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『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた』感想

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東山彰良さんの『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』という本を読んだ。タイトル長い、しかし中身は軽妙。表紙も爽やか。

東山彰良さんの作品はまだ『ブラックライダー』と『罪の終わり』しか読んでいないので(どちらも終末世界を舞台にしたハードボイルドで重く、深い)余りのイメージの違いにええええ、と手に取ってしまった。

中身は表紙以上に軽やかなコメディで、明るく楽しく面白い。
こういうのも書けるのか東山彰良!引き出しが多すぎてびっくりする。

 

女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。

 

この本は有象くんと無象くん、という大学生を主人公にした短編集である。
二人はいかにも有象無象らしく、見事にモテない。
結構イイ奴らなのに、悲しいほどラブに縁がない。
それなのに(それ故に?)常時女の子のことを考えていて、すべったり転んだり所持金を失ったりする。

そんな二人と問題だらけの友人たちが、女の子のことを考え続けた春から冬までの物語が軽妙に綴られていて、楽しく可笑しく、なぜか爽やかだ。

 

モテない系男子小説、と言ったら森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』が思い浮かぶ。有象無象くん達の朴念仁っぷりは正にモリミーの「先輩」そのもの。

しかし魔都京都ではなく九州の大学キャンパスで繰り広げられる男女の物語は、あか抜けていてオシャンティーで、どこかモダンなのだ。レトロ感あふれるモリミ―テイストとは違う、現代感。

こういうのはきっと、作家自身のセンスが試されるのだろうなぁ、と思ったり。
いやモリミーにはモリミ―らしい、最高の大正モダン感があるんだけどね。

 

それから、登場する女子もモリミ―の『乙女』とは対照的だったりする。
黒髪の乙女は自由気ままで、のんべぇで、それでも天真爛漫だった。

東山彰良が描く女の子は、なかなか個性的。

見た目は清純、中身が女王様な『女王ちゃん』。
したたかすぎる『抜け目なっちゃん』。
そして全ての男を夢中にさせる『ビッチちゃん』…!

物語に出てくる女子は結局のところみんないわゆる『ビッチちゃん』である。
自分勝手でしたたかで、強くたくましい。

有象無象くんたちは、そんな彼女たちに翻弄され、あのアマとか、これだからオンナは…とぶつくさぼやきながらもその尻を追いかけていく。

 

黒髪の乙女とビッチちゃん。
真逆の女子におなじような愛おしさを感じるのは、著者の目線が彼女達をきちんと見つめているからだ。

昔の本には多かったよね、主人公のマッチョさを際立たせるためだけの記号のような美女。

男性をATM扱いする女性が毛嫌いされるのも、そういうことだと思う。
その人そのものが好きなんじゃなくて、自分に便利な相手だから好き。

お金があるとか色々やってくれるとか、従順だったり。
見た目がいいから連れて歩くと誇らしかったり、社会的地位があるから付き合うことで自分自身のステータスが上がった気がしたり。

けれどもそういう余分な雑味全部抜きで、ただ純粋な『好き』なんて保育園に忘れてきた気がする。…いや、保育園の時でさえ好きになったのは私に優しくてイケメンな男の子だったもんなぁ。純粋な愛なんてこの世に存在するのだろうか?

この本を読んで、そんなことを考えましたとさ。

世界の半分は異性で出来ている。
嫌いよりも好きな方が、人生は生きやすいよね。
とはいえ向けられる愛情は歪だったりよこしまだったり、素直に受け取るのはなかなか難しい。だから私たちは付き合ったり別れたり、毎日すったもんだしているのでしょう。今日はそんな感じです。

 

女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。

女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。