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虚飾の塔と深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』

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深水黎一郎さんの『ミステリー・アリーナ』を読み終えました。
殺人事件が起こる閉ざされた雨の山荘と、華やかなTV局のスタジオ。

二つの世界が入り乱れる虚構と虚飾の物語の結末は、一体どこにたどり着くのか?

表紙に描かれた空っぽのバベルの塔のように、飾りつけられた虚無を感じさせる物語でした。

ミステリ好きとはいつだって、誰かの脳内で考えられた『完璧な謎』に右往左往させられている生き物です。時にはアンフェアだ、なんて本気で憤ったりして。

それでもやっぱり面白い、なんて感じてしまうからミステリとはどうにも業が深いものですよね…。

 

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

 

『ミステリー・アリーナ』あらすじ

 

物語の第一の舞台は大晦日のTV局。
スタジオで収録されているのは国民的人気番組「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」。番組の中では犯人当てのミステリドラマが繰り広げられ、時間内に見事犯人とそのトリックを言い当てられた参加者は20億の賞金を手に入れることが出来る。

しかし番組が10回目を迎えても正解者は現れず、2億の賞金はキャリーオーバーで膨れ上がったまま。記念すべき10回大会で、真相に辿り着ける人間はいるのだろうか?

まずこちらが物語の表側。

そして華やかなTV番組の中では、大雨により橋が流され孤立してしまった別荘に集まった友人たちの、もう一つのドラマが語られて行きます。

衆人環視の中、一人部屋で命を落としていた別荘の持ち主鞠子。
彼女を殺めたのは誰なのか?そのトリックは?

 その答えを見出した者に、20億の大金と栄誉が与えられるはずなのですが、どうやら番組の裏でも陰謀がうずまいている...そんな多層構造の物語。

ミステリドラマの謎解きも、一筋縄ではいきません。
早く謎を解かないと、優勝者にはなれない仕組み。なのに次から次へと新たな要素が追加されて、辿り着いた答えが否定されて行ってしまうのですから...!

 

ミステリという名のバベル(この先ネタバレあり、注意!)

 

さてさてかなりのネタバレを書いてしまうと、実はこの推理闘技場で語られるミステリはゲーム「かまいたちの夜」のように分岐型で、複数の結末を持つ構造になっています。

つまり登場人物の数+1のシナリオを準備して、回答の度にルートを変更して行けば誰も正解にたどり着けない完璧なミステリが出来あがる訳なのです、理論的には。

しかし最後の最後にたどり着いた答えは正直相当苦しいような…⁉
ヒントなさすぎ!たま無理ありすぎ!

しかし、作者を思わせる司会の狂言回し、樺山桃太郎はふてぶてしく笑うのです。ひーっかかった、ひーっかかった、と。

読む人の数だけ、物語には無数の展開の可能性が含まれています。
私たちは自分の好きな物語を、自分の好きな展開を無意識のうちに重ね合わせてしまうからです。

こんなオチだったら良かったのに、なんて妄想したことはありませんか?
けれどもどんなに魅力的な舞台を作り上げても、著者がその中から選べる結末は、いつもたったの一つだけ。

確かにそれってとっても贅沢で、勿体ない事だよな、といくつもの分岐を辿った『STEINS;GATE』を思いだしたり。

さてさて、もしもあなたが謎解きゲームに挑戦したならどんなルートを選ぶのでしょうか?叙述?本格?それともまさかのスプラッタ・ホラー?

人の数だけ分岐があって、正解がある。
それって要は人生だよなぁ…なんてCLANNADみたいなことを考えましたとさ。

 

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)