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遠いあなたの夢を見る-山白朝子『私の頭が正常であったなら』

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山白朝子さん(いまだに乙一、と呟いてしまう)の短編集「私の頭が正常であったなら」を読みました。

喪われた人を想う短編集、と言ったらいいのでしょうか。
読みながらずっと、死と私を隔てるものについて考えていました。

 

私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)

 

冒頭の『世界で一番短い小説』は、ある日突然見知らぬ幽霊を見るようになってしまった夫婦の物語。

唐突に姿を見せる、見知らぬ中年男の幽霊。
理系の夫妻は彼の出現パターンを調べ、心霊現象の再発防止を図るのだが…。
あらすじはこんな感じ。

お祓いや神頼みではなく表計算ソフトで幽霊の出現パターンをリスト化、自分達の行動と照らし合わせて幽霊に取り憑かれたのはいつか?と調査していく過程がコミカルで面白い。

そうしてラストにふっと紛れ込む、喪われた者を愛おしむ気持ち。

魂はどこに宿るのか?私たちがお墓参りをしたり、死者を悼んだりするのは、喪われた人たちに側にいて欲しい、見ていてほしいという願いが込められているのかもしれないな、なんて思ったのです…。

 

突然定期的に幽霊が現れるようになる…というあらすじから、最近読み終えた宮内悠介さんの『ディレイ・エフェクト』を思い出したりもして。
こちらは現代の東京に、75年前の東京の景色が映り込むようになってしまう、というスケールの大きな不思議な話でした。規模は大きいんだけど、悩みの答えはとても近くにあって。そんなところも好きな物語です。

 

ディレイ・エフェクト

ディレイ・エフェクト

 

 

他にも「私の頭が正常であったなら」には、『幻夢コレクション メアリー・スーを殺して』(中田永一、山白朝子他、乙一別名義の作品集)に収録されていた「トランシーバー」という相当切ない短編も再録されています。
これヤバいのです、相当泣けます。私は二回目なのにやっぱりダメでした。
なんで言葉を覚え始めたばかりの子どもはうんちとおっぱいにハマるんだろう…。

なお『幻夢コレクション メアリー・スーを殺して』は創作経験のある人間にはかなり突き刺さる物語でしたので、何かを創っている人に絶対オススメ!

 

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション

 

 

最後の書きおろし、『おやすみなさい子どもたち』も終幕にぴったりの物語で、とても素敵でした。

思わぬ事故で命を落としてしまった少女が、天国の映画館に迷い込む。

私にも貴方にも、喜びと悲しみに満ちた自分だけの物語があるのでしょう。
自分には何にもない、なんて虚無や孤独に満ちた人生でさえも、天使が愛を込めて物語に仕立て上げてくれる。

私は私の人生を生きることしか出来ない。幽霊を見たこともない。
それでも物語は奇跡を創り出して、心が癒える瞬間を優しい言葉で切りとっていく。

物語を読むって、つまりはそういう事なんでしょうね。
ではでは、今日はそんな感じです。

 

私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)

私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)