おのにち

おのにちはいつかみたにっち

突っ込みどころが多すぎる-『Iの悲劇』米澤穂信

スポンサーリンク

米澤穂信さんのミステリ『Iの悲劇』を読みました。

少年少女のほろ苦いミステリでは不動の地位を築く米澤穂信が挑む、過疎地域再生プロジェクトミステリという地味な大人向けジャンル…なのですが、うーむ。

オチありきで書きだしてしまったのかな?
確かに思いがけない結末なんですけど、でも現実的にはどう考えてもあり得ない。

『氷菓』も『満願』も『インシテミル』も大好きなんですけど、今回ばかりはちょっと…

プロットの粗さが目立つ、残念な作品でした。

 

物語の舞台は南はかま市という架空の市に存在する小さな集落、箕石(みのいし)。
南はかま市は9年前に4つの自治体が合併してできた、人口6万人強の市です。

合併により広大な面積を擁することになった市ですが、支援センターがない、砂防工事が終わっていない地域があるなど、財源は不足している様子。

箕石はそんな南はかま市の市街地から離れ、山道を渓流沿いに進んだ先にある山あいの小さな集落です。

家はわずか20軒ほど。しかし土地の不便さや住人の老齢化により、人口は少しづつ減っています。6年前には最後の住民が山を下り、今は無人に。

 

しかし新しい市長はそんな箕石集落の復活を公約に掲げて当選。

死んだ村に市の外から人を呼び、定住を促して失われた活気を取り戻すーそれがみのいしIターン支援プロジェクト。

そして南はかま市市職員であり、事実上のみのいし復興プロジェクトリーダーである甦り課職員、万願寺邦和がこの物語の主人公であります。

そして箕石の地権者と交渉し空き家を貸す契約を結び、それを定住希望者に格安で提供、新生活全般をサポートするのが甦り課職員、たった3名に課せられたお仕事!

 

…ちょっと業務量多すぎじゃないですか?

 

 

さて、6年間無人で道路も建物も傷んでいること間違いなしの箕石。
まずは人が住めるように復旧すること、それから家を貸し出せるように地権者と交渉する必要があるのですが…この物語ではわずか一行。

 

『地権者と交渉して空き家を貸す了承を取り付けその家を定住希望者に格安で提供し』

 

ず、ずいぶん簡単に済ませやがりましたわね…6年以上放置された物件の取り扱いなのに。これ用地課泣くやつ!つか主人公の万願寺、元は用地課職員という設定でしょうに…。

 

物語の舞台、箕石では6年前に最後の住人が老齢から山を下りたので、他の物件は人が住まなくなって更に時間が経っているはず。当然修復も必要になってくるし、持ち主が既に亡くなっている可能性も高い。無人の集落に建った家、なんて使い道もない物件、わざわざ相続を済ませている人も少ないことでしょう。

相続権者を探して、相続手続きを代行して、その上で賃貸契約を結んで…

20軒ほどの小さな集落に12世帯が移住、という設定になっていますが、20軒しかない家を12軒も貸せるなんて(しかも市長の任期中、たった4年の間に)甦り課優秀すぎじゃありませんか⁉

 

  普通に考えたらここの契約や道路の修復などで一年はかかってしまうのではないでしょうか。物語の時列系としては復興を掲げた市長が当選→再選を目指す までの間なので、市長の任期、4年間の話なのは確実だと思うのですが。

 

だいたい、まずは予算を議会に通さなくちゃいけませんよね?
新規プロジェクトなのでそもそもの財源をどこから引っ張って来るのか、という話になるし。

要は過疎化した集落の再生事業なので、国の過疎地域等自立活性化推進交付金とかに申請できそうですが…

これだってプランを立てて、申し込みして、予算が降りるの早くて翌年だよね⁉
だいたいお金を国から引っ張って来れれば終盤で問題になる市の財源不足なんて事態は起こらないはずでは?

とはいえ今時過疎地域の支援に補助金使わない自治体があるなんて信じられない。
南はかま市は財源が不足している設定だし。

そもそもここがヘンだし展開早すぎなんですよ米澤センセー!

前述のとおり物語の終盤には、箕石集落の維持管理にお金が…なんて話が出てくるのですが、普通に考えたら管理費よりも『住めるようにする』初期投資が一番大変だと思います。

そこでガッツリお金を使ったはずなのに、なぜ維持管理でそんなに騒ぐ⁉
そして市長はなぜ実際に始めてから掛かるコストでグタグタ言ってんですかね。

予算議会で通したんでしょうが⁉どこの世界に実際に運営してからじゃないと経費すら計算できない自治体があるんですかーー⁉

しかも問題になるのが除雪やらバスやら、地味なお金の話ばかり。
そのどれもが住民を雇って依頼すれば済む話で…それで雇用も解決だし。

あとは住民の細かなトラブルに、いちいちわざわざ万願寺が車で出向いていくのも気になります。新集落だし、かなり実験的な地域なので地域おこし協力隊とか雇ってそこに住んで見守ってもらうのが一番なのでは?特別交付税あるんだし。

 

しかもこんだけ大掛かりなプロジェクト、一期限りで畳んだら市長の再選なんて無理に決まってんでしょうがーー!

 

 

 えーと色々無理な話でクラクラしながら読み終えました。

とんでもミステリならまだいいんだけど、米澤センセの筆致っていつも冷静で、登場人物もすっごく頭が切れるぞ、という設定なので余計モヤッとしちゃうんですよね。

普通の主婦である私が読んでもこれだけ突っ込みどころが見つかったので、実際に過地地域支援や定住希望者への賃貸管理に携わってる職員さんならモヤモヤ度は倍増だと思います。

もちろん貸家型のIターンって、実際にトラブルの多い分野ではあるんですけどね。
田舎に住みたいと夢を抱いてきた人に家を貸して、その人がキレイにリフォーム終えた頃になってやっぱり返せ、とかさぁ…怖い!現実も怖い!

 

 それにしたってこれはねーわ、的なミステリでした。
もうちょっと、交付金とか考えてから書きましょう?

あるいは全部が市長を蹴落とすための策略だとしたらあり得るのかな?
とにかくうむむむ…

 

Iの悲劇

Iの悲劇