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おのにちはいつかみたにっち

食べログジジイの思い出

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 はてなブログを始めたのはなぜ?そんな風に聞かれたことがある。

きっかけはインフルエンザで5日間暇だったから。
当時スマホに入れていたニュースアプリがよくはてなブログの記事を拾ってくるからはてなに親しみがあった、そんな話をした。

とはいえもう一度振り返ってみると、元々書くのは好きだったものの、その頃はTwitterもFacebookもやっていなかった。HTMLの名前も知らなかった私が、電子の庭に踏み込むのは確かにハードルが高い。

そこを踏み越えられたのは、もしかして昔出会った食べログジジイのおかげなのかも知れない。そんな訳で、今日は昔の話を思い出してみた。

 

30代の頃、秘書っぽい仕事をやっていたことがある。
9時~4時の、お気軽なパートタイム。

天下りでやってきた60過ぎの爺様の、部屋の掃除から加湿器の準備、お茶を入れたりお昼を準備したり、書類のコピーやハンコ押し、式典用の持ち物を揃えたり、新聞数紙を読んで業務に関連のある部分に付箋をつけて渡す、なんて活字が読める楽しい仕事もあった。

実際に秘書が必要なほど忙しい人たちじゃないけれど、話し相手としてパート女性が付いている。そんな感じの緩い業務。

偉い人は横柄で尊大だ、なんてよく言われるけれど私の職場の天下りじいさんは出世ルートをちょっと外れてきた、癖のある人が多くてなかなか楽しかった。
色んな所からやってきたジジイと、1~2年の短い付き合い。

今思い返すと世話をする、というよりこちらが教わることの方が多かった気がする。
花屋しか知らなかった私に、公文書や戸籍の読み方、損をしない契約締結、土地の登記のやり方まで教えてくれた法に詳しいジジイ。
読みやすいコピーの取り方やホチキスの位置、契約書の折り方まで、細々した事務のイロハを叩き込んでくれた元事務官ジジイ。
義理の親が入院した時、健康保険制度や介護認定の細々を教えてくれた保険屋ジジイ。 生きるために役立つことを、数年間のパートでたくさん教わった。

そしてそんな私に、ネットの世界は怖くないんだ、趣味の仲間を持つことは楽しいんだ、と教えてくれたのが食べログジジイだった。

 

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その人はジジイ、と呼ぶのが申し訳ない気がするほど、長身でイケメンだった。
ちょっと『孤独のグルメ』の松重豊に似ていた。
会津の外れより福島市や郡山が似合う、そんな感じのスマートさ。
仕事も出来て物腰も穏やかで、こんな閑職に就くのは勿体ないのでは、と言いたくなるような人だった。

しかし一つだけ、変わっている所があった。
お昼はいつもカップラーメン。そして毎日違う銘柄。
食べる前には必ず写真を撮る。食べ終わった後には慌ただしくマラソンに出かける。

それから出張などで外で昼食を済ませなくてはいけない時のこだわりっぷり。
自分で店を調べて予約を入れる。
そして食べる前には必ず写真。お店の外観、店内、メニューまでバシバシ撮りまくる。

ある時、私のメニューまで奢るからこれを食べてくれないか、そして写真を撮らせてくれ...と指定されてつい聞いてしまった。

その写真は何に使うのか?と。

 

…タイトルで想像がついてしまうと思うけど、その方はかなり実績のある食べログレビュアー、そしてカップラーメンのレビューブログをやっているブロガーさんだった。

普段は落ち着いた紳士であるその人が、食べ物の写真を撮るときだけ我を忘れて夢中になる姿が面白かった。

お昼休みのマラソンも、お昼にカップラーメン、休日に食べ歩きをすると太ってしまうから仕方なく…という話だった。
自分の場合太りすぎると逆に量が食べられなくなって、人気メニューを食べ尽くせなくなってしまうのです!と力説されて、食べるのも難しいのだなぁ、と笑ってしまった。

それからお昼休みに許可を頂き、その方の食べログやブログをちょこちょこ見せて頂くようになった。
割と穏やかな表情で、お店に失礼のないように食べる人なのに、ブログではマズイものはマズイ、と率直に書いてあってそれも笑えた。

 

その方が異動になる間際、食べログ仲間との飲み会があるのですが良かったらどうですか、なんて誘われて付き合ったことがある。

自分の食べたい物が食べられない宴席が嫌いで、いつも付き合い程度で帰ってしまう方がオフ会…!と驚いた。会場が家の近くということもあり、試しに顔を出してみてもう一度驚いた。

いつもは!片隅で静かに飲んでいらっしゃる松重豊が!
頭にネクタイを巻いてノリノリで席と席の間を飛び回っている!!!

そして食べログについて語り出すと止まらない。上がる音量、どんどんオーバーになる身振り手振り。
いつも穏やかで静かな人だと思っていたので秘めた情熱に驚いた。
そして何より本当に楽しそうで羨ましい、と思った。

実は自分の食べログを充実させるために、わざと自分の行ったことのない地方や、時間のある閑職を狙って異動願いを出すんです、なんて後でこっそり教えてくれた。
食べログ>仕事。そのパワーバランス凄すぎ、と笑うしかなかった。

 

私がブログを始めたのはもしかしたらあのジジイの情熱が羨ましかったからかもしれないな、なんて思ったりする。今の私があんな風に無邪気に楽しめているかどうかは、分からないのだけれど。

 

今でも時折、その人の名前で食べログを検索する。
元気そうだな、とやっぱり笑ってしまう。