おのにち

おのにちはいつかみたにっち

『ゴールデン街コーリング』-街と酒と本の物語

スポンサーリンク

馳星周さんの『ゴールデン街コーリング』を読んだ。

主人公は北海道から上京してきた大学生、坂本俊彦。
本が好きで、コメディアンにして書評家の斉藤顕に憧れを抱きファンレターを出す。
斉藤から返信を貰ったことがきっかけとなり、彼が店主を勤めるゴールデン街の冒険小説協会公認酒場、『マーロウ』でバイトをすることになるのだが、地上げを巡り思わぬ事件が起きる…というストーリー。

物語の主軸はゴールデン街で愛されていた男を殺した犯人は誰か?というミステリーなのだが、街の様子や酒場の風景、人々のエピソードがやたらリアルで詳細で、臨場感に溢れている。酒場「マーロウ」も、癖のある店主斉藤も、主人公の友人や愛すべき客たちも、まるで現実に存在しているかのようなのだ。

前情報なしで読み始めた私は、物語の途中客として登場する「本の雑誌」代表、目黒孝二氏からなにか書かないかと主人公が誘われるシーンでようやく理解した。

これって、作者の実話を基にした自伝的小説なのか!

 

kadobun.jp

 

 

ゴールデン街コーリング

ゴールデン街コーリング

 

 

作者馳星周さんは私より年上だけど『本の雑誌風雲録』を読み、書店への搬入を手伝う助っ人に憧れていた、なんてエピソードを読んで深く頷いた。

私もかつて、本の雑誌のアルバイト募集に憧れていたもの。
目黒孝二や椎名誠、沢野ひとしという懐かしい名前に頬が緩んだ。
あのおっさんたちのめちゃくちゃな友情が好きだった。

素人たちが集まって、取次ぎを通さない直販というシステムで雑誌を作り、それが日本中で売られる人気雑誌になってゆく。
創刊に携わったメンバー達も時の人となり、やがて仕事に忙殺されるようになるがそこにも葛藤があり…という本の雑誌を巡るエッセイ『本の雑誌風雲録』は「本の雑誌」や「怪しい探検隊」にかつてハマった人なら懐かしく読める一冊だと思う。

 

本の雑誌風雲録[新装改訂版]

本の雑誌風雲録[新装改訂版]

 

 

ちょっと寄り道してしまった。
また『ゴールデン街コーリング』の話に戻る。


北海道から大学進学のために上京、冒険小説協会の機関誌を書き、酒場でアルバイトをしながら将来は文芸編集者に憧れていた青年は、大学卒業後に小さな出版社に勤め、やがてフリーライターの道へ。

30歳手前で小説家デビュー。処女作「不夜城」は大ベストセラーとなる。

そんな馳星周が18歳から青春を過ごした街、新宿ゴールデン街。
そして大きく影響を受けたであろう人物、マーロウの斉藤顕こと「深夜プラスワン」経営者、内藤陳。

 「深夜+1」は今でも営業を続けているらしいのだが、勿論かつての経営者内藤陳はもういない。

 それでも、馳星周が本には書けなかった破天荒すぎるエピソードは、今でもこの店のカウンターで時折語られているのだろうか?

人は流れ、街は変わる。それでも誰かが覚えていれば、残るものもあるのかも知れないよな、と水割りを傾けたい気分になりました…。

 

食べログに70代の内藤陳さんと会ったお客さんのエピソードがありました。70代にしてこの皮肉っぷり!

tabelog.com