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世界はアイドルで出来ている-柚木麻子『デートクレンジング』

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〈妊活〉のために仕事を辞め、実家の喫茶店で働く佐知子。彼女の親友である実花は、10年間人生を捧げてきた仕事に挫折し、突然〈婚活〉に走り始めます。佐知子は、誰よりも輝いていたはずの親友のその姿に違和感を覚え、2人の関係もぎくしゃくしていきますが……。

 

デートクレンジング

 

柚木麻子さんの、『デートクレンジング』読了!
タイトルの『デートクレンジング』とは主人公の親友、実花がマネージャーをしていたアイドルグループの名前。

意識してデートしない時間を作ろう、自分を取り戻す時間を持とう。
それがアメリカの造語、デート・クレンズ。
そこから名前を貰った「デートクレンジング」は、都合のいい疑似恋愛の相手じゃない、プライドを持った女の子たちのアイドルグループを目指していた。

男社会が作ったルールに縛られて身動きがとれなくなってる女の子を救いたい。そして誰よりも近くで、ピカピカ輝くまばゆい女の子たちを応援していたい。

それが実花の願いで、そんな風に夢中になれるものを持つ実花こそが主人公佐知子にとっては一番の『推し』だった。

 しかしそんな風に人生を賭けていた『デートクレンジング』が解散してから、実花は変わってしまう。結婚して子どもを産んで、ちゃんとしたい。立派な社会の一員だって認められたいの。

いっきに婚活モードに入り、男ウケ優先の淡いファッションに身を包む実花を、佐知子は複雑な思いで見つめることになる。
大人気アイドルの敏腕マネージャーで、雑誌やネットにも写真をUPされる実花はずっと佐知子の憧れだったのに。

ちゃんとって何?立派な社会の一員って?
妊活のために仕事を辞め、家業を手伝っている佐知子自身にもそうしたモヤモヤはあるのだが、それを伝えようとしても『でもさっちゃんは結婚してるから』で済まされてしまう。

結婚しても妊娠しても、佐知子は佐知子。
それなのに、実花との間にはどんどん溝が出来ていく気がしていく。
その距離が寂しくて、佐知子は必死に足掻くのだが…。

 

あらすじはこんな感じ。
アイドルをテーマにした物語らしく、女の子の輝きや可愛らしさがぐぐっと濃縮で詰め込まれていて、眩かったです、熱かったです!

 

『推し』と友情

 

主人公佐知子は親友の実花が大好き。実花のことはいつも応援していたいし、傍らで見ていたい。
その気持ちは結婚しても変わらない。だって実花は佐知子の一番の『推し』だから。

この友情と『推し』って気持ち、なんとなく理解出来る。

グルーブでよく遊んだ、沢山の友人たちとなら本当の友情を語り合える。
信頼とか敬意とか絆とか、そんなものがきちんと結ばれている気がする。

でも学生時代にいつも二人で遊んだ、特別な『親友』に抱く気持ちは何かが違うのだ。

思い出すのは彼女達の綺麗だった部分ばかり。
尖ったあごのライン、桜色の少し厚い下唇、マスカラいらずの長いまつげ。
そんな親友たちに抱く気持ちは信頼でも尊敬でもなく、仕方ないなぁ、みたいな『デレ』だった。

私は彼女たちが好きで、尽くすことを楽しんでいた。
その睫毛が満足そうに揺れるなら、多少の我慢は仕方がないか、なんて思っていた。

百合とは少し違う。私は触れたいとは思わなかったし欲情もしなかった。
ただ愛おしくて可愛いからしゃーない、あなたのことは全部許しちゃう!みたいな、そんな存在。

この本を読んであの頃の気持ちにやっと名前を付けることが出来た。
『推し』だ!私は私の親友の、熱烈なファンだったのだ。

 未だに、お互い子どもも出来たのに、あの頃の親友と会うと、やっぱりまつ毛キレイだよな、なんて少しウキウキしてしまう私がいる。

二人とも少しくたびれてきた、中年のおばさんなのに。
そんな風に輝きを感じてしまう、特別な親友。

それは『推し』が多分に入ってて、ちょっと不純ではあるけれど、それでも友達と呼んでも、いいっすよね?

 

…柚木麻子さんの描く物語には、いつもこんな風に一片の『私』が混じってる気がして、触発される、思い出してしまう。

こんな気持ちを、昂揚を不安を焦燥を、私は知ってる!
そうやってかつて抱いた気持ちが体の奥底から立ち上がってくる感じ。
物語の中に上手く生身の人間が持つ熱が取り込まれているからでしょうか?

私もアイドルの瞬きを、輝きを生で感じてみたいな。
圧倒的なパワーに時間を止められてみたい!ザ・ワールドッ!
そんな風に思ってしまう物語でした。

あなたの『推し』に似た人は物語に登場するかな?
ぜひ、探してみて下さい。

 

デートクレンジング

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