クリスマス・イブだと言うのに、クリスマスだからおのにちは切ない恋の話を書け、私はアダルト系恋バナを書くからよろしくな!という無茶ぶりがさおりたん id:keisolutions から届きました…
そんなにリアル・胸キュンネタがあってたまるかい!
というわけで今日はTwitterで見かけた話を基にむずきゅん?系ショートストーリーを創作してみました。
テーマはコンビニスイーツ。それではお楽しみください。
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さて、今日はクリスマスイブであるというのに現役女子高生であるはずの私タンには何の予定もない。
グヌヌおかしい。中肉中背至って平凡、それでもそこそこ可愛い私、と鏡の前では毎朝密かに褒め称えておるはずなのに。
私に通じる私の魅力が世間様には通用しない不条理について、というタイトルで小論文を書きたいくらい、納得がいっていない。
しかし納得がいこうがいくまいが朝日は登る、イブは来る。
そんな訳で今朝もマジメに部活に通う。
美術部副部長である私、朝イチに学校に行って部室開けておかなくちゃいけない。
小さなことだけれど、職員室で鍵を借りて、部屋を開ける瞬間が好きだ。
いつもはみんなで共有している油絵臭い部室が、ほんの一瞬だけ自分のように思えて心地よい。
こもった空気を変えるために、少し窓を開けたりして。
ふと下を見ると、校門前に部長のつむじが見えた。
このくっそ寒いのに、コートを羽織らず、マフラーだけ巻いて。
男子はいつも薄着よねぇ、なんて私は自分の60デニール黒タイツを差し置いて発言する。
友達は寒いから、と80~120ぐらいの厚みのタイツを履いている。
私はちょっと足が透けるのが一番カワイイ、と信じているので積雪が1m を越えても根性で60デニールである。だって透けてる方が細く見える気がするしさ…。
そんな下らない事を考えていたら先ほどの部長が入ってきた。
ブレザーの肩に雪が少し積もって、鼻が赤くなっている。だから寒いってば。
おはよー、と早速暖房前に陣取った部長を、私はじろり、と見やる。
部長のクセに毎朝二番手とは。やる気のなさが透けてみえるわ!
と、内心で思っていたはずなのにどうやら口に出ていたらしい。
「今日も朝からうっとおしい…」とドン引きした顔で言われてしまう。
部長とは、なにかと気が合わない。
部活が始まってからも口喧嘩の応酬である。
奴に頼まれた消しゴムをあえて貸さず、「気が利かない」なんて文句を言われれば「女子に気遣いを求めるのはもはやハラスメント!そういう奴はおっさん村にしか住めねぇ宿命なんですー」と返す。
ああ言えばこう言う仲の私たち。
ほんっと面倒くさい、ウザい、大嫌い。
もうすぐ部活が終わる頃、やる気のない顧問がようやく顔を出す。
「はい、クリスマスイブなのに部室に集まる寂しい皆さんこんにちわー!皆さんのおかげで先生まで今日も出勤です☆モテないオマエラに引きずられる俺、マジつれぇわ」
やる気がない上にいたいけな青少年の心を抉っていくというWパンチ。何しに来た、とっとと帰れ。
「今すぐ去れ、みたいな顔しないで下さーい。真面目な皆さんには優しい先生からのクリスマスプレゼントがありまーす」
配られたのはメガ盛りサイズのプリンだった。いいとこあるじゃん、先生。
「いいですか、これはクリスマスに二人でシェア♡して食べるサイズのプリンでーす。間違ってもぼっちで食べないで下さいね、肥えるゾ☆」
…前言撤回、やっぱり帰れ。
帰り道、私は公園のベンチに薄く積もった雪を払い、座ってプリンの蓋を開けた。
家ではオカンがケーキやらチキンやら、クリスマスのご馳走を張り切ってこさえている頃。家でプリンを開けてゴハン前にオヤツ…?なんて小学生みたいな苦言を呈されるのは辛い。食後に部屋でこっそり食べるのも、カロリー的にかなり辛い。燃費のいい女子高生でも、夜はやっぱり太るんです。
けれどもプリンの賞味期限は今日まで。この卵色の大平野に飛び込むなら、やっぱり今でしょ!
白い雪の中でプリン。寒いけどうま、なんて大口を開けていたら通りがかった部長と目があった。
なんでこういうタイミングで登場するかな、この男は。
「なに一人で食ってんだよ。このプリンはぼっちでは食べないでくださーい、だろ?」
「あーうっさいうっさい。家で食ったらケーキ焼いてるオカンがガッカリするんですー!」
「いいとこあるじゃん、つかやっぱりぼっちか、お前も」
お前も?『も』の響きに少し嬉しくなる。
いや、こんな奴モテる訳ないんだけどさ、それでもさ。
しかしプリンはさすがにデカかった。
少し食べ飽きたな、なんてスプーンが止まった私を見て、ヤツはプリンを取り上げて「もーらい」なんて気軽にかっこんだ。
私の食べかけを、私のスプーンで。
そして大きな口ですべて食べ終えると、ごちそうさまっ!と駆け出して行ってしまった。
ここは罵声を浴びせるのがテンプレ。追いかけて怒ったり、一言皮肉を言ったりしないと。
そう分かっていたはずなのに、私の足は動かなかった。
だってとっさにマフラーで隠した頬が、真っ赤になっているんだもの。
…ホントはちゃんと気づいていたんだ。私の言葉は全部サカサマ。
面倒くさいもウザいも嫌いも。ホントは全部好きって事。
でも上手くなんて言えない、優しくなんて出来ない。
口を突くのは悪態ばかり。遅れてきた反抗期かよ、ウケる。
風はとっても冷たいのに、私の頬は驚くほど熱くて。
この熱が一生冷めなければ良いのに、なんて思ったんだ。