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限りなく現実に近いディストピア-中村文則『R帝国』感想

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中村文則さんの「R帝国」を読み終えた。

近未来の架空の島国・R帝国を舞台にしたディストピア小説である。
あまりにも暗く、救いのないストーリー。でも現実に限りなく近いところが面白く、色々考えずにはいられなくなる一冊だった。

 

R帝国

 

物語は「朝、目が覚めると戦争が始まっていた」 ところから描かれる。
戦争のニュースが流れる中、主人公矢崎の小さな悩みは朝ご飯を目玉焼きライスパックにするか、ベーコンブレッドパックにするか、だ。

R帝国の人々はHP(ヒューマンフォン)と呼ばれる人工知能を持つ携帯電話を肌身離さず持っている。それぞれ異なる個性を持つ持ち主のためだけの『オトモダチ』。

戦争や、思わぬ地震。
なにかが起きるたびに、皆HPに釘付けになる。
目の前で起きていることではなく、HPが調べてくれる画面の向うの現実に夢中になっている、そんな近未来。

ただの地震だと思われた揺れが、他国の無人戦闘機と大型兵器による侵略だと気づいた時に、矢崎の当たり前の朝は変貌を遂げるのだった...

 

物語の冒頭はこんな感じ。

R国は国家主義でありながら自国民の人質を助けない、自己責任の言葉で切り捨ててしまう、そんな国。

物語の冒頭に登場する、移民女性アルファの言葉が胸に刺さります。

 

「覚えておけ、と言いたいんだ。お前達の、その国の性質そのものを。それはつまり、いざという時お前達の国は個人を見捨てる傾向がある、ということだ。国のやることに従えば守られる。そう思っているのだろう。しかし個人を見捨てるという選択肢を取る国は、そもそも根本にそういう性質を有している、ということだ」

 

ディストピア小説でありながら、限りなく現実に近く、胸が苦しくなる『R帝国』。
ノンフィクションが、フィクションを駆逐していくような物語です。

ラストの言葉が心に突き刺さります。

 

「人々が欲しいのは、真実ではなく半径5mの幸福なのだ」

 

物語は暗く、光の見えないままに終わりを迎える。
でも本を閉じても、私達の暮らしは続いている。

私ははっと辺りを見回し、受け取ったメッセージを確かめる。
本当の結末は、きっと私たちの生きる先にあるのだろう。

 

R帝国

R帝国