坂木司さんの「女子的生活」読了。
かわいい表紙にかわいいタイトル。
量り売りのシリアル、フレアタイプのショーパンにエアリーブラウスが今日のコーデ。お気に入りの洋楽が目覚ましで、今日のメイクは夜の合コンに合わせて少し遊んじゃおうかな。
ヒロインの朝の始まりはいつもこんな感じ。
ガーリーでラブリーでフェミニンな世界。
アラフォー主婦の私が最初に感じたのは違和感でした。
この世界、馴染めないよ…?ホッピーとスルメはどこ…?
ところがヒロインがそもそもフェイクである、という裏切りから始まって、物語は小気味いい展開に。
私は私らしく、日々を戦っていけばいいんじゃないの?と勇気を貰える物語でした。
「女子的生活」あらすじ
主人公みきはアパレル会社員として働く20代。
仲のいい友達とルームシェアして、お洒落なインテリアに好きなファッションで夜遊びし放題と夢の東京生活を送ってきたけれど、そんな日々に暗雲が。
彼氏が出来た友達が、部屋を去ってしまうことに!
一人で払うには高すぎる部屋代と、快適な生活に揺れているミキの前に、高校時代の同級生が現れる。
「もしかしてお前…小川幹生?」
そう、みきはトランスジェンダー。
完璧にカワイイ彼女の秘密。
みきは 女の子が大好き、女の子になって女の子とカップルになりたい、という女装男子だったのです。
完璧にかわいいみきと、イイ奴だけど鈍感な男、後藤。
高校の同級生がふとした縁でルームシェアすることになる所から始まる、不思議な「女子的生活」はどう転がっていくのでしょうか…?
物語の感想
とにかくヒロインみきが魅力的。
明るく才色兼備、機転が利くし気も強い。
トランスジェンダーとしての生きづらさを感じながらも、やり方次第で何とかなる不況の今を逞しく生き抜いてる。
ストーリーは合コン、仕事とみきの日々の物語なのだけれど、日常に潜む小さな差別やブラック企業の捉え方、見下したい男子やめんどくさい親子関係、女同士のマウンティングと「あるある!」の世界をビシビシ叩き切ってくれます。
みきの語り口は結構、強い。男性にはそこそこ、怖いかも。
でも私は合コンでミキが好みの女子にわざと口論を仕掛けるくだり(みきが好きなのは頭が良くて気の強い女の子)、大好きです。
ならちょっと、投げてみよう。
「ね、ここだけの話そういうカッコって寒くない?」
耳元で囁くと彼女は口元だけで笑った。「寒くないよ。質のいいコットンは保温と保湿性が高いし、本物の皮は温度調節もしてくれるから」
いいね。じゃあもう一球。「そうなんだー。でも本革って私は苦手。動物を殺して皮膚をはがすなんて、考えただけで怖いもん」
少し沈黙。やりすぎた?
あ、違った。演技の「間」だった。「-わかるよ。私も毛皮問題とか、考える。 でもこのブーツは牛革なんだ。食用肉の余った部分の再利用。そのために殺した訳じゃないの」
「そっかぁ」
「命を奪ったら最後まで使い切ってあげないと。私はそう思うんだ」
わあ、完璧。ならもっとすごいの、投げちゃおうかな。「えー、でも私だったらやだなぁ。死んだ後、自分の皮膚が居酒屋のトイレにこすりつけられるとか、あり得ないもん」
さあどう出る?彼女は口元だけをきゅっと吊り上げた。そして私の耳に、それを寄せる。「あんたの皮なんか、牛以下だよ」
きたきたきた。
私は「信じられなーい」と言う表情を作って、固まってみせた。
すると、重めの球が投げ込まれる。「-このゆとりビッチ」
キャッチ。いいじゃん。最高!
(「女子的生活」より)
これ、合コンの席の会話ですからね。
小声なので、周りの男性陣は女の子同士がにこやかに話してると思ってる。
これを怖いと受け取るか、痛快!と受け取るかで、物語の好き嫌いが分かれる。
痛快派ならハマる!絶対爽快な気分になれるハズ。
私自身はこういうささやかなマウントポジション争い、割と好き。
さすがに『牛以下』とか『ゆとりビッチ』なんて言葉を実際に口に出したことは無いけれど、褒めるフリして貶されたお返しはちゃんとするタイプです。
だって、家に帰ってから悔しくて眠れない、なんて人生の損失大っ嫌いなんだもん。
言葉だけじゃなくて、対等とは認めてないぞ感とか、あなたのことなんて覚えてもいなかったわ感とか、人生には色んな戦いがあります。
ただそれを感知できる人と出来ない人がいるのかも?
本を読んでいてそう思いました。
旦那もそういうの気がつかない方かなー。
「女子的生活」の中では、そういう世界の分離を「単純」と「複雑」という言葉で表現してました。
単純と複雑、どっちが良い、悪いじゃなく折り合える世界で物語が終わるのもいい。
とにかくしっくりくる解釈ばかりで「あるある!」「そうそう!」と肯定ばかりしてました。主人公みきの元気な物言いも好き。
日々色々なことがあるけれど、そんなの表に出さないように、ちゃんとお風呂に入って早く寝て、明日のコーデも考える。
そういう「当たり前」が小さな強さになっていくのかな、と思いました。
人生色んなことがあるけど、笑い飛ばして前を向いていこう。
そんな元気を貰える一冊です。
日常を戦ってるあなたにこそ、オススメしたい本でした。