世界中の美味しいもの、珍しいものがなんでも頂けるようになった世の中です。
昆虫が頂けるレストラン、なんてものも東京にはあるらしく。
おらイナゴだのハチの子だの食べたことのある(強要された)田舎もんだけどあーゆーのは貧乏だから食わされると思ってただよ。
白いお皿でコオロギ食べっと?都会もん怖か~!
はっ、錯乱の余り謎の田舎っぺスラングが…。
イナゴの佃煮、ハチの子ご飯は子供の頃祖父母の家で食べた事あります。
子供の時はじいちゃんばあちゃんは年金暮らしだからこんなものを食べているんだ、お小遣いをねだるのはやめよう、と思っていたのですが今思えばあれは子供や孫に珍味を食べさせたいというお・も・て・な・しだったのですね。
ごめんなさい。あの頃は虫の希少さも山菜や川魚の美味しさも分からなかった。全部わざわざ採ってきてくれたのに。
子供の頃はじいちゃんばあちゃんが本気出したフルコースには食えるものがなく、隅っこで醤油かけごはん食べてました。
今日は私にとって祖父母の愛情特製料理より、芋虫よりも怖い「この世で最も食べたくないメニューNO.1」が登場する本の紹介です。
神鳥(イビス)~夢を追い求めた人の行く先
「神鳥」(イビス)は一九九三年に発表された篠田節子さんのホラーサスペンスです。
古いけど骨太でしっかりしているので内容は古びない。
篠田さんの本の特徴だと思います。
主人公はファンタジー系小説の表紙絵を中心に活躍するイラストレーター葉子。
金髪碧眼の美少年美少女を描かせれば右に出るものはいない、と評価されている彼女。
しかし三十を過ぎて馴染んだ作風から距離を置き自分の仕事をもう一度見直したいと思っている。
そんな時流行作家の美鈴慶一郎から仕事の依頼が入る。
バイオレンスな作風、半裸の女性が表紙の『砂漠の女豹』といったタイトルの小説。
彼の作品に違和感を覚えつつも、新しい分野への挑戦として葉子は仕事を引き受けることにする。
美鈴が持ち出したのは明治生まれ、二十七歳の若さで亡くなった画家河野珠枝の物語の表紙を、彼女の代表作『朱鷺飛来図』の雰囲気で描いてほしい、という依頼だった。
血しぶきと強姦シーンが売りの作家が魅せられた、という明治の女流画家の生き様。
それから図録で観ても鳥肌のたつような作品『朱鷺飛来図』。
興味を覚えた葉子は、美鈴と共に河野珠枝の生涯を追うことになる。
朱鷺と牡丹に隠された地獄絵
牡丹と朱鷺、美しい桃色の絵から受ける、「背筋が凍るような」怖さの真相。
画家の生家で二人は一枚の絵の中に残酷な地獄絵が隠されていたことに気が付く。
朱鷺が踏みにじる牡丹には無残に殺される人々の姿が隠されていたのだ。
片目を失う大怪我を追いながらも、朱鷺の絵を死の間際まで憑かれたように描き続けた河野珠枝。
珠江の描く朱鷺の絵の秘密を求め、葉子と美鈴は調査を開始する。
注意!この先ネタバレ有りです!
描かれた牡丹の品種にヒントを得た二人は珠江と元恋人の柴野の痕跡を追い奥多摩の廃村へ。
富沢、という小さなその集落は大雪の年に孤立し春には住居はそのままに、住民だけが居なくなっていた。
廃村を求め山道を行く二人。朱鷺を祭る神社の鳥居の前で堂々巡りの道に迷い込む。
意を決し進んだ先にあったのは雪で閉ざされた惨劇の日のまま時の止まった富沢村だった。
二人が見たものは、凄惨な朱鷺と人との喰らいあい。
生きるため人は朱鷺を鉄砲で狩り、食べる。日本古来の朱鷺はそれが原因で絶滅しました。
しかし生き残るため獰猛に進化した朱鷺は雪で閉ざされた小さな集落の人間を襲う。
まるでヒッチコックの映画『鳥』の世界。
ヒッチコックの「鳥」も理不尽に鳥から襲われる様子が怖いですが、「神鳥」の怖さは鳥の凄惨さ,残酷さが逆襲であると思わせるところ。
葉子と美鈴は迷い込んだ民家で一杯の碗を食べます。
それが闇夜汁。朱鷺汁です。
朱鷺のきれいな羽の色はカロチノイド、という物質のおかげ。
ところがカロチノイドは朱鷺の筋肉の中に入っていて、煮込んだ汁も紅に染まってしまうのだそう。
気味が悪いので灯りを消して食べるからついた名前が闇夜汁。
そして赤く染まった朱鷺汁を食べた後に朱鷺に襲われる二人。怖いです…。
でも朱鷺に勝つんだ、と覚悟して最後に朱鷺鍋を啜る葉子は強い。
『食えるものは怖くなんかない』
名言です。
でも駄目だ。私は多分一生朱鷺もフラミンゴも、食べられません…(食べる機会もないけど)。
前半は画家の足跡を追うミステリー的なストーリ展開ですが、村に迷い込んでからの緊迫感恐怖感が凄い。
アクション要素にも優れたホラーサスペンスです。
それからキャラクターの造形も現代的で好き。
三十過ぎまで初恋を拗らせ処女で潔癖な葉子、バイオレンス小説を書き、風俗好きの軽い男を装いながらも自分に自信が持てない美鈴。
二人の立場が逆転し、互いに助け合おうとする所がいい。
二人が最後どうなるかは本を読んでみてください。
なかなかの結末が待ち受けています。
私だったら…このラストはちょっと無理!
虫を食べる、田舎の野性味溢れる食卓の実情をほのぼの知りたい方にはこちらの本もおススメ。こちらは怖くないです、可笑しいです。
しょっぱなからハチの子食べてますが…。