
世界はいつも、もう一つの選択肢で溢れている。
もしかしたら、他の人と寄り添う時間軸もあったのかも知れない。

よく知っているはずの世界が、よく分からないものへと変貌を遂げる瞬間がある。
それを上手く捉えているから、この物語は密やかに怖いのかな、と思いました。

 

物語の解釈について~ネタバレあり、注意!

 

ここからはネタバレがあります!ご注意下さい。

普段はネタバレは書かない派なのですが、この作品は色々考察したくなるストーリーなので、つい…!

また、ラストがよくわからなかった、という感想もちょこちょこ見受けられましたので。「君の名は」みたいに、普段SFを読まない人には少し解りづらいストーリー展開なのかも知れません。

あくまで読んだ人のために、私なりの解釈を少しだけ。

 

 

 

ーーーーーーーここからネタバレーーーーーー

 


一言で言っちゃうと、この作品はパラレルワールドものなんだと思います。

10年前の火祭りの夜を境に、銅版画家岸田が連作「夜行」を描いた世界と、「曙光」を描いた世界に分岐している。

夜行の世界では長谷川が失踪、曙光の世界では主人公が失踪。
夜行では作者の岸田が死に、曙光では岸田は長谷川と結婚して幸せに暮らしている。

他の物語でも同じように例えば武田が生き残った世界、増田が生き残った世界、と分岐しているのでは?と思いました。

登場人物たちが絵の舞台になった家で出会う「いないはずの人の姿」は、もう一つの世界を覗いているのだと思います。

だから主人公は、無い筈の曙光を見た時には別の世界にいるのです。
その時間軸では女性ではなく自分が失踪したことになっていた。

どちらの世界が正しい、ではなく無数の可能性がある中で、たまたまこの世界に辿り着いた、だから朝は一度きり…と主人公は夜行の世界に帰ってきて終わり。
朝は一度きり、は彼がもう二度と曙光の世界には行けない、ということを示唆しているのだ…と思ったのですがどうでしょう?
だって「世界はつねに夜なのよ」なんだもの。

 

第一夜や二夜の暗さと怖さから、夜行は死の世界、曙光は生の世界だと思っていましたが、逆に画家が死ぬ夜行が無慈悲な現実、曙光は理想の世界なのかも。

祭りの夜に別れた彼女は、彼のいない曙光の世界で幸せに暮らしている。
そういう解釈でいいのかな、と思います。
もしかしたら理想の女性『長谷川さん』という存在自体が夢幻なのかも知れませんが。

 

 

まとめ

 

最初に書いた通り、表紙や売り方に多少疑問はありますが、物語としては最高に面白かった一冊。
特設サイトの『10の疑問』も面白いですから、ミステリのように頭を悩ませながら読むのも楽しいかもしれません。

サクッと解けるたぐいの謎ではありませんが、自分なりの解釈が楽しい。
読んだ人と、議論を交わしたくなる物語です。

それでは今日は森見登美彦「夜行」の感想でした~。

 

夜行

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