森博嗣Gシリーズ11冊目、『ψ(プサイ)の悲劇』読了。
前作「χ(カイ)の悲劇」に続き、『すべてがFになる』のキャラクタが活躍する賑やかな物語である。かなり派手なアクションシーンもあり、なにより第一作から登場しているお馴染みのキャラ、島田文子さんが今までで一番楽しそうに輝いている。
その賑やかさがくるっと反転し、怖いくらいの鋭さを見せるラストもまた、相変わらずの切れ味で素晴らしい。
突然の失踪を遂げた博士、残されたその執事、主のいなくなった館で開かれる彼の思い出を語るためのパーティ、そこで発見された奇妙な小説、その夜から始まる新たな悲劇...
物語の展開は非常にオーソドックスなのだけれど、最初から軽い違和感があり、その仕掛けは更に思いがけない場所へと着地する。安定の森節である。
時系列としては前作「χ(カイ)の悲劇」の未来の話になるのだと思われ。
ただ物語としては完全に独立しているのでGシリーズ未読でも楽しめるはず。
とはいえこの『悲劇』シリーズは後期三部作、なんて表記がなされている。
「χの悲劇」「ψの悲劇」そして最終巻「ωの悲劇」(読めるのは2年後?)。
クイーン三部作へのオマージュだと思われるので、せめてこの三部は全部読んだ方が更に楽しめる。そして第一作「χ」を楽しむためにはGシリーズから登場した新たなキャラクタを知っておく必要が。更にGシリーズは短編集「レタスフライ」収録の「刀之津診療所の怪」を読むと更に楽しめたりして。そして「刀之津診療所の怪」のラストを理解するためには「今夜はパラシュート博物館へ」収録の『ぶるぶる人形にうってつけの夜』を読んでおく必要が。更にS&Mシリーズの「今はもうない」を読んでおくとラストをもっと楽しんで…
えーい、Gシリーズ完結まではあと2年、全部読んどけ!
森作品は全てが複雑に絡み合っているのである。
今から全部一気読みできる幸福な読者が、私はちょっぴり羨ましい。
(なにこの恐ろしい合本...5082KBだと...⁉)
森博嗣氏の1996年のデビュー作、『すべてがFになる』から既に22年。
その年に生まれた子どもが大学を卒業するような歳月である。
それでも未だに真賀田四季は作中世界に影響を及ぼし続けている。
S&Mシリーズから森作品に侵食され続けている私もまた、影響を受ける世界の一部だ。
もはや心のどこかに犀川と萌絵が存在するスペースが開けられているような気がする。
こんな物語と出逢えることは稀であり、最高である。
あと2年、たった1冊で本当にGシリーズは幕を閉じてしまうんだろうか?
それが最後の物語になってしまうのだろうか?
どうかゆっくり、長く引き伸ばして、引きずりまわしてね…と今は願うばかりである。だって萌絵と共に大人になったんだもの。
そういう作品があることは、やっぱり幸せで。
ただし恐ろしいほど時間が吸い取られていくな、と大人になった萌絵が活躍するGシリーズを再度読み返しながら震えたのでした…
いまいち不人気なVシリーズだけど、萌絵好きなら「捩れ屋敷」は是非読んどいてほしい!更に「黒猫の三角」「恋恋蓮歩の演習」はミステリとして最高、その上恰好いい。そしてラストの驚きはネタバレ禁止で付き合ってきた読者だけが得られるもの。
やっぱり全部読んでおきましょう、恐怖の合本もあるよ!読んでも読んでも終わらないぜ...